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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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護剣使いのファング

 ドゥーに呼ばれて食堂に集まった面々は10人掛けのテーブルにゆったりと腰掛けていた。

 イザは休む間も許されぬ訓練で火照った顔を上気させ、セレミーとラヴィは仲良く柔かに談笑する、二人は姉妹の様に仲がよくなっていた。

 ワンジルは落ち着いて水を飲んでいるが、胸ポケットを握り締めて周囲を警戒している。


 その様子を楽し気に眺めながらも、何気に周囲の注目を浴びるホーン船長は、テーブル中央に腰掛けてゆっくりと水を飲んでいた。水に付けられたフレッシュハーブの香りが心良い。


「ドゥー君から聞いたんだけど、皆さんは最近お知り合いになったんですね?」


 隣に座るドゥーを見る。当然会話は出来ていないが、二人は少しの間にボディランゲージでコミュニケーションをとっていた。


 質問する船長に首是して、セレミーが「私とイザは一年以上前に知り合ってたんだけど、他は長くても一月の付き合いね」と答える。

 男前の船長を前にしたせいか、いつもより笑顔が二割増しだ。


「そうですか、それでは私がお仲間に加わっても不自然ではありませんね、何せ代わり映えのしない海上生活が続きますので、旅の方のお話に目が無いのですよ」


 そう言って食事が届く迄の間、これまでの旅の話やタガル大陸内部の話などで盛り上がった。

 知識豊富なホーン船長は聞き上手で、どんな話題が上がっても話を合わせて、更に話を引き出して来る。


 盛り上がる話に時を忘れていると、昼食がワゴンに載ってやって来た。


 高級なランチを避け、普段船長が食べる大盛りの船員食を人数分頼んである。


 大量のふかし粒イモの上に肉たっぷりのブラウンソースがかかった皿が各人に配られた。

 真ん中の大皿には新鮮なサラダが山と盛られ、上からカリカリに焼かれた燻製肉が柑橘系のソースと一緒にかけられている。


 そのサラダを船長直々に取り分けてくれるのを恐縮しながら受け取った。


 イモの皿には直に赤ガラの実を削り入れる、流石に船長だけあって、高価なスパイスも使い放題だ。


「新鮮な野菜は船旅では貴重ですからね、私には贅沢なんですが、貴方達には物足りないのでは?」


 皆に尋ねる船長に「私達もこれで充分です、あまり高級なのは慣れてませんので」とイザが答える。


 それを聞いて嬉しそうにワシャワシャとサラダを頬張る船長は、あっという間に一皿食べ終わるとお代わりをした。

 更に粒イモを潰して豪快に頬張る、その威厳に見合わぬ食欲に釣られて皆も遠慮なく食べ始める。


 歯ごたえの残る外側を残すように外皮を薄く剥かれた粒イモは、中がトロリとクリーミーで、ブラウンソースの濃厚な旨味とあいまって絶品だった。


 美味しい食事に話も弾み、船長のリップサービスでドゥーが気になっていた船首像の事も話題に登る。

 イザも船舶組合で聞いた自慢の黄魔石に興味があった。


 船長の話によると、なんと船首像はコーラル作の呪物であった。

 勿論、青竜の彫り物は別人の作品だが、呪物としての力を込めたのは彼であるという。


 光精の魔力を込めた、貴重な黄魔石の力を最大限に引き出す様に作られている青竜像は、数の少ない黄魔石の大きな塊が二つも使用されている事もあり、その価値は計り知れないと船長は自慢気に胸を張った。


 謂れを聞いて道理で懐かしい感じがしたとドゥーは一人納得し、後で間近で見せて貰う約束を取り付けて喜ぶ。


 船長は自身の知り合いであるコーラルがドゥーの師匠であるという事は先程知ったが、更に他のメンバーとの関係を聞いてきた。

 ラヴィの了承を得たイザが黒神の呪いの件を掻い摘んで説明する。


 それに関連してお世話になった金瓜亭のマクリートさんや、散々な目にあったギアナのリーバ神殿での司祭の無能ぶりが話題に出る。


 特にリーバ神殿に対して憤っていたイザは対応した司祭を「無能な女体揉み師」とこき下ろした。


 サッと顔色の変わった船長はイザに向かって〝シーッ〟とサインを送るが隣の席の客が発する「コホンッ!」という咳払いの音を聞いて『遅かった!』と顔を顰める。


 皆が振り向くと隣の席には純白のローブを纏う少女と、対面に座る戦士風の青年がいた。


「これはミスト様とファング様、ご機嫌麗しゅう」


 船長が機先を制して明るく声掛けた。


 それまで黙って食事をしていた少女は、綺麗な金髪を掻き上げると、不機嫌そうな顔を隠そうともせずに会釈を返す。先程の咳払いはこの少女が発した物の様で、対面の男に目で訴えかけた。


 ファングと呼ばれた男はそれを受けてイザの方を向くと、


「私達は実在神リーバ神殿に勤める巫女と護剣士です、ギアナでは神殿の者が無礼な振る舞いをした様ですが、リーバ教信者は巷に沢山居ますので、この様な場での批判は避けた方が無難ですよ。あと、隣の部屋の男の子、訓練は良いのですが足音が筒抜けですので、近隣の迷惑も考慮して下さいね」


 と言って一礼した。


 護剣士と言うだけあって、上半身に纏った艶のある甲殻鎧の前面に、鎖で短剣が留められている。

 前腕位の全長の短剣を納める黒鞘はリーバ神殿の紋章で飾られ、同じく黒革の巻かれた持ち手が下向きに突き出ていた。リーバ神の眷族たる鹿の角を意匠化した鍔が鎖でガッチリと固定されている。


 鎖や鍔、鞘飾りなどは全て聖銀と呼ばれる不思議な色合いの金属で作られ、その存在を強調していた。


 少し高めの身長に戦士らしいガッシリと引き締まった体格、中々の男前だが細すぎる目がバランスを崩している。外見は20前後位に見えるが、穏やかな声が黒髪とあいまって落ち着いた雰囲気を醸し出していた。


 護剣士の注意が内容的に物足りないのか、ミストはファングをみつめると又もや目で訴えるが、彼は素知らぬ顔で取り合わない。


 知らぬ間に関係者の前で批判をしていた事と、訓練の騒音を指摘されたイザは真っ赤になって俯いた。


『ふんっ!なによ、スカした奴ね』


 と憤慨するスイを無視して、


「すいませんでした、気を付けます」


 とすぐさま謝罪する。


 その様子を見ていたファングはウンウンと首を振ると、


「それではミスト様、お部屋に戻りましょうか」


 と少女を促して立ち上がり、対面の椅子の横に移動すると片膝をついて手を差し出した。


 未だに納得していない様子の少女はムスッとしたが、周囲の注目を浴びている事に気付くと、護剣士の手を取って立ち上がる。


 跪くファングよりも少し高い位の華奢な少女は、純白のローブから零れる蜜の様な金髪と、人形を思わせる整った美貌の中にも意思の強さを体現する瞳で、穢し難い凛とした空気を纏っていた。


 その場で船長に向かって優雅に一礼すると、立ち去ろうとしてイザと目が合う。


 歩き出した少女の足が止まり、イザの瞳を見つめて動かなくなった。


 イザは凝視してくる少女に気圧されながらも、その綺麗な碧眼に吸い込まれる様に動けなくなってしまう。そのまま見つめ合う事数秒、


「あなたがそうなのね」


 という不可解な言葉を残して、少女は唐突に立ち去った。


 護剣士ファングは一同に会釈すると、足早に歩くミストの後ろに付き従う。


「なにあれ」


 白けた様子のセレミーが呟く。

 裏社会の人間の御多分に洩れず、神殿関係者の高みから見下ろす様な態度を毛嫌いしている彼女にしてみれば、人の話に割り込んで来て注意する彼女達に憤りを感じても仕方あるまい。


「ミスト・ラグナー様は、オーバルのリーバ神殿唯一の巫女です。ご存知の通り、リーバ神殿の中でも巫女は特別な存在ですので、失礼の無い様にお気を付け下さい」


 大人な船長は無用なトラブルを避ける様に忠告も忘れない。

 実際、巨大な宗教組織は敵に回すと厄介なのだが、数の少ない神の代弁者たる巫女はその中でも特別の保護対象とされている。



 イザも部屋では物音に気を付けようと肝に銘じた、と同時に強烈なインパクトを残したミストも心に残った。


「あの男は誰だ?護剣士とは何だ?」


 単刀直入にラヴィが質問する。中々強そうな若い男に、戦士としても特使としても興味が湧いた。


「護剣士とは、リーバ神殿に所属する神官戦士団の内でも、唯一刃物を使う事を許されたエリートです。護剣と呼ばれる特殊な剣法を使うとされており、ファング様は若いながらにナスカ大陸一の護剣使いと呼ばれる猛者ですよ」


 船長は情報の漏らしすぎに注意しながら、誰もが知り得る知識を披露する。

 かの巫女には特殊な事情があり、今回の航海に当たっても神殿からの申し送りという圧力がかかっていた。


『護剣士殿の気苦労も絶えまい』


 船長はファングの立場を思い、同情しつつ、


「さあ皆さん、早く食べないと折角のイモが冷めてしまいますよ」


 と場を和ませて会食を続けた。この男は本当に話好きなのである。

『良い旅の共を得た』と船長は一同を楽し気に見回した。

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