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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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海流VS魔導凧

 騒然となる操舵室、大型船にとって操船不能ほど恐ろしい事はない。慌てた新人船乗り達はやたらと慌てて躓いたり、大声を上げては実のない動きをしている。


 船員長は場の雰囲気を察して「落ち着け! 」と声を上げるが、自身も泡立つ心を表に出さない様に歯を食いしばって耐えていた為、くぐもった声は何時もの様には響かなかった。


 大型帆船であるジャスティス号は、強風もあってかなりの推進力を得ている。にも拘らず舵が効かないという異常事態にどう対処したものか、歴戦の海の猛者たる船員長にも経験の無い事だった。


 その船員長から報告を受けた船長は、船員から操舵桿を奪うと左に思い切り回す。

 舵が動く手応えが伝わり、船は方向を変えようとするが、流れの力が強すぎる。無理に方向転換しようとすると転覆する危険があった。

 根気強く徐々に船体をズラして行き海流から脱出しようとした所で、新たな流れが生まれ結局同じ方角を向いたまま進む事になってしまう。

 恐ろしい事にスピードだけは徐々に上がっていた。


「なぜだ! この海域でこんなに激しい海流など聞いたことがないぞ! 」


 船長の言葉に答えられる者はいない。船底に張り付いた海魔像の視覚を通して周囲を見回しても特に異常な点は見つけられなかった。


 船長が右手の触媒を介して魔導マストに干渉すると、巨大な帆に風精が集められて、船体の前方に巨大な凧状の可動マストが打ち上がる。十数m打ち上がった所でバンッ! と開いた魔導マストを感知した船長は又もや思い切って舵を切った。


 大きく傾ぐ船体を魔導マストが支えてバランスを取り、捻れた船がギギギギギッと大きな音を上げる。更には魔導マストに集められた風精の力を推進力に変えて、思い切り海流を斜めに切って進んだ。


 かなりのスピードで海流を横切るジャスティス号、船員は歓声を上げて喜び合ったが、ホーン船長と船員長だけは浮かない顔に冷や汗をかいている。


 二人は声に出さなかったが、重大な問題に気付いていたーージャスティス号は海流を横切りながら大きく円を描いて航行している、まるで渦潮に囚われた小舟の様に。


 只々打つ手も無く流されるしかない。ジャスティス号は今や、台風並みの追い風を受けた様なスピードで大きな周回軌道を帆走していた。

 恐ろしい事に、それは乗組員の誰もが意図しない、操作不能の暴走だった。




 ドゥーとワンジル以外の一行は一先ず引き揚げた甲板室から外を眺めていた。

 船は快調に航行しているように感じられた、船首像も低出力ではあるものの充分な結界を生成しており、モンスターの襲来を妨げている。


「お疲れさん、魔力に限りがあるとはいえ一先ず安心みたいだね、二人とも少し休むといいよ」


 船首部では素焼きのコップを二つ持ったイザがドゥーとワンジルに手渡しながら労いの言葉をかける。


 受け取ったドゥーは笑顔を見せるとあったかい甘煮汁を啜る。程よい甘さと温かさが染みて、突然の重責からの解放感にホッとため息を付いた。

 暫しの休憩後、隣のワンジルに手を取られ立ち上がると、冷え込む船首部から避難する様に甲板室に向かう。


 かじかんだ手足は容易には動かなかったが、ワンジルがずっとさすり続けてくれたお陰でジンワリと温かみを取り戻して行った。


 振り返ると青龍像は頼もしい聖光を発し続けている。

 ワンジルが指示を受けて以来、急ピッチで簡易的に施したドゥーの呪術によって、低出力ながら最小限必要な退魔結界を維持し続ける事に成功していた。この分なら三刻と言わずもう少し持つかも知れない。


 満足感に頬を緩ませて甲板室に歩き出したドゥーは、船体後部から歩いてくるミストと庇う様に付き従うファングを見つけた。

 激しい風に巻かれながら懐に巫女を庇って歩くファング、それに一切気を配らず無心に歩くミストの姿は、些か思いつめた様な険しい表情をしている。

 濃霧に霞む甲板でハッキリ視認したわけでは無いが、金髪をなびかせて近づいて来る雰囲気は何処か急ぎ足で余裕が無かった。


 巫女というのは良く分からない立場だったが、船長の話だと相当身分の高い人種らしい。そんな自分とは無関係な程に位の高い人間ながら、先程の共闘以来何故か共感を覚えていたドゥーは空いた方の手を上げて二人に挨拶を送った。


 それに全く反応を示さないミストは近づいてくると甲板室の前で立ち止まり、船首の先、霧に煙った真っ白の海を睨み付けて仁王立ちになる。


 バッシュッ!


 船首部から魔導マストが射出されると、瞬時に広がり船を揺らした。一気に加速する船にドゥーは転びそうになるが、手すりを掴んだワンジルの支えを受けて堪える。

 そして少しでも安全な船内へと甲板室に飛び込んだ。


 今だ外に居るミストを見ると、まるで予測していたかの様に揺れに反応して微動だにせず、激しい飛沫に濡れながら屹立して前を見ている。


 見兼ねたファングは激しくなる航行と強風から庇う様に無理やりミストを抱えて甲板室に飛び込んで来た。


「無駄よ、私達では敵い様もない者が来る」


 ズブ濡れのミストは激しく揺れる船体を掴んで一人呟く。


 聴覚に優れたセレミーは眉をしかめつつ、


「なに縁起でもない事言ってんの、辛気臭い事言う奴は私が海に放り込んでやる! 」


 と言ってミストを睨み付けた。


 そんな一行のゴタゴタを他所に船は益々加速して行き、暫く後に〝ドドドドゥン! 〟と盛大な擦過音を立てて何かに船体を擦りつける。


 そして見る見る減速して行き、先頭を何かにぶつけた様な音を立てながら突然止まった。


 突然の出来事に慌てて甲板に飛び出す一行の目の前には、霧に霞んで端まで見えないが広大な島の台地が広がっていた。


 青龍像の結界に阻まれて聖光の範囲外までしか近づいて来ないが、陸地から伸びた緑と白の膨大な数の触手がミッチリと絡み付いている。それらは瞬時の出来事だった。


 慌てたドゥーは結界の範囲を広げようと青龍像に干渉するが、肩に手を置いてきたミストに「無駄な事は辞めなさい」と呟かれて思わず呪術の行使を止めてしまう。


 一際大きな触手、緑の光に包まれた浮島の根がジャスティス号の上に被さって来る。


 結界に阻まれて他の触手と同じく一定の範囲から近づけ無かった緑の根が一度明るく光を放つと、黄緑色の眩しい光を纏って結界の中にも侵入して来た。


 逃げ惑う者達を無視して甲板に着地した根は着くと同時に液状化して甲板に大量の粘液が溢れる。その際高濃度の霧がジャスティス号に纏わり付いた。


 強烈なスタン効果のある粘液と濃霧に包まれたジャスティス号の一同は、一人残らず気絶した。

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