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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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痛呪

 ヤーム山中腹まで降りてきたイザ達一行は、背丈程もある耳穴草の群生地で足止めを食らっていた。

 軸に空いた空洞を風が撫でる度に、ブワブワと独特の音色を奏で、耳たぶに似た葉先がぶつかり合ってポヨポヨと弾んでいる。


 その10m程下で悠々と寝息をたてる紅トカゲは、体長4mは有ろうかという、夜叉神程では無いもののかなり大きな個体だった。その巨体は目の前の獣道を塞いでいる。


 日向ぼっこをしているのだろう、燦々と日光を浴びて目を閉じる姿は、何処かしら愛嬌すら感じさせた……こんな状況じゃなかったら。



『どうする?』


 イザはスイに問いかける。


『どうするも殺るしか無いでしょ』


 スイの答えは単純だ。


 その方法が聞きたいのに、とは言えず考える、肉水で気を逸らすか?

 でも、やり過ごしたあと後ろから追われても困るし、と、考えながらドゥーの方を向くとハンドシグナルで〝任せろ〟と送ってきた。

 合図を受けて、戦士達もドゥーを中心に周囲の警戒に切り替える。


 イザが見守る中、ドゥーは胡座になり周囲に呪術道具を設置する。

 右には深い緑の魔石、左には真っ赤な魔石、そして前には種火を入れた火箱、後ろには何かを入れた皮の水袋。

 そして、懐から魔獣の牙で作られたパイプを取り出すと、何かの草を詰めて、火箱で火をつけスパスパふかす。


 深く煙を吸い込み瞑想状態に入ったドゥーは、


 〝ふーーーっ〟


 と大量の煙を吐き出すと、その煙が二つの魔石に絡みつき、赤の煙と、緑の煙に染まっていく。

 トンッ! と火箱に焼けた草を落とすと、ぷっと牙パイプを吹いた。

 そして、たゆたう赤の煙をパイプに吸い込み、続いて緑の煙も吸い込むと、


 〝ふーーーっ〟


 今度は吸い込み、混ざった煙をゆっくり吐き出す。


 赤と緑が混じり真っ黒になった煙は、意志を持つかのように紅トカゲに向かってゆっくりと漂うと、全身をスッポリ覆ってしまった。


「ギャーッ!」


 大音量のトカゲの叫び声が辺りに轟く。皮膚から吸収された煙の呪いが、紅トカゲの痛覚を最大限に刺激し、余りの痛さにその場で暴れ転がる。

 ビチビチビチッ! と狂ったように跳ね回る紅トカゲは、斜面を転げて下に落ちていった。



 〝呪物〟


 様々な呪術の発動を助ける、呪術における魔道具とも呼べる品。毒蛇の魔獣の牙で作られたパイプは、状態異常を与える煙の呪術に、最高の威力を付与する呪物だった。


 その中でもドゥーが得意とする痛呪は、余りの痛さに狂い死ぬ程の効果をもたらす危ない術であり、攻撃能力を持たない呪術師の攻め手の一つだった。


 得意気なドゥーは水袋をあおると、うがいをした。何度も執拗にやるところを見ると、人体への悪影響がある煙の様だ。


 寝ていただけのトカゲには悪いが、これで下山できる。イザはドゥーの労をねぎらい、歩き出す。急いで下山しなくては……夜にでもなって襲われる事態を考えると恐ろしくなる。


 また魔力感知をしてから、隊列を作って進もうとした時だった。


 突然の足音と共に、横合いの茂みから紅トカゲが飛び出してくる。それも一匹ではなく、三匹同時に飛び出してきた。


『しまった!』


 魔力感知が間に合わず、隙を突かれるかっこうとなってしまった。察知能力が戦闘の極意と言ったズカの言葉が頭をよぎる。


 大慌てで態勢を整える戦士達も、ドゥーの呪魂が間に合わず、素の状態ではなすすべもなく紅トカゲに蹂躙される。


 何故かパニック状態のトカゲ達は暴れまわり、二人の戦士達が噛まれてしまった。


 イザは咄嗟に肉水を打ち出す。と、瞬時に反応した紅トカゲは肉水に向かって殺到した。


 戦士達はドゥーを中心に円陣を張るも、毒を受けた二人はしゃがみ込んでしまい、動けそうもない。

 それでもドゥーは戦士達に呪魂を宿らせると、動ける方を紅トカゲに向かわせた。


 その時、不意に巨大な影がイザの後ろを取る、隙を狙っていた夜叉神が茂みの奥から現れたのだ。

 紅トカゲ達を追い立ててけしかけた夜叉神の作戦は見事に効果を発揮した。

 そしてこいつさえ殺ってしまえば、後は何とでもなると計算したかの様に、一番厄介なイザに狙いを付けてきた。


 音を立てずに8mもの巨体が真後ろから襲い掛かってくる。

 一瞬の間に、素早く反応したのはやはりスイの鉄木だった。


 夜叉神の噛みつきに何とか鉄木の盾が間に合うも、勢いを殺しきれず、そのままのし掛かられる。

 体重の乗った爪で引っ掻くと簡単に崩れてしまう鉄木盾、だが、地面に根を張ると、生い茂って距離を作ってくれた。その隙間から、鉄パイプを伸ばす。


 即座に単純な水弾を超高圧で発射する、夜叉神の顔に叩きつけると、軽く仰け反った。


 反動で後ろに下がるイザ、転ばないように足を追っ付けてトトトトッと距離を取る。


 だが、夜叉神も甘くない、振動を伴いながら地面を蹴ると、ひとっ飛びで追いすがってきた。


『新しい鉄木の種を出して!』


 スイの命令に従いポケットを探る、だが、焦ってなかなか出て来ない。

 焦ったイザは兎に角そのポケットにある種を全て握りこむ。

 次の瞬間、目の前には夜叉神の大顎が迫る、その時! スイの草魔法と、イザの肉水を同期させた種が夜叉神の口に炸裂した。


 その種は海綿草だった。


 爆発的な大きさに成長した海綿草が大きく開かれた夜叉神の大顎一杯に詰め込まれる。


 ビックリして首を振る夜叉神、口一杯に詰まった海綿草は尚も成長し、チョットやそっとでは外れない。


 その時、夜叉神の周囲を黒煙が包んだ。


 振り返ると、紅トカゲ達を制圧した戦士達の横で、ドゥーが座り込み、痛呪の煙を吐き出している。


 突然の痛みが夜叉神の全身を襲う、見る間に全ての煙が真っ赤な皮から吸収された。


「ボフォーーッッ!」


 口に海綿草を突っ込んだままの夜叉神は、呼吸もままならずのたうちまわる。

 戦士達も遠巻きに囲むが手出しができなかった。

 鉄木の種を出して拘束しようとするスイ達も、余りの暴れっぷりに何もできない。


 イザはその間、刃水に魔力を溜め込む。精霊ナイフに魔力を溜める事で、最大威力の一発をお見舞いしようと鉄パイプを構え夜叉神を見定めていた。


 と、夜叉神がピタリと動きを止めると、全身からドプリと信じられない量の粘液が出された。


『今だっ!』


 最大限に圧縮された刃水が射出されると、最高圧の水の刃がスパッと夜叉神の頭部を貫通し、そのまま顎下まで切り裂いた。

 遅れて水煙が辺りを覆う。とんでもない量の水が一気に放出されて、地面を削りながら尚も止まない。


 その勢いを、タタラを踏みながらもなんとか堪えた。

 水の精霊の加護を受けてから、水魔法の威力はドンドン上がってきている。イザは自分でも把握しきれていない力に慄いた。


 水煙が収まったころ、動ける戦士達は夜叉神の死亡確認の為に近づいて行く、毒を受けた二人は、ドゥーから薬の治療を受けるために横たわっていた。


 イザも魔感知を使うが、余りの水煙の為にハッキリと把握できない。


『危ない!』


 スイの警告がイザにだけ聞こえた時、戦士の一人が夜叉神に組みつかれた、最後の力を振り絞る夜叉神は全力の足掻きを見せ、戦士を捉える。


 と、シュルンッと地面から粘蔦が伸びて夜叉神を縛り上げた。そのまま雁字搦めに巻きつくと、グルグル巻きにしていく。


 咄嗟に離れた戦士は難を逃れたようだ。


 既に真横に移動していたイザが鉄パイプを構えると、二人の戦士が夜叉神の頭を槍で突き、呪魂の超力で抑え込む。


 イザは渾身の魔力を込めて精霊ナイフを生み出すと、刃長2mもの水刃が現れた。途端に異様な程魔力が消費されていく。


 キラキラと青く澄んだ精霊石の刃は内包する魔力で青く輝く。図らずも師匠の出した水の盾とソックリだった。


 気合いとともに夜叉神の首に一気に振り下ろす。何の手応えも無く夜叉神の頭が落ちると、大量の鮮血が吹き出した。


 ーーイザの記憶はここまでだったーー


 全ての魔力を水刃に吸い取られて昏倒し、倒れ込むイザ。後には呆気に取られるドゥーと戦士達が立ち尽くしていた。

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