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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
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アンダー・ザ・ハウス

 ガンキ達の〝家〟は歓楽街から〝広場〟に続く色街、通称〝ごみ箱新地〟のど真ん中にあった。


 見張りの男達が鋭く警戒する門を抜けると、大きくて年季の入った石造りの家がある。


 鉄で補強された重厚なドアを開けて建物内に入ると、内見張り部屋には武装した男が二人詰めており、その横をすり抜けるように進んだ。


 更に奥の大部屋に通されると、ギャングの根城に似つかわしく無い程、綺麗に片付けられたリビングが現れた。


 普通の家と違うのは窓が全て塞がれており、部屋の隅に投げ斧の的が幾つも据えられていて、人相の悪い男が詰めている所ぐらいか。


 その男共はボスの帰還に直立して迎えた。

 薄暗い家に大男共が整列する姿に『うわ〜っ』と引いたセレミーは、厄介な展開に半ば覚悟を決めた。


『厄介事に巻き込まれそう、でなければあの場でサヨナラの筈だ。なるべく関わらない為に、いざとなったらダグラスさんの名前も利用しよう』


 少し前に受けたガンキの依頼はダグラス経由の物で、その時ダグラスには頭が上がらないと言っていたのを思い出す。


 ガンキは捕まえたガスリンを地下室に連れて行くように指示すると「さて、話を聞こうか」とセレミー達にイスを勧めた。


 ガンキの後ろに立つ男達が「ボス」と言い掛けるのを手で制し「お前らには聞いてねぇ!」と一喝されると、大の男達がシュンと小さくなる。


 さっき大暴れしていた牛人族のタオは周りのひんしゅくをかって、一層小さく項垂れていた。


 怪我をした男達が奥の間に運ばれる中、ガンキもイスに座ると、「お嬢さん達に飲み物を」と言い、手振りでセレミーの話を促す。


「さっき言った通り、私達は店で買い物していただけ。帰りに男を追ってきたガンキさんの手下と鉢合わせて絡まれたんです」


 セレミーが珍しく言葉を選んで説明する。なるべく押し付けがましくならない様に、しかし主張を通すのは神経を使う。


 ガンキはあの場に居たメンバーを見回し「そうなんか?」と聞く。


「それはーー」と言い掛けた仲間を制した一人の男が「その通りです、すんません」と謝罪する。

 ガンキの傭兵時代からの戦友だったこの男は、こんな時はすぐに非を認めて謝る方が、ガンキの怒りが少ない事を知っていた。


「馬鹿野郎!」と一喝するガンキに「「すいませんでした」」と直角に腰を曲げて謝る一同。

「俺にじゃねーだろ!セレミー嬢達に謝れ!」と言うと、今度はセレミー達に向かって「すいませんでした!」と深々と謝った。


 苦笑いで「まあまあ」とガンキを宥めるセレミーは、内心もういいから返して!と思いつつ、男達にも「もういいよ」と愛想を振り撒く。


「それでなくても抗争が頻発してるのに、トードがやられたんだぞ!ああ?それを通りがかりの女にちょっかいを出すなんざ!はあ〜っ」


 頭を押さえて数回振ったガンキは、タオを見据え「で、お前が暴れて返り討ちにあった所で俺の登場か?」と睨む。


 言われたタオが何も言えずに余計に縮こまる中「俺は馬鹿か!」言うや次の瞬間、投げ斧をタオの足元に投げつけた。ドンッと足の間に突き立つ手斧。


「死ね!死んで詫びろ!」言ったその目が座っていた。


『何もそこまで』と思い、セレミーが取り繕おうとした時、「あんた、その位にしてあげて」と言いながら、奥の間から妙齢の女が出てきた。


 凛々しい目付きが印象的な色白美人で、スラッとした体型にピッタリの刺繍入りの濃紺ドレスを身に纏っている。

 その手には、今まで奥の間で治療をしていたのか、血がこびり付いていた。


「あねさん!」と男達が頭を下げるなか、「関係無いのは引っ込んでろ!」と怒鳴るガンキ、だが、その言葉の強さに反して女を直視出来ないでいる。


「そんな事されたら、セレミーさんも困るでしょう、タオにはキツく言って聞かせますから」


 と言うと、銀のかんざしで結い上げた艶の有る黒髪を見せ、深々と頭を下げる。続いてタオもワッと泣き出し「ズビバゼン!」と土下座して謝った。


 このタオという男は、見た目によらずまだ若い。浮浪児だった所を、先程あねさんと呼ばれた、ガンキの奥方であるツヤに拾われた、いわば養子とも言える存在だった。


 ツヤの甘やかしにイラつきながらも、それ以上怒る気も失せたガンキは「メソメソすんな!泣く位なら奥に行って治療を手伝って来い!」とタオを怒鳴りつけ、ツヤに目配せする。


 ガンキとしては、自分もツヤに拾われた身で、夫婦になっても頭が上がらない。それに一方的に惚れた弱味から、奥方には常に一歩譲る形になってしまう。


 手斧を抜いたツヤは「すいません」と言いながらガンキに渡すと「セレミーさんにもお連れさんにも、大変失礼致しました」と深々と謝罪して、タオを連れて奥の間に消えた。


 それを見届けたガンキは、セレミーとラヴィに向き合うと「すまん!手下の教育がなってないせいで、手間かけさせちまった」とテーブルに頭を付けるほど謝罪した。


「いえいえ、もう済んだことだし、こちらは怪我も有りませんから、お気になさらず」と返すセレミー、ラヴィは無言で一つ頷いた。


 話も済んだ事だし、さて帰ろうかと腰を浮かせかけるセレミーの気配を受けて「まあまあ、お茶位飲んでってくれよ」と言いながら二人にカップを勧める。


「こいつはセーズティーといってな、大陸内部砂漠に生えるセーズって香草を焙じた希少なお茶だ」


 アルコール中毒から脱したガンキの今の嗜好品はお茶、しかも半端なく高級な珍品を遠く海外からも取り寄せる程の茶道楽。

 自慢のお茶を説明するガンキは、早くも先程迄の不機嫌が治ってきたようだった。


 セレミー達がカップを覗くと、小さな多肉植物が唇の様な形に湯戻りし、クルクルと舞っている。


 香気が立ち昇るカップ口を付けると、仄かな酸味とともに甘みが後味としていつまでも尾を引く。


 ホーッと吐息を吐く一同、ガンキの話では、沈静作用もあるお茶らしい。


「落ち着きのない俺にはピッタリのお茶だな」ガハハと豪快に笑うガンキ、周りを巻き込む強引さはあるが、何処か憎めない男である。


そんな折、地階から上がってきた男がガンキに近づき、何事か耳打ちした。


「やっぱりか」と真顔で呟くガンキは、しばらく黙考した後、セレミーを見つめて「ちょっと来てくれ」と言ってきた。


『きたきた!』と警戒心を喚起させるも、断ることも出来ずに「なんでしょう?」と聞き返すことしか出来ない。


「戦争屋とチンピラの寄せ集めの俺たちには分からん事だらけでよ、セレミー嬢に少し見て欲しい物があるんだ」と言われ、渋々地下室に連れられて来た。

 ラヴィは結構興味深そうに付いてくる。


 レンガ造りの急階段を降りると、カビ臭い地階独特の臭いと共に「うう〜ん」と、くぐもった唸り声が真っ暗な通路の先から聞こえて来る。


 錆びた鉄扉を開けると、ツンと鼻を突く刺激臭と共に、素っ裸にされて手枷で壁に繋がれたガスリンが、目に飛び込んできた。

 部屋の隅には大きな袋が一つ、花が添えてある事から、トードという男の死体と思われる。


「こいつがうちのトードを殺しやがったんだ、広場の住人や家無し共の証言から間違いない」


 壁に繋がれたガスリンは時々「うう〜ん」とうなされるだけで、目は焦点が合わず、口から血とも涎とも判別しがたいものを垂れ流し続けている。


 全体重を支える腕に手枷が食い込んで血が滲んでいた。


「トードってのは結構な巨漢でよ、こんな痩せっぽちにやられる程やわじゃねえんだ、だが、辛子玉の奇襲を喰らって呆気なくやられちまった」


 苦々しく死体袋を見つめるガンキ、下の者には疫病神と嫌われたトードも、上の者には可愛い部分があった様だ。


「こいつはガスリンって言って、辻強盗や乞食をしながら暮らしてる、ここらの家無しの一人だ、トードを憎んでいても、その後の報復を恐れないほど馬鹿じゃない。ここ最近、そんな奴が突然凶暴化する事件が増えてきている」


 ガンキがガスリンの頭を掴むと、グイッと横に向けた。


「これを見てくれ」と示した後頭部には小さな刺し傷があった。


「暴れた奴を調べたら皆ここに傷が有るんだ、そしてまともに会話できる奴は皆無だ」


 言われたセレミーが覗き込むと、結構深そうな穴が空いている。血の固まり具合からして、相当前に付けられた傷らしい。


 計らずも興味が湧いてきたセレミーは、ガスリンの状態を観察し出す。意識無し、痛覚反応無し、瞳孔は開き切ってランタンの光にも反応無し。通常なら死人の状態だが、呼吸は正常で、脈もしっかりしていた。


 呪術にかかったか?何らかの精神魔法の介入が考えられるが、魔法は専門外の為それ以上詳しくはわからない。


「持ち物はこれ?」セレミーが示す先にはズタ袋の上に、ゴミのような物が置かれている。


「そうです」と言う案内してきた男の言葉を聞き、詳しく検分する。


 ズタ袋の上には、ボロ着、折れた青銅の剣、くず野菜と干し肉、鶏卵大の石が4個、火打石、ぼろ布、砕けた素焼きのお椀、麻薬樹脂が置いてあり、特に不審な物は無かった。


 麻薬樹脂も有り触れた低級品で、薬物による錯乱とも考えられるが、後頭部の傷が気になる。


「やはり分からんよな」というガンキが離れるように指示すると、手斧を構える。

 ガスリンを裏返すと、突然後頭部にザックリと突き立てた。


 そこに指を突っ込むと、グチグチと中を探り何かを引っ張り出す。


「この傷の奴にはこんなのが埋まってるんだ」


 と言う手の中を覗くと、血みどろの小さな種がのっていた。



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