電撃バップ
それにしても湧き出す様に次から次へとモンスターが押し寄せて来る。
圧倒的に敵を蹂躙しているラヴィも返り血や体液でドロドロに穢されて、ブルッと体を揺すると周囲に汚物を撒き散らす程だった。
剛皮亜竜のジャケットから伸びる金毛も緑に染まって異臭を放ち出している。
その隣で踏ん張っていたワンジルなどは、呪魂の超力を得たとはいえ、細かな傷を沢山作って満身創痍になっていた。
狭い急所を狙って上手く立ち回っていたが、硬い大岩蟹を仕留め続けた最初の短槍は刃が折れてしまい、新しい物と交換している。
後ろからセレミーが二人に向かって高級ポーションをぶち撒けて傷を回復させながら、
「もう少しでモンスターの切れ目が出来るから頑張れ!」と発破をかけた。
確かに夜目の効く者が冷静に通路の奥を見ると、沸き返る大岩蟹の群れにも限りが有る事が見て取れた。
「わたシュ、いグ」
巨大化した牙が邪魔をして何を言っているのが分からないラヴィだが、ジェスチャーから突出するつもりなのが理解できた。
これまで前線を守って耐えてくれていたが、ここでモンスターを一掃してから少し休息を入れるのも良いかも知れない。
それだけの実力が彼女には有ると誰もが認めていた。
「余り先に行き過ぎないで、何が有っても直ぐに引き返す様に」
イザの声を借りたスイの指示が飛ぶ。
グイッと親指を立てながらも振り返らずにダッシュしたラヴィは、次の瞬間、身長と同じ位の高さに跳躍した。
髪を天井に掠らせながら降下と共に両足を思い切り突き出すと、左右で一匹づつの大岩蟹を踏み潰す。
体液を撒き散らす蟹に乗ったまま、淡く発光するベフィーモスを一閃すると、まるで野菜でも斬るかの様に易やすと周囲の大岩蟹達を斬り断った。硬く重い甲羅が跳ね飛んで、避け損ねた水狼を潰す。
あらかた身近の敵を斬り伏せると、更に弾ける様に跳躍して前方に攻め入り、イザ達からは見えなくなった。
イザはラヴィの抜けた穴をガーゴイルとの連携で必死に埋める。
ワンジルが仕留め損ねた大岩蟹や水狼を鉄木の盾で受け止め、鉄パイプの短槍や旋回飛行するガーゴイルの急降下からの一撃でトドメを刺す。
その合間にドゥーの呪術支援を受けて奮闘する事暫し。
押し寄せる敵を何匹仕留めたか分からなくなり、ガーゴイルを大爪で真っ二つにした大岩蟹をイザの鉄パイプで討ち取った所で、モンスターの猛攻がピタリと途絶えた。
へたり込みたいのをグッと抑えて、セレミーから渡されたポーションをグビリと飲み干す。喉を焼く熱い液体が食道を通って胃に広がると、身体中に出来た小さな傷が塞がり、疲労が少し癒えた。
フーッと息を吐き出し一息つくと、隣に居たワンジルが良くやったと肩に手を置いてくる。
弛緩する空気の中で、大分前方に進んでいるであろうラヴィを心配したセレミーが、
「ちょっと見て来るからここで待っていて」
と言い、皆が止める間も無く走り出した。
暗い通路の中でカンテラが照らすのは、ラヴィが斬り伏せ、握り潰し、蹴り飛ばし、噛み砕いたモンスター達の残骸。
その暴力の跡を辿っていくと、徐々に周囲の様子が変わって行った。
顕著なのは壁や床を構成する根塊が生き物の様に熱を持ち、体液状の内分泌物を循環させている事。
更にはピクピクと小さく蠢く部分もあり、生物の体内に居るという居心地の悪さに悪寒が走る。
暗闇の中、背後に蠢く根塊の気配を察知して思わず早足で突き進むと、前方に収縮し元の大きさで蹲るラヴィの背中を見つけた。
嬉しくなって思わず声を掛けそうになるが、どうやら様子を伺っている様に見えたので、カンテラのシェードを絞ると静かに近づき後ろに従って身を屈めた。
気配を察して振り向いたラヴィがユックリと指をさす先には、来た時には無かった大きな空洞が有る。
滝のような落水音に混じって、時折バシャリ、ドプンと水を撥ねる大きな物音だけが暗闇に響く。
目が慣れた頃、空洞の底には水が溜まり、そこにシーサーペントや鰐竜魚などの大型魔獣が、根塊の密林に絡まる様に蠢いているのが見えた。
そこに海水であろう大量の水が注がれていき、逃れようのないモンスター達を容赦無く攪拌していた。
このまま行くと、満水時には大型魔獣が奥の核部屋まで流れ込んで来るのではないか?鰐魚竜などは通路に詰まりそうだが、シーサーペント位ならスムーズに通りそうに見える。
更に蠢く根塊は力強く伸縮を繰り返しており、まるで動物の心臓の様に見える。二人にはこの空洞全体がポンプの役割を果たす様に感じられた。
この規模の空洞がポンプと化した場合を想像してゾッとする。
想像もつかない超圧力によってモンスター達が奥の部屋に射出されたならば、小さな人間などに耐える事は不可能だろう。
二人は改めて質量の驚異を噛み締めると、お互い何も言わずに走り出した。
セレミーが空洞の淵で立ち止まると、その横をトップスピードまで疾走したラヴィが追い抜く。
そのままの勢いで淵の周囲をグルリと一周すると、根塊の壁面を足場に大回りしながら少しづつ降下して行った。
狙いは単純ーー巨大ポンプに穴を開ける事ーー水面まで後少しの位置に走り降りると、海水の瀑布によって攪拌されていたシーサーペントが鎌首をもたげて襲い掛かってくる。
ポンッとジャンプしたラヴィがシーサーペントの三角頭に飛び乗ると、その重量で沈み込む。その頭を足爪でギリリと掴みながら機を伺うと、水面に着く直前で蹴り飛んだ。
蹴られたシーサーペントは頭を砕かれて落水し、蹴り上がったラヴィは大剣べフィーモスを振り抜くと縦一文字に壁を切り裂く。
激突するような斬撃に深々と断ち割られた根塊は、しかし、圧倒的な厚みによって穴が空くどころか更なる根塊を垣間見せた。
その切れ目に両足を捻じり込むと、再度巨大化したラヴィの剛力に根塊が無理矢理こじ開けられて行く。そこに露出する根塊を開脚姿勢のまま再度切り裂いた。
その間にもどんどん水嵩は上がりラヴィを濡らす。水流に乗って裏返されていた鰐魚竜がゴロリと上下を正すと、穴空け作業に集中するラヴィ目掛けて突進してきた。
バシャン! と大きな音を立てて尾ビレが海水を叩くと、その質量によって大量の飛沫があがり、振動が辺りに響く。
だがラヴィは背後を振り向く事無く、盛り返す根塊の穴空けに集中していた。
大型ナイフの様な牙がビッシリ並んだ鰐魚竜の顎がラヴィの背後に近付く。
ーーその時ーー
セレミーは放物線を描いて鰐魚竜に向かってダイブしていた。
両手には金輪の魔具〝雷双喚〟が、突き出した前腕にはルーン文字の魔墨が輝く。
特別な魔力が込められた金輪とルーン文字が一条の光となって暗闇に落ちていく。
ラヴィの背中まで後少しに迫る顎、大剣べフィーモスが分厚い根塊を斬り抜けたその時、セレミーの両手が鰐魚竜に到達した。
巨大な頭部を金輪で挟み込む様に触れた瞬間、雷双喚から強烈な光と共に電流が放たれる。と、同時に魔墨のルーン文字が魔力を放出し、鰐魚竜の頭蓋骨の中に雷精が召喚された。
〝雷精爆誕〟
雷精ブリッツが超高熱の産声を上げた頭蓋骨は爆ぜ、脳漿が沸騰して瞬時に蒸発する。
雷精は甲高い爆音を上げると、瞬時に生命を燃焼させて消滅した。
余波を受けたセレミーが弾き飛ばされる中、神経を走る電流によって鰐魚竜の全身が硬直し、波打つ水面に腹を浮かべて絶命した。
弾かれたセレミーは鰐魚竜の白い腹に器用に着地すると、追ってきたシーサーペントの噛み付きを避けて更にジャンプする。
猫人族ならではのしなやかな跳躍で根塊の壁に張り付くと、即座に爪を立てて登った。
ラヴィの空けた穴には海水が流れ込み、その傷口に尚も刃を立てて広げると、とめどもない瀑流となって排水されていく。
その流れに押し付けられながら力任せに体を引き上げて穴から脱出したラヴィも、べフィーモスを担ぎ直すと爪を立てて壁面を登り出した。
振り向きもせずにひたすら急ぎ登る二人の下では、シーサーペント達がのたうちながら抵抗するが、為す術も無く空洞の外に排出されて行く。
空洞の淵に辿り着いた腕をセレミーが掴み上げ、ズルリと這い上がると流石のラヴィも大の字になって荒い呼吸に胸を揺らせた。
「やったな」
久しぶりに発した声は粘つく喉に引っかかる。魔力を使い果たしたセレミーは微笑むと、眩暈を覚えて丸くなり、一瞬気を失う。
しばらく二人の呼吸音のみが辺りを支配する。
ーーゾワッーー
異様な気配に総毛立つ。
寝転がり、緩んでいた二人は弾かれる様に起き上がった。同時に空洞の淵に這い進むと下を覗き込む。
空洞は全てのモンスターと海水が排出されて萎み始めていた、そして異様な気配が放たれているのはラヴィの空けた穴からだと分かる。
物凄い気配を纏った何物かは、真っ暗な穴の中から鞭のような黒い触手をうねらせて出てきた。
〝アレはヤバイ!〟
正体を確かめる事無くダッシュする、本能が警鐘を鳴らしている。
背後に刃を突き付けられた様な危機感に押され爆走した二人はイザ達の待つ部屋に転がり込む。
「どうしたの?」
取り囲むイザ達に背後から、
「下がって!」
ミストの叫ぶ声が届いた。
必殺"Blitzkrieg Bop"セレミー・ラモーン面目躍如です。
セレミーとラヴィは義兄弟(姉妹)の契りを交わして手の内をさらけ出し合っている事に。気の合う二人は既に以心伝心の仲となっています(本編で書いて無いのにイキナリそういう事に)
文量が増えて、ファング参戦は次回持ち越しになってしまいました。




