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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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聖なる球根

 緑と白の根塊で覆われた浮島の底部中央は下に突き出す様に山なりのシルエットをしていた。


 そこに近づく巨大な影、黄魔石を飲み込んだシーサーペントは体が千切れる程激しくのたうちながら逆さに突き出た山の頂を目指す。


 灰色に混濁する海を掻き乱して、狂った様に泳ぐシーサーペントの喉はただれ、黄魔石からの光が漏れ出す程に所々穴が空いている。その中心部に居たはずのダートなどは液状化して流出し見る影もなかった。


 山の頂がシーサーペントを迎え入れる為に根塊を解すと、中心部へと続く穴がポッカリと口を開ける。


 すんでの所で穴に滑り込んだシーサーペントは、黄魔石を中心にとぐろを巻いて聖光の害が根塊を傷つけるのを防ぐと息を引き取った。


 穴を形作る根塊は元シーサーペントであった巨大な肉団子に密着すると、まるで消化物を運ぶ腸の様な蠕動運動で浮島の中心部へと送り込む。

 全ては予定されていたかの様にあっという間の出来事だった。


 浮島中心部、海面上の赤い花から繋がる主茎の根元である小部屋には浮島の核がある。

 その直径2m程もある巨大な核の前に開けられた空間に先程の肉団子が運ばれた。今だ聖なる力を放ち続ける黄魔石が肉団子の中心を熱して湯気を立てている。


 その肉団子に向けて核から透明な管が伸びると、拡がった管がスッポリと取り込む。

 湧き出る粘液が肉団子を包むと、表面が乾いて皮膜を創り出す。乾いては粘膜で包む、その作業を繰り返す内に、皮膜は表面の滑らかな絹状の袋と化して行った。


 分厚い絹袋が聖なる力を完全に覆い、黄魔石の害ある聖光を外に漏らさない様にすると、管を通して核の元に運ばれた。


 水滴型をした球根たる核、その下側から生えた無数の触手が絹の袋を大事そうに抱え込むと、核全体が緑に発光する。それに反応するかの様に袋の中で黄魔石が青龍像にあった時の様に発光した。


 袋越しにもハッキリ分かるほど輝く聖光は、緑の光に浸食されると、混じり合い、黄緑色に変化していく。


 それに連れて核自体の放つ光も黄緑色に変化していく。今だに聖光が抵抗するかの様に時折強烈な光を放つが、膨大な緑の光に抑えられて暫らくすると安定しだした。


 〝聖なる力をも手に入れた〟核は満足気に強烈な光を発すると、また平常運転に戻る。淡く纏われた光は黄緑色に安定していた。






「右舷シーサーペント二体、来るぞ!」


 海霧に視界を奪われた船員達に、海魔像を通して海中の様子を観察しているホーン船長が注意を促す。


 角度の付けられる右舷の魔導バリスタが二機、シーサーペントを迎撃する為にその姿を追うが、濃霧に阻まれて至近距離まで近寄らないと視認出来ない。


 魔導の補助を受けているとは言え、最終的な細かい操作は船員が行うため、出窓状に海にせり出した発射台には二名の船員が乗り込んでいた。


 暫く我慢しているとシーサーペントの特徴的な三角形の頭部が薄っすらと見えてくる。


「頭部狙え!ーー射て!」


 船長の号令と共にドンッドンッ!と重い発射音が続く。

 機械式にしても人には引けない程の剛弓を魔導の補助を得て引き絞る。その弓から柱の様な太さの矢が射出されると、次の瞬間には狙い過たず二体のシーサーペントの頭に突き立った。


 即死したシーサーペント達は音もなく沈んで行くが、すぐに濃霧に隠されてしまう。


 海魔像の見張りを邪魔する形となったシーサーペント達の死骸、その後ろからヌーッと浮上してきたのは、海竜の一種である鰐魚竜ガーパイクドラゴン、シーサーペントよりも太い胴体で分厚い鱗をもち、強力な顎を持つ魚竜種の巨大海獣である。


 監視の目を潜り抜けた魚竜はジャスティス号にピッタリ併走すると、巨大な帆船の半分もの長さを誇る巨体をぶつけてきた。


 超重量の魚竜がぶつかる轟音が船内に響き渡る。甲板にいた船員が一人暗い海に転落したが、誰も気付かぬ内に水狼達の群れに食い散らかされた。


 近すぎる標的はバリスタで狙うには角度が悪い。即座に追いきれないと判断した船長は海魔像二体を突進させると、動きの鈍い魚竜の側面にまともにぶつけた。


 二体の海魔像がぶつかった衝撃で海が泡立つ。船体から離された魚竜に向かい、即座に照準を合わせると、右舷側に備えられた五門のバリスタが一斉に発射された。


 巨大な杭矢が魚竜を貫くと、重い身体が灰色の海に沈んでいく。だが、後から後から湧き出すモンスター達は減る様子が無い。


 通常武装での応戦に限界を感じたホーン船長は決断を迫られた。

 傍にはモンスターの来襲をいち早く知らせてくれた巫女のミストと護剣士ファングがいる。


「ミスト様、先程の閃光でモンスターを蹴散らす事は叶いますか?」


 聞いたミストは首を横に振る。


「巫女の奇跡は莫大な魔力を伴います、短時間で繰り返すとその負荷に耐えられず、発動しない所か術者に後遺症を残す事もあります」


 代わりにファングが返答した。


 船長も魔法を使う為、あの規模の奇跡と呼ばれる程の現象を連発出来ないのは納得できた。


 残された選択は少ない、迷いを断ち切った船長は間近の船員に指示を出すと、伝声管を通して船首のドゥーとワンジルに青龍像の発動を依頼した。


 その間も次々と迫るモンスター達、高波に乗った水狼の群れが跳躍して船長の側に飛び移ってくる。


 腰のサーベルを抜きざまに水狼の首をはねると、隣の海兵に襲い掛かった水狼の背中に突き入れる。


 他の水狼も海兵達が協力して倒したが、その頃には見渡す周囲の海をモンスターに包囲されていた。


 そして次の高波に乗ってシーサーペントや水狼の群れが突進して来るのが遠間に見える。


 バリスタの迎撃も間に合わないと覚悟を決めた時、船首から発した閃光が船全体を覆い尽くした。




 モンスターの近寄れぬ結界が機能している事を確認した船長は、一旦操舵室に戻ると甲板室に連絡を取る。そこには連絡を待って待機していたワンジルがいた。


「ご苦労様、おかげでピンチを切り抜けられました。ドゥー君にもご苦労様と伝えてください」


 落ち着きを取り戻した船長が感謝を伝える。ドゥー達の活躍が無ければ今頃どうなっていたか分からないのだから、感謝してもしたりない所だ。


「有難う御座います、船長、ドゥーによると、このまま強い出力を維持すると一刻、弱めると三刻は確実に持つとの事。それ以降は保証できないそうです」


「そうですか、思ったよりも短いですね」


「はい、間の悪い事に結界の力を使っていた方の魔石が残っていたそうで、魔力はそれほど残っていないとの事です」


 重なる不運に目まいがしそうな船長に更なる悪いニュースが届く。


「船長、舵が効きません! いかがいたしましょう? 」


 知らせを聞いたホーン船長の義手が手摺を砕く音が、操舵室に響いた。

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