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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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同族内共鳴

 〝ドライアドノ仔ヨ、イルノハワカッテオル、コチラニコイ〟


 強烈な思念波が静寂に包まれたジャスティス号に放たれる。

 全員気絶状態の船内で唯一覚醒していたスイは、


『やっぱりバレたか、分かったわよ、大人しくそっちに行くわ』


 拗ねた様な念話を送ると、イザに『バレてるわ、起きなさい』と指示を出す。


 スイの草盾の服が膨張して全身を隈なく覆い、頭から大きなマスクを被せられた格好のイザは、嵩張る服に難儀しながら立ち上がった。

 咄嗟に展開された草魔法と同時に指示を受けて、気絶した振りをして様子を伺っていたが、相手にはバレバレだった様だ。


 周囲を伺うと、濃霧の中で全員が倒れ伏し、等しく粘液に穢されている。だが生命に異常がない事は呼吸をみるだけで分かる、その事に一安心した。


 〝ダイブニンゲント交ワリガ深イヨウダナ、ドライアドノ仔ヨ、名ハナントイウ?〟


 頭上に突き出て来た黄緑色に発光する巨大な茎は、イザの側まで近づいて来ると先端に巨大な花を咲かせた。真っ赤な花弁は一枚一枚がイザの身長よりも長い。


『失礼ね、名前を聞く時はまず自分から名乗りなさい! 』


 強大な相手に対して珍しく強気のスイ、その様子にイザは、今まで力に勝る相手には下手に出ていた彼女にしては珍しいと思った。


 〝失礼シタ、ワレノ名ハ浮島型侵略兵器0-4、シンカイ族二改造サレタ木精ノ同胞ダ、元ノ名ハ消サレテシマッタ〟


 イザは驚愕した、目の前の島が丸々兵器であり、話に聞いた深海族の手によって作られたという事に。そして同時にスイの気安い発言に納得する、基となる存在が同族だからあれ程気安く話し掛けていたのか。


『そうーー私はドライアドのスイ、こっちは人間のイザよ。で、そのお仲間さんが何の用で私達にちょっかいを出すわけ?』


 〝ワレハシンカイ族二アヤツラレテイタ、チジョウニアガッテ暴食、膨張、蹂躙スルコトノミガワレニアタエラレタ使命。ワレノ自我ハ浮島二封印サレテイタガ、聖ナル光ヲトリコム事二ヨッテ封印ガトカレタノダ〟


『それはオメデトウ、良かったじゃない』


 〝ヨカッタ、ホントウニヨカッタ。ダガヒトツ問題ガアル。我ト聖ナル光ガ完全二ヒトツトナル為ニハ、本体ヲ休止サセネバナラナイ〟


『そう、ならチャッチャとやってしまいなさい』


 〝ソウハイカナイ、本体ガ休止シテワレノ支配カラ離レルトキ、防衛装置ハ異常ヲ感知スルダロウ、ソノ時ハ核タル我ヲ滅スルヨウニ設計サレテイル〟


『何?その間護衛して欲しいってわけ? 』


 〝ソノトオリ、ハナシガ早クテタスカル〟


『そちらの事情は分かったわ、でも何で私達がやらなくちゃいけない訳? 巻き込まないで欲しいわね』


 〝ソレハーー若キオマエニハ分カラヌノモ仕方ガナイーー説明シヨウーー人間、オマエハ少シ寝テオレ〟


 そう言うと一層濃い霧がイザの周りに絡みつく。スイの操作で突然マスクの前面が開くと霧を吸い込んで、イザはたまらず気絶したーー



 ーー目が覚めた時、イザは平装に戻ってうつ伏せに寝ていた。


 かなり長時間その姿勢だった様で、頬っぺたに甲板の跡がついていて、口の中が苦い。涎を拭きながら起き上がると、真っ赤な花弁と光る茎は無くなっていた。


『他のメンバーを起こして浮島に向かうよ』


 スイの念話は有無を言わさぬ気配があった、疑問だらけのイザは『なに? どーなったの?』と聞くが『うるさい! 私が毒を中和するからとっとと動きなさい』と取りつく島もない。


 何時にも増して語気の強いスイの中に、詳細を説明出来ない事に対する後ろめたさが感じ取られた。


 しょうがなく追及をやめて、身近に居たセレミーとラヴィ、ドゥーとワンジルを起こす。

 いつの間にか回復水の応用で解毒水を作れる様になっていて、手ずから直接口に流し込んでいく。

 さっきのにがみの正体はこれか? とスイに聞くと、『そうよ』と得意気に答えた。気絶している間に浮島の核から製法を伝授されたらしい。

 消費された魔力から推し量るに、それ程強力な解毒作用が有るとは思えなかったが、霧の毒と相性が良いのか皆直ぐに回復していく。


 その後スイの指示で操舵室のホーン船長、船員長、ミストとファングも起こして全員を甲板に集合させると、


「これから浮島内部に向かう」


 イザの声を借りたスイが宣言した。その場に居た全員が「は?」と呆気に取られる。


「浮島の内部ってどういうこと? こんな所とっととズラかった方がいいわ」


 不機嫌なセレミーが腰に手を当てて抗議する、粘液まみれの手は糸を引いており、見るからに気持ち悪そうだった。艶のあった黒髪もベットリ固まって見る影も無い。


「それはそうなんだけど、このまま逃げ出したら浮島の根塊で即座に攻撃されるらしい」


イザも困り顔で答える。言いながら自分でも事態を把握できていない為、何とも居心地が悪い。


「黄魔石を取り込む間、浮島の核を守ったら解放されるって言われた」


 船長達の手前おおっぴらにスイの事を話せないイザは、皆が寝ている間に唯一覚醒していた自分が、浮島の核と交渉した事にしていた。


「何から何を守るって?」


 頭のこんがらがったラヴィが思考に顔を顰めながら問う。


「浮島の操るモンスターから浮島の核を守る、核の有る部屋は人間で言うと体内に当たるから、浮島の触手は入り込めないみたい」


「何で浮島が浮島の核を攻撃するんだ?」


 非常にこんがらがった状況を説明するのに時間が掛かったが、黄魔石を取り込んだ核が浮島の呪縛から解放された事、だが完全に取り込む為には休止しなくてはならなくて、核が休止すると浮島本体が攻撃しだす事、だが浮島の根塊は手が出せない為操るモンスターが襲ってくる事、それを守り切れば解放されるし、出来なかったり拒否すれば即座に殺される事を根気強く説明した。


「まあ色々言いたい事は有るが、これを見たら君の言うことも納得できる」


 そう言って船長が指し示す先には密集する根塊にポッカリと空いた道があった。


「でも核を守ったら解放されるという確証がないですね」


 ドゥーの後ろからジトッとこちらを見るワンジルが呟いた。皆も内心その通りだと思ってイザを見る。


「確証などは無いけれどもやるしか無いんです。核がやられた時点で次の標的は僕達なんですから。さっきみたいに吸い込まれて今度こそ根塊の餌食になるか、うまく途中で脱出しても青龍像の結界はそうもたないでしょう?」


 今の時点で黄魔石の残り魔力はかなり少ない筈だった、その事も含め時間に余裕は無い。議論の時間も勿体無いと皆が納得し、それぞれに準備を始めた。


 同行しようとする船長を船の保持に必要だからと説得し、イザ、ラヴィ、セレミー、ドゥー、ワンジルにミストとファングを加えた臨時パーティーは身支度を整えると甲板に集まった。


 ワンジルなどは呪言の短槍を束にして背負い、盾や短剣まで装備している。そこにドゥーの呪術道具一式を背負っているため、相当な重荷のはずだが、持ち前の体力で平然としていた。


 ラヴィはそのままの格好だったが、船長から借り受けたクロスボウを楽しそうにいじっている。全長がイザの身長程もある魔導弓は相当な威力を秘めていそうだ。


 セレミーはよっぽど気持ち悪かったのか、新しい服の上によく拭き取った黒の革鎧を付け直して来た。それでも服に染みができており、不機嫌な顔が晴れることはない。


 不機嫌な理由はもう一つ、同行する事になったミストとファングだ。

 危険な浮島内部行きに護剣士たるファングは反対すると思っていたが、ミストの「行きますよ、準備を」の一言に反対もせずに付き従う。二人の関係性には謎が多い。


「船の危機に際して、乗客の皆さんに全てを託すのは心苦しいですが、宜しくお願いします」


 居残り組の船長以下、解毒された船員長はじめ船員達が整列して見送る。


 自身が行けなくなって、せめて腕利きの船員達を連れて行ってくれと頼み込んだ船長だったが、中途半端な戦力は却って危険だし、事がすんで直ぐに船を動かす為には、残り少ない船員は貴重だろうと丁重にお断りした。


 その代わりとして、船長の操るガーゴイルが4体同行する事になった。


 石の肌は風雨に磨かれてザラつき、猿を模した顔には牙が生えている。直立すれば2mにもなる巨体の背を丸めて大きな羽根を背に畳み込む。そこにはありったけのポーションと矢弾、持久戦にも耐えうる携帯食料と飲み水が括り付けてあった。


 先行するガーゴイルの背中を見ながら黙々と浮島を行く、一行の周囲は触手から発せられる緑の光で意外と明るかった。


「もう少し先に核の部屋が有るようです」


 案内するイザを先頭に広間を抜け狭い通路を潜り抜けると、目の前には燦然と輝く星の様な浮島の核が鎮座していた。

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