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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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好戦姫・血煙草原

 ドドドッ! ドドドッ!


 地面を揺らしながら剣角肉食犀ソード・ライノが目を血走らせて走る、鼻先の立派な剣角が揺れて、ビュウビュウと風を切った。


 10tを超える巨体ながら、全力疾走すると60km/hにも及ぶ草原の暴君は、鼻息も粗く獲物を逃がすまいと馬鹿な侵入者をしっかり捕捉する。


 獲物たる人間が4人、勢いそのまま突き殺し、踏みにじって、その後ゆっくりと大好物の肉を喰らい、脳ミソと髄を啜る。


 剣角肉食犀はそれを当然の未来として予見していた。




「「ガオオーーン!!」」


 草原地帯に咆哮が響く。


 ビリビリと地鳴りのするほど強烈な大音声が駆け抜けた草原で、金縛りにあった剣角肉食犀が、その勢いを止められずに地面を削りながら転がり滑った。


 間髪おかずにダッシュするラヴィ、裸足の足の爪が地面を抉り、掘り起こされた土が宙に舞う。


 前方には巨大な犀の頭が地に打ち付けられていた。転がったショックで麻痺から醒めた剣角肉食犀は、立ち上がると首を振って威嚇する。


「ブルルルルッ!」


 涎を垂らして頭を低く身構える犀、剣角類に見られる独特の戦闘態勢に対し、無造作に駆けるラヴィの体は見る見る内にパンプアップして行った。


 限界まで力を溜め込んだ犀は後脚を思い切り蹴り込んで低く飛びかかると剣角をブルン!と振るわす。


 剣角を構成するために摂取した魔石や鉱石の成分で、鋼よりも硬く重くなった角は超重の体と相いまって必殺の一撃を見舞う。


 横っ跳びに避けるラヴィは剣角の横10cmをすり抜ける。だが、犀は前足をついて急停止すると、首を器用に曲げて剣角を追っ付けてきた。


 ラヴィの抜剣と剣角が衝突して火花を散らす。どちらも有機物の筈だが、鋼鉄よりも硬く、粘い。

 大きく打ち震える衝突点を中心に両者が円を描いた。


 材質と内包する魔力が桁違いなため、剣角が負けるが、質量が大きな剣角も僅か表面が削れるのみ。

 超重の犀の体重がラヴィを弾き飛ばさんとグイグイのしかかった。


「ハァッハァッハハッ」


 ラヴィは我しらず口角が上がる、バクンバクンと跳ねる心臓、空気を求めて波打つ肺。

 彼女は久し振りに思い通り動く体を楽しんでいた。


 犀の体重をも跳ね返す己の剛力を試すように、力をいなさず真っ向から押し返す。

 スパークするアドレナリンが強烈なハイ状態に誘い全能感の波が来た。


 服を弾き飛ばす半裸の獣人は、完全に変身し終えた。全身が3mにまで巨大化し、金毛を光らせたラヴィは犀を上から押し付ける。


「ブシューッ! フーッ!」と涎混じりに荒い呼吸音を立てながら押し合う両者。


 辺りには剣角肉食犀が興奮した時に出す血汗の異様な臭いが漂い、踏ん張る足の爪によって地面が抉れ、剥き出しになった土が塁をなした。


 あり得ない事に、体重差を無視して徐々に押しつぶされる犀、首があらぬ角度に捻れ出す。


『もういい』


 押し合いに飽きたラヴィが剣をいなすと、犀がタタラを踏んだ。


 その隙に真横を取ったラヴィが大剣べフィーモスを縦一文字に振り下ろすと、一刀両断に首を落とす。


 一瞬後、ドドオッ! と倒れる首無しの死体、斬り飛ばされた首が一瞬の後地面に突き立った。


 切断面からは真っ赤な血が噴出し、血煙が辺りに舞う。大量の血を浴びたラヴィは金毛を真っ赤に染めて凄惨な顔でニヤリと笑った。


『これこれ!狩はいいな!』


 血湧き肉躍る大型獣狩は久し振りの満足感を与えてくれた。

 噴血のシャワーは高揚した勝者を讃える拍手の様な気すらしてくる。



 それに対して、周囲の者はどん引きだった。


 剣角肉食犀の皮甲殻は鎧の材料に成る程硬く強靭で分厚い。

 それを簡単に捌いたラヴィの剣、そして隔絶した体重差を跳ね返した獅子族の肉体に、同行者一同呆気に取られた。


 薄っすらと獅子族の変身について知識のあった草原の民ドゥーと護衛戦士ワンジルは兎も角、イザとスイにとっては獣形態への変身自体が初耳である。


 イザはその力に身震いすると共にワクワクした。

 やはり男の子、強いものには純粋に憧れる。ましてやそれが仲間となれば、頼もしい事この上ない。


 ドゥーはそれ程単純ではないが、同様に心浮き立つ思いがあった。


 ワンジルはその力と好戦思考に危機感を覚えていたが、現状敵対する事も無いだろうと様子を見ている。


 一番深刻に捉えているのはスイだった。


 女の嗅覚が〝こいつはヤバイ〟と警告を発する。イザをどうしたいかは知らないが、厄介な奴が引っ付いて来たと、舌打ちせんばかりの思いにかられた。


『なんか要らんもんがついてきたなぁ』


 この女、何が目的なのか探らなければならない。イザを生き延びさせるのは意外と大変だという事に、今更ながら溜め息をつく思いのスイだった。



 剣角肉食犀を解体にかかるラヴィは、おもむろに剣角の根元、頭骨との繋がり部分に刃を入れる。


 分厚い骨と硬い剣角は直接繋がっておらず、巨大な筋肉塊に包まれた軟骨が間に存在していた。これによって微妙な操作を可能たらしめている。


 イザやワンジルの手伝いを受けて、剣角を傷付けない様に剥ぎ取り作業をこなす。


 魔力はないが、魔石や鉱物の摂取により強化された剣角を持つ、半魔獣とも呼べる存在の剣角肉食犀。


 魔石こそ無いが、その特徴たる剣角は、形状的に即、大型剣として使える事もあり、魔石以上の価値があった。


 その解体作業を間近で見つめるイザとドゥー、外した剣角を渡されると、二人で持ち上げたり、振り回したりしてはしゃいでいる。


 その様子を笑って見守るラヴィは、集落での年の若い妹達との暮らしを思い出してホッコリしていた。


 イザの放水で全身についた返り血を洗い流すと、スイに海綿草の服を直してもらう。

 濡れて重くなった髪を絞って括ると、剣角と大剣を担いだ。


 青の湖まで旅半ば、ドゥーの護衛には警戒されている様だが、その他の二人とは打ち解け出している。


 イザの中に居るらしい木精霊の存在には驚いたが、草魔法という稀有な能力に、期待感が膨らんだ。


『イザについて行って間違い無さそうだ。あとはどうやって我が集落に連れて行くか、そこが問題だな』


 ラヴィも強かに目的を果たそうと頭を巡らす。だが、本来細かな思考などして来なかった彼女は、


『何とかなるだろ、いざとなったら力づくでも引っ張っていけばいい』


 楽観的思考に落ち着いた。


 様々な思惑が交差する一行、イザが夢想する〝満天星〟と名付く様な仲間となるか否か? 前途多難な雲行きの旅は続く。

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