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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第三章 サバニ漁師と裸海女
50/128

早鐘打つ死闘の予感

なんと50話です、我ながらビックリ。


一話の分量は少ないんですけどね。

 嵐の真っ只中、暗く荒れ狂う海の中に放り込まれた男は、乱流に翻弄されながらゴボゴボッと空気を吐き出す。

 思わず海水を大量に飲み込んでしまい、息を詰まらせて鼻が痛む。


 焦る心からパニックに陥りそうになる、だがそこは熟練の漁師である。


『落ち着け、落ち着け』


 足掻きながらも心を落ち着ける。今迄何度も嵐の中切り抜けてきた。落ち着いて行動すれば生き残れる事は身をもって知っている。


 男は首のエラを開けると水中呼吸に切り替えた。

 嵐特有の臭いを含んだ海水を含むと、エラを通って大量に流す。それと同時に肺に吸い込んでしまった海水を咳で吹き出した。


 天地逆さまに見る海面は荒れ狂い、乱れ打つ雨に濁った海の見通しは悪いが、サバニ舟が辛うじて浮かんでいる様が見て取れる。


 そのマストから一本の縄が男の左手首まで伸びていた。操帆のための手綱を巻き付けておいたものが幸いにもまだ絡み付いている。それは少し引っ張ると手応えがあった。


 大多数の魚人族と違い、止まっていると水中呼吸出来ないヒユマ族の男は、両手で手綱を手繰り寄せながら、足の水掻きを広げると海水を力いっぱい蹴り込んだ。


 その横を仕留めたシーサーペントが沈んで行く。

 暗褐色だった体がどす黒く変色し、死後硬直を始めたせいでうねった形のまま流れに翻弄される死体の横を通り過ぎる。


 その後頭部には仕留め剣がガッチリと突き刺さっていた。手を伸ばし、力を込めて握るとズルッと抜けたので、腰の鞘にさしておく。


 首に刺さった銛からは濁った血が大量に流れ出し、その周辺だけ靄の様に視界が悪くなっている。返しの付いた銛は流石に海中ではどうしようもない。


 その銛はクロスボウの発射台と縄で繋がっており、ピンと張っている。


 なんとか海面に浮上する男、荒波に半分沈みかけるサバニ舟。浮木でなければとっくに沈んでいてもおかしくなかった。

 その端に取り付くと「ぶはーっ」と大きく一息つき、ゲホッゲホッと盛大にむせこむ。


 そのまま男は、舟のふちに張り詰める縄に手を伸ばした。舟の浮力を超える重さでシーサーペントの死体が沈むせいで、海面スレスレまで沈下しているサバニ舟。

 このまま放って置いては早々に沈んでしまうだろう。


 こうなってはシーサーペントの魔石や銛は惜しいが、諦めるしか無い。平常時だったら浮きを付けて全部回収するところだが、嵐の中では自殺行為だ。


 腰に差した刺突剣を張り詰めた縄に当てがうと一気に引き切った。

 〝バシッ〟と縄が弾け、自由になったサバニ舟がグラグラと揺れる。一方で自由になったシーサーペントの方は、頼る術を無くして血を撒き散らしながら沈んでいった。


 これだけ男が急いでいるのには嵐以外にも訳が有る。

 今回の巡回の目的はシーサーペントの〝群れ〟の監視。普通は群れないシーサーペントがテリトリー外に出た事と、若く弱い個体ばかりのため群れを形成しているから脅威となっている為、パトロールに出たのだ。


 グズグズしていると、他のシーサーペントが寄ってくる可能性が高い。と言うか、必ず奴らは来るであろうと覚悟を決めている。


 シーサーペントが血の臭いを嗅ぎ取り、生き物の存在を感知する能力に長けているのは有名な話だ。


 男の集落には、シーサーペントをテイムして従魔とした先祖の逸話が伝承されているが、その従魔は10km先の血の臭いを嗅ぎとり、近づいてからは独特の感知能力で、正確に獲物を捉えたと伝えられている。


 舟に上がった男は、風の影響をモロに受ける帆をたたみ出した。

 嵐に翻弄されながらも、手早くしまわれた帆を舟体に固定していく。


 そしてクレインクインクロスボウを巻き上げると、残り二本となった銛のうち、最近新たに自作した大振りの一本を装填する。


 硬く締まった三年燻しの木の柄に、千枚歯鮫の肉切り歯をビッシリと固定して、先端に一番大きな歯を備えた鮫歯銛は、男の持つクロスボウで発射出来る限界の重さで作ってある。


 そのお陰で最高の威力を誇るが、仕留めた獲物をメチャクチャに切り裂いてしまうため、漁向きではなく、普段は使っていなかった。


 だが、今回の様に兎に角ダメージ優先で漁のことを考えない時には、最高の一本と言えるだろう。


 嵐のなか、片手にクロスボウのハンドルを握り、片手で舟内に溜まり出した海水を桶で掬い出す。


 本格的に危険になったらわざと半転覆させて嵐をしのぐ手もあったが、シーサーペントの群れが居るであろう海に飛び込む気は無かった。


 男が見渡す海にシーサーペントの血がシミとなって広がっていく。心臓が早鐘のように脈打ち、体に付いたシーサーペントの血が悪臭となって鼻に付く。


 波に翻弄されて動けない事がこれほどもどかしい事は無い。風の冷たさが体の芯から体温を奪い、手足の感覚は無くなりつつあった。


 それでもなお、男がき然と立つと、根性の魔力の篭った赤褌が下腹部から男を鼓舞した。


「ドンと来い!蛇野郎」


 真っ黒な雲と飛沫を浴びて目を開ける事もままならない状態で男は呪文を詠唱し出す。


「風の精霊よききたもう、我が望みはその姿を見、その声を聴くことにあり、その力でわが身を包み、振り切る力を宿し給え」


 〝ウインド・シールド〟


 余り得意とは言えないまでも、唯一使える魔法を唱えると、男の周りの風が意思を持つかのように男の周りを囲い出した。


 男を中心に半径2m程の円を作って風が層をつくり、男の周りだけ無風状態となる。

 舟は嵐で揺さぶられ続ける中、とりあえずの安息を得た。


 だが、これも長くは持たない。効果時間中、ジワジワと魔力を消費させるため、早々に魔力切れを起こして消滅してしまうだろう。

 男の魔力はそう高くないのだ。


『だが、これで充分』


 遠くの波間にシーサーペントのヒレが見え隠れしている。魔法の効果時間内にシーサーペントの群れが襲ってくるはずだ。


 なけ無しの武器に頼りない魔法、冷え切った身体に揺れる舟。絶体絶命の状況で尚、男は屹立する。


「母ちゃん見てろよ!」


 男の脳裏には愛する家族の姿がよぎる。


「絶対生きて帰るど!」


 男は壮絶な決意と共に覚悟を決めた。

子供が生まれるので、来月からは一週間に一度の投稿にする予定です(できるか?)奥さんに隠れての投稿、なるべく書き続けるので、よかったらこれからも読んでやってくださいませ〜。

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