双斧のガンキ
高機能執筆フォームに文頭一字開け機能があったんですね、今回からやってみました。
ますます霧が濃く立ち込める裏路地に、赤柄の手斧を振りかざす男達が次々とやって来る。
先頭が動かない為、後続が狭い路地で足踏み状態と化し、短気なギャング達の怒鳴り声が、密集した石壁に反射して余計にうるさい。
その先頭ではギャング数名と、ラヴィとそれを抑える様に前に立つセレミーが、痩身の男を挟んで睨み合っていた。
「何だてめーら!」「やんのかこら!」
ギャング達がいきり立って怒鳴りつける。
先頭集団の中でも、目立って大きな牛人族の男が、荒い呼吸で前に出ると、挑発的にブルルッ!といなないた。
両手用のバトルアックスを片手で軽々と扱っている。
だがセレミーはギャング達よりも、後ろで臨戦態勢になっているラヴィが恐ろしくて冷や汗が出る。
それ程の殺気がセレミーの背中を刺していた。
『こいつら全然感じないのか?』
ちょっとは気配を察しろ、全員殺されるぞ、と目の前のギャング達に腹が立つが、こんな所でトラブルを起こしている場合ではない。
後ろのラヴィに手の平を当て、任せろと合図すると、
「私達はただの通りすがりよ、そっちのトラブルに巻き込まないでちょうだい」
と努めて冷静に切り出した。
最初が肝心、話の通る相手かどうか、見定めなくてはならない。
案の定、相手が女で、更に美人である事に気付いた男達が「なんだ、ねーちゃんかわいいじゃねーか」と軽口を叩き「巻き込まないでちょうだい」と声マネをしてからかい出した。
痩せぎすのみすぼらしい男を追い続ける事に、元来面倒くさがりの彼らは飽き飽きしていた。ボスの命令だから必死に追い詰めたが、こうなったら取り逃がす事もないだろうとたかを括っている。
男達の過半数が、目の前の若い女をからかう事に興味が移ってきたと見て、セレミーは少しホッとした。後は話の流れを誘導すればこっちのものだ。
「話にならないわね、関係無いって言ってるの、わかる?」
言いながら話の落とし所を探る。
彼女には取って置きの隠し球があった、後は効果的な所を突けば話はまとまるはずだ。
そんな中、一人牛人族の大男だけは、ラヴィを睨み続けていた。
ラヴィから溢れ出る異様な殺気が気に入らない、まるで何時でもお前を殺せると言っている様な態度だ。
尋常ならざる気配に野生の血が騒ぎ、戦闘モードに没入していく。段々視野が狭くなり、ラヴィしか見えなくなる、その視界も血が上り真っ赤に染まって何も考えられなくなって来た。
ブフーッブフーッと熱い息を吐き出し、筋肉が膨張して、太い血管がビッシリと浮き上がる。バトルアックスの柄がギチギチッと悲鳴を上げた。
最初に異変に気付いたのは、牛人族の横でセレミーをからかっていた男だった。
降りかかる熱い涎に「なんだよ」と横を見ると、暴発寸前の牛人族の姿。
「うわ!タオやめろ!やばいっバーサークだ!」
言うやその場を逃げ出そうとするが、周囲がつかえて逃げ場がない。
タオと呼ばれた牛人族の大男は、大声を上げた男に反応して腕を振り回すと、胸を打たれた男が吹っ飛んで隣の男にぶち当たる。
牛人族特有のバーサーク(狂化)によって、痛みを忘れ超常の力を発揮した男は、敵味方の見境も無くなり、手当たり次第に攻撃しだした。
混雑する路地裏でのバーサークで、周囲は大混乱に陥った。
味方のはずの男達を掴んではなげ、着地点の男共も巻き込む。そして当たるを幸いに殴り飛ばし、雄叫びを上げる。
メチャクチャに振り回されたバトルアックスが石畳みにぶつかり、柄が砕けて斧頭が吹っ飛んで行った。
荒れ狂う男を鋭く見据えるセレミーは、腕を振り下ろし、腕輪にしていたC型の魔具をそれぞれの手に握ると、リングの空いた部分を前に構えた。
こうなっては話し合いもへったくれも有りゃしない。チッ!と舌打ちして前に出ようとした、その時――
「「ガオオオオオーンン!」」
真後ろから超ド級の咆哮が放たれた。
衝撃が路地を蹂躙し、通りの木窓がガタガタッと一斉に震える。混乱に陥っていた男達は、全身麻痺を起こして、泡を吹いてバタバタと倒れた。
セレミーはと言うと、一瞬の内に真横の屋根に飛びつき、ビックリ目でラヴィを見ている。総毛立った髪や尻尾が爆発していた。
バーサークした牛人族の大男は、咆哮のショックで泡を吹いて立ち尽くす。手足を動かそうともがくが、ガチガチに強張って鉄のように固まってしまった。
ラヴィは大男に悠然と歩み寄り、背中の大剣に手を掛けると、一気に引き抜いた。
立ち込める霧を切り裂いて大上段に構える切っ先が、薄日を反射して淡く輝く。
街嫌いのラヴィが最も嫌うのは、この手のいきった男だった。大して強くもない癖に勘違いして、プライドだけは高く何かと突っかかって来る。
何処から食べてやろうか?肩ロースか?腿肉か?それともハートを取り出して踊り食いしてやろうか?
哀れ食用牛認定された牛人族に、捕食者ラヴィはフツフツと沸き立つ物騒な思考が止まらない。
あと一歩の所で、ラヴィの聴覚が気障りなものを感じ取る。
ほんの些細な風切り音が近づいて来るのをキャッチして、咄嗟に避けた所を投げ斧がブンッ!と通り過ぎた。
その隙に乗じて走り寄る男が一人。
屈んだラヴィに踊り掛かる男は、松明の様な物を振るってきた。
一瞬前まで火の手など無かった所に、轟音を上げて燃え盛る炎が突然現れ、ラヴィを打ち据えんと振るわれる。
驚くラヴィは、余りの早業に大剣をかち合わせて受けるのが精一杯だった。腕には重い衝撃と共に大量の火の粉が降りかかる。
剣で受けてみて、松明状の物が斧である事に初めて気づく。斧頭の四本爪に嵌め込まれた真っ赤な魔石から、紅蓮の炎が立ち昇って熱い。
巨大な松明の斧から放たれる熱波で、ラヴィのまつ毛が炙られる。
お構いなしに競り合ったまま押しつぶそうとするラヴィの力を、スッと右手にいなした男は、小さく横に半回転しながら斧を振るった。
肩透かしを喰らったラヴィは、素足の爪を強引に石畳に突き立てて堪え、無理な姿勢で大剣を振るう。その剣速は男の予想を超えていた。
今度は逆に驚かされる番となった男は、回転を止めるどころか、魔石の炎を爆発させると、加速した斧で大剣の根元を狙う。
まともにぶつかり合った斧は男の体ごと弾き飛ばされた。
地面に横滑りしながら吹っ飛ぶ男に、追撃を加えようとしたその時、ラヴィは背中に殺気を感じて横っ跳びに避けた。
すんでの所を、始めに躱したはずの投げ斧がブンッ!と掠って行くと、素早く起き上がった男の手の中に収まった。
左手の投げ斧を前に、右手の松明斧を引いて構える男は、油断なく中腰でラヴィの挙動を伺う。
ラヴィも思いがけない強敵の出現に面食らい、迂闊に攻撃を仕掛ける事無く、大剣を中段に構えた。
お互いに相手の力量を認め、睨み合ったまま動かない。まんじりともせず、緊張感だけが高まっていく中。
「まったー!」
屋根の上にいるセレミーが大声を張り上げて、ヒョイと身軽に降り立ち、ラヴィと男の間に割って入った。
「ガンキさん、セレミーです!彼女は私の連れなんです。ラヴィも待って!」
手を広げて声を張り上げる。
「おう!セレミー嬢か、一体どーゆう了見だ?」
ガンキと呼ばれた男が警戒しながらも殺気を抑えた。
中肉中背の見た目40代位の男は、派手な斧と対照的に地味な板金補強の革鎧を装備している。
ごま塩の角刈り頭が、使い込まれた鎧とあいまって、燻し銀の味を滲ませていた。
「うちらはたまたま通りかかっただけ、その男を追ってきた貴方の手下達が、うちらを巻き込んだから、連れのラヴィがキレたんです」
路地で気絶している痩せ男を指差し、ここぞとばかりに畳み掛ける。
ほんの少し前に、仕事の依頼でこの街を訪れた際、ギャング団のボスであるガンキは、セレミーの依頼主だった。
彼女の完璧な仕事ぶりを気に入ったガンキは、自分のギャング団にスカウトする程、セレミーを気に入ってくれている、筈である。
先程切ろうとしていた、切り札のカードである繋がりが通用するかどうか、内心ヒヤヒヤしながら様子を伺うセレミーに対して、
「そんな警戒すんなや!また会えて嬉しいぜ。詳しい事は家できくからついて来い!」
セレミーの肩をバンバン叩くと、グイッと引き寄せて歩き出す。振り向いてラヴィにウインクするガンキ、急な展開に肩透かしを喰らったラヴィも、毒気を抜かれて後を付いて行った。
最初に自分で買った手斧は「バック社のハンターズアックス」
初めて入った銃砲店の緊張感と臭いを思い出します。
以来、数十年間手斧好き。
一度、軽自動車の板バネで自作しようとして、頓挫した黒歴史が有ります。




