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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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ジャスティス・シップ

翌日、早速ガンキに分かるだけの事を教える為に、セレミーとイザはガンキの家を訪れた。


 イザとしては、建前上経験を積むという名目でついて行ったが、何のことは無い、ギャングの元締めに興味津々なだけだった。


 重厚な門や厳つい見張りにビビりながらも何処か楽しそうなイザをたしなめつつ、報告を待っていたガンキに直ぐに会うことができた。


 剣豆を焙煎してすり潰した大変苦味のあるお茶を勧めつつ、木精の種に関しての報告を聞くガンキは、一々分からない事を質問して来る。

 それについてイザを経由して、スイが丁寧に答えて行くと、ガンキは腕を組んで考え込んだ。


 ガンキとしてはセレミーに依頼して、木精付きの調査に関わって欲しがったが、ダグラスの依頼が先立っていては如何ともし難い様で、素直に引いてくれた。

 どうやら話が大きくなって来たと判断した様で「俺達だけでは始末に困る、知り合いの警備隊長に相談するか」と独り呟いていた。


 ギャングの癖に街の警備隊と仲良いんかい、と、突っ込みそうになったが、グッとこらえたセレミーは、素早い報告に感謝するガンキと別れて港に向かった。


 オーバルを経由してバイユに向かう大陸間定期船は月に二便しか無い。その少ない船が明日出港するので、時間が無かった。


 今日は渡航料の半金を収めに来ていた。既に半金は街に着いた時に予約と共に支払っており、今日の支払いで正式な乗船札を手にする事が出来る。


 商業都市オーバルの船舶組合は規模も大きく信用度も高い。

 予約金や前日登録は面倒臭いシステムだが、貨物船とは違い乗客が居ないと成り立たない旅客船では、収益を守るために先払いは常識だった。


 5名分の船賃の支払いを、イザは楽しそうに観察している。10金もの大金を支払うセレミーのやりとりをキラキラした目で眺めていた。ギャングのボスといい、初めての体験が目白押しでテンションも上がっている。


 それ以外にも、珍しいものを見つけては「これは何?」と一々聞いてくる彼に、最初は付き合っていたセレミーも、最後には無視を決め込んだ。


 相手をしてくれないセレミーを見限って隣を見ると、手持ち無沙汰な受け付け嬢と目が合った。ニッコリ笑うと、相手もニコッと笑みを返す。


 丁度良い相手を見つけて職員に質問しまくるイザに、手続きを終えたセレミーは「行くよ」と声を掛けて出口に向かう。


 船や港について一通り聞き終わっていたイザは、お礼の挨拶をすると、職員の振る手を背に満足そうに建物を後にした。


 船舶組合の立派な建物を出ると、目の前には今回乗る事となった帆船「ジャスティス号」という、大層な名前の大型船が停泊していた。


 明日の出港に向けて、荷物の搬入などで船員達が忙しく立ち回っている。

 護衛として短槍を構えた武装船員数名が警戒する中、小太りのおっさんが声を張り上げて荷運び人達に指示を出していた。


 貨物船が多い商業港に一際目立つ旅客船。

 霧に霞む長大なマストが三本、殺風景な港に並び立つ。

 真っ白な外洋船の船首には、青に銀模様の入った海竜像が鎌首をもたげて前方に睨みを効かせている。


 その両目には煌々と輝く一対の黄魔石がはめ込まれていた。


 この魔石が魔除けとなり航海の安全を守っていると、船舶組合の職員は自慢げに説明してくれた。


 濃霧に浮かぶ光る目の海竜像は、その巨大さとあいまって本物の様な生々しさで見るものを圧倒する。


 来た時の貨物船と比べると大層立派な船に、手配したセレミーとしてもこれなら安心してダグラスの依頼を達成出来ると、笑みを零す。


 ウロチョロしているイザに「サッサとかえるよ!」と声を張り上げて港を後にした。


 見知らぬ街でセレミーとはぐれない様に、慌てて後を追うイザ、小走りで追いかけると


『チョットまって』


 とスイが止める。


『何か居るみたい』と辺りを警戒しだした。


 足を止めたイザが、魔力探知を展開して周囲を探るが、いっぱいの人に反応するだけで、特に目立った反応は引っかからなかった。


 霧の中というのも、水分を頼りとするイザの魔力探知の邪魔となる。


「早くして!」とのセレミーの催促に「はーい」と返事をすると、渋るスイを宥めてセレミーを追って小走りに追っかけて行った。




「こら!ダートどこ行ってたんだ!」小太りの甲板長が叱責する中、ダートと呼ばれた男は謝るでもなくジャスティス号に向かう。


「二日酔いでも時間は守れ!馬鹿もんが!」甲板長の怒鳴り声を背に、振り向きもせず渡し板を黙々と登って行った。


「ったく!どうなってんだ最近の若い奴は」隣の護衛に吐き捨てる様に言うと、新しい荷馬車が三台連なって来た。


「食料はこっちじゃない!船尾側から釣り上げるんだ!」目の回る程忙しい甲板長は怒鳴りながら走っていった。






 商業都市オーバルの警備隊隊長ハルバーは苦い顔で腕を組んでいる。


 はだけたマントの下からロングソードの銀柄頭が貴婦人の顔を覗かせているが、その態度には別段緊張感は感じられなかった。


「昼間に使いを寄越すなんてどうかしてるぞ」


 場所はガンキの〝家〟の地下室、言葉と裏腹に、手紙で呼びつけられている時点で彼の立場も知れようという物だが、二人は元同じ傭兵団にいた戦友であり、その時からハルバーはガンキに頭が上がらなかった。


「すまねーな、隊長様を呼びつけるなんざ気が引けたんだが、知らせの通りちょっと深刻な事態になっちまってよ」


 気安く声を掛けるも、手を合わせて謝る。実際二人の関係が公になれば、オーバルの商業組合に雇われているハルバーの立場は危うくなる所だ。


 幾ら夜とはいえ、繁華街も近くにあるこの場所に人目を避けて来るのは容易ではなく、ハルバーは薄汚れたローブを被り、身元がバレない様に気を使ってここまで来ていた。


「で、そいつが鼻利きかい?」尋ねたガンキはハルバーの後ろに立つ女を見ている。


 ハルバーと同じく地味なローブを被り、地下室の強い死臭に鼻面を顰める、小柄な犬族の女はコクリと頷く。

 前からその存在を聞いていたガンキは、痩せ犬の様な女を無遠慮に観察した。


 港湾に着く密輸品などの取り締まりをも一手に引き受ける警備隊の中でも、鼻利きと呼ばれる検閲をこなす地味な部署に所属する彼女は、普段表舞台には出てこないが、鼻利きとしての腕はオーバル1とハルバーも認めている。


「シュリだ、安心してくれ、彼女には全て話しても大丈夫だ」


 言うやローブをはだけ、女の胸に刻まれた奴隷紋を露わにするハルバー。浮き出た鎖骨の下にミミズの様な焼き印がのたうっている。


 奴隷紋が刻まれていると言う事は、ハルバーに逆らうどころか、彼の意に添ぐわぬ行動が出来ないという事である。


 自分の部下にそのような事をする、それがハルバーらしいと言えばらしい。


「まったくいい趣味してるぜ」と薄ら笑うガンキは興味無さ気に「昼間の手紙で概ね理解してくれたと思うが」と言いながら、ガスリンの死体袋を指し示して「こいつが取り憑かれた野郎だ」と説明した。


 シュリは気が進まない様子で近づくと、腐敗の始まった死体袋を開け放つ。

 部屋にムワーッと広がる死臭に一瞬顔を歪めながら、ガスリンの後頭部を検分し出した。


 死体を弄くり細部まで検分すると、だんだん熱中してきたのか執拗に観察して行く。

 鼻筋に皺を寄せて嫌々始めた女は、時と共に人が変わった様に生き生きと機敏にうごいた。


 核心部分の小さな穴をまじまじと観察すると、徐に鼻を近づけてジックリと嗅ぐ。


 慎重に嗅いでは、記憶に刻み込む様に黙考する。それを何度か繰り返してから、ガンキに向かって「では種を出して下さい」と催促した。


 瞳孔の開いた目が飛んでいる、まるでいかれた薬物中毒者の様だ。

 焦点の合わない積極的なシュリの迫力に押されて、言われるがままにガスリンの後頭部から取り出した小さな種の殻を渡すと、シュリは狂ったようにクンクン嗅ぎ出した。


 〝絶対嗅覚〟


 それがシュリの持つ特異能力である。

 過去に嗅いだ臭いの記憶が脳内に全てストックされており、その膨大な引き出しの中からより近しい物と比較検討し、対象物の正体を割り出していく。

 そのストックは桁外れに多かった。


 嗅覚の精度は訓練された犬をも軽く凌ぐ。歩く感知器であり分析装置、それがシュリを連れて来られた理由だった。


 嗅覚捜査に入ると人が変わった様に積極的になる彼女は周りから変人扱いされているが、ハルバーは「素晴らしい才能だ」と絶賛し奴隷コレクションに加えて寵愛している。


「こいつが何か分かったか?」一心に種を嗅ぎ続けるシュリを見兼ねてガンキがたずねると、首を振って否定するシュリ。


「なんだよ」と落胆するガンキを遮り「但し手がかりは得ました、種に微かに残る潮の香りは近海のタガル暖流の物、そしてこれはオーバル湾の洞窟地帯に生える海藻の物、二日ほど前に付着したと思われます。」


 そう言ってガスリンの足をナイフでこそげ取って、黒く変色した海藻のカケラを見せる。


 海藻の生えている場所すらも割り出すシュリの鼻のおかげで、探索のきっかけを得たガンキはハルバーと相談すると、オーバル湾に向かうためメンバーを揃えた。

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