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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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満天の星空世界

 真夜中に目覚めたイザは、宴会場となった村長(村で最初に会った老人)宅に何故か半裸で横たわっていた。


「クシッ!」


 身震いしながらクシャミを一つ、手近にある毛布をひったくって身体に巻きつける。


 あの後酒を勧められて、何杯かご馳走になった挙句に酔いつぶれて寝てしまったようだ。そうすると、イザは相当酒に弱い方といえる。


 中央の囲炉裏ではチロチロと小さな火が、白くなった炭から立ち昇っている。おかげで風邪を惹かなくて済んだらしい。


『鉄パイプと服はアッチだよ』


 呆れ声のスイが教えるイメージを辿ると、人と人の間に挟まる様に服がクチャクチャに潰されていた。


 躊躇なく引っ張ると、


「うーん」


 とうめきながら転がって行く村人は、断固として起きそうもない。


 ひったくった服を着て、鉄パイプの紐を肩に掛けたイザは、淀んだ空気を嫌い外に出た。


 外は満天の星空、南の明月と北の影月に照らされる、藍色が美しい秋の夜。ヒンヤリと澄んだ空気は涼しいを通り越して寒く感じる。

 流れ星が見る間に降り注ぐ、草原の空はどこまでも広かった。


 ふと見ると、小さな影が焚火から伸びている。近づくとドゥーが口琴を奏でている。


「ビィィィビィィンボィンビヨン」


 延々と続く削ぎ木の振動音


「ビィンボヨンビヨヨヨヨヨ」


 心地よくイザの耳に馴染む。


『良い音』


 スイも同感らしい。


 焚火にあたりながら一刻も聴き続けたろうか? 自然と演奏を辞めたドゥーはイザを振り返るとニコッと白い歯を見せた。

 暗闇の中、白い大きな目と歯が火に照らされて浮かび上がる。


「いい夜だね」


 声変わりも済んでいない高い声で話しかけるドゥー。


「喋ってもいいの?」


 驚いたイザが問うと、


「心が平な時は大丈夫、師匠も喋るでしょ」


 なるほど、そういえばそうだ。修行不足なドゥーは、見習い故に禁止されているのだろう。


「喋らないのコドモには辛くない?」


 と言うと笑いながら、


「修行に入ってからはもう子供じゃない、役割を任された成人だ」


 そう言うドゥーの顔には誇りが漲っている。


「イザさんの魔法は凄いね、特にあの魔獣を引き寄せる水魔法は聞いたこともない」


 褒められて悪い気はしない。


「イザでいいよ、歳もそんなに変わらないし、ドゥーの呪術の方が凄いよ」


 照れ隠しに焚火に蒔をくべる、暫く静かな時が流れた。


「良ければ教えて欲しいんだけど、呪術の力は神様の奇跡的な物なの?」


 ストレートに聞いてみた、考えてみれば呪いだの奇跡だのに今まで触れて来なかったので無知なまんまだが、これからはそうも言っていられないかも知れない。


「神様と言えばそうなるかな、おひとつ様とか、偉大なるひとつと呼ばれる存在の、力の欠片と言われてる」


 そう言うと古代詩をそらんじたーー





 一つのものははち切れそうに肥えていた。


 最初は沢山いた、皆が永遠だった。


 しかし、互いに争い、封じ合い、融合し、追放し、殺しあいする内、一つの者だけが残った。


 完全な一つは大きくなり続けた。


 完全に安定したコマは止まって見えるように、完全な一つの者が有る事と無い事はどう違うのか?


 存在の強さ故に希薄、そういう物であろうか?


 完全に安定したコマもいずれ止まる様に、完全な一つの者は有る事を辞めた。


 つまり爆ぜた。


 永遠な者はなくなり、その欠片、星々が光り輝く世界、満天の星空世界が始まった。




 これがドゥーの言う古代詩、これで詩か? 何故コマに例える? イザは何とも言えないモヤモヤが残った、だが、伝承なんてこんなものか。


「つまり、神様の欠片が呪術の力という事?」


 イザの疑問に、


「呪術だけではなくて、全ての特別な力はおひとつ様の欠片だって言われている」


「僕の魔法も?」


「そう、夜叉神の力も、魔法使い達の力も」


 そう言われても、イザは納得出来なかった。


「光精神や黒神も?」


「それは違う、らしい」


 ドゥーとて全てを知る訳ではない、らしい。


「お師匠様は封じられた者だって言ってた、けど、あまり他所の人には言わない方が良いって」


 それもそうだ、熱心な神の信徒が聞いたら怒られるどころか裁かれかねない。

 この間ギアナのリーバ教会で見た、信者達の熱心な姿を思い出して、身震いした。


 自分の村で信じられていた狩猟の神様はどうなのか聞きたかったが、それについてドゥーが知っているとは思えないから黙っておいた。


「一つの考え方だと思ってればいいよ、別に信じないと力を失う訳でもないし」


 ドゥーはドライに考えている様だ。そっちの方がアッサリしてて肌に合う。


『やっぱり仲間にして良かったな』


 イザがしみじみと感じていると、


『そうね、あの女よりはよっぽど良いって』


 スイが口を挟む。


「ドゥーはラヴィの事どう思う?」


 思わずイザが尋ねると、


「僕はわかんないや、でも、獅子族も聞いてた程乱暴じゃないみたいだね」


 と言うと少し笑った。


 イザも少ししか付き合いが無いが、ドゥーもラヴィも信用できる人達だと思う。

 スイは何故かラヴィに対して懐疑的だが、その内慣れていくだろう。


 皆の能力に関してはこれから検討しよう、目的もこれから出来て行くだろう。


 満天の星空を見つめながら、自分達に力を与えたという一つの存在を想像する。


 〝満天星〟


 もし自分達が纏まり、集団となった時の名前でどうだろう?


『ダサッ』と言うスイを無視して、イザはドゥーの横顔を見つめる。

 自然とこれからの旅に心が躍る。仲間が出来るって素晴らしいと思えた。


 二人が見守る中、寒空の草原は少しづつ白けてきたーーやがて夜が明ける、そしたら出発だ。

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