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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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名無しの呪魂戦士

 巨大な三角形の頭は真っ赤に色づき、捕食した紅トカゲの血がこびり付き、マダラ模様に汚れている。その側面に突き出た目は銀色に輝き、縦に割いた様な瞳孔はまるで漆黒の曲刀の様だった。


 紅トカゲを喰らった夜叉神は、爬虫類独特の予備動作の無い唐突さで、少し高みに居るイザ達を向いて突進してきた。


 まるで最初から予定していたかの様に、迷いなく最短距離を驀進する。巨体ゆえに起こる振動で否応無く恐怖心を掻き立てられる。


 そこへ中間距離から攻撃出来るイザが刃水を放った。

 夜叉神の頭頂部に突き立った刃水は、しかし、分厚い表皮を少し傷付けただけで、消滅してしまう。


『やばいっ』「前を頼む!」


 スイの焦る念と、イザがドゥー達に頼む声が重なる。


 一瞬面食らって、顎を地面で打った夜叉神は、大きく口を開いて「カアアアッ!」と威嚇すると、イザに向けて突進してくる。


 その間に割り込むジョンワの戦士達、その身にはドゥーによる呪術のサポートを受け、恐怖心を無くすと共に呪魂の力が宿っていた。


 ガツンと真っ向からぶつかり合う両者、体格差を凌駕して、一瞬夜叉神の動きを止める戦士達。だが呪魂を宿らせた事で得た超力を持ってしても、夜叉神を完全に押さえる事は出来なかった。


 ガリガリと爪を立てられて、前衛の一人が押しつぶされる。更にトドメを刺そうと頭を噛み付きにくる夜叉神に向かって、後衛の戦士が槍を突き立てた。


 苛立たし気に吠える夜叉神の真っ赤な口に向かって、イザは最大の魔力を込めた刃水をぶち込む。高音を発して飛ぶ刃水は、今までに無い圧縮を受けて、極細の線となって夜叉神の口蓋を貫くと、そのまま大量の水流となって夜叉神を後ろに押し流した。


 撃ったイザも踏ん張り損ねて尻餅をついてしまう。

 その隙に、他の戦士達が押し潰された仲間を引きずり出した。


『肉水!』


 スイの檄を受けて、座り込んだまま肉水に集中するイザ、強力な魔獣には、半端な肉水など何の効果も発揮しない場合があるから、精一杯の高濃度肉水を作り出す。

 スイはスイで、イザの腕に巻かれた鉄木種と粘蔦種の双方に魔力を込めて、同時発動の準備をした。

 無事な戦士二人も槍と盾を構えて前に迫り出す。


 その時、流された夜叉神が何の予備動作もなく、横っ跳びに木立に飛び込むと、ザザザザッと斜面を駆け上がった。


 突然の事に着いていけなかった一同は、暫し警戒した後、遠ざかる夜叉神を確認して、ホッと一息入れる。とりあえず助かった、か?


 地べたでは、最初に押しつぶされた戦士が虫の息で呻いている。口からは大量の鮮血を吹き出して、地面にテラテラと血溜まりを作っていた、内蔵をかなり酷くやられたらしい。


 それに気付いたイザは、彼の元に駆け寄ると回復水で治療する。青く光る水が余さず吸収されると、外傷は完治した戦士が、それでも真っ青な顔で気絶していた。

 傷は完治したが、失われた血が多すぎて、全て戻り切ってはいないようだ。


 一先ず他の戦士に預けて、もう一人の負傷者にも治療を施す。こちらは軽傷な上に、心配されていた毒も受けていないようだ。

 すぐに動き出す戦士を魔感知で確認するイザに、


『あいつはかなりやばいよ』


 スイの念話が入ってきた。


『傷を負った魔獣は大概激昂して突進して来るもんだ、けど、あいつは何かを感じてアッサリ引いた。ああゆう奴は抜け目なく隙を突いて又襲って来るよ』


 何の確証があって言っているのか分からないが、キッパリ断言するスイの言葉にイザも同感だった。


 捕食者の傲慢な目、その中にある種の知性、あの魔獣からはずる賢さが感じられた。


 気絶したままの戦士に再度呪魂を宿らせると、何とか移動は出来るらしい。だが、所詮は見習い呪術師、ドゥーの魔力はこの時点で尽きかけている。


 しょうがなく、貴重な魔裡藻を与えた。これは、青の湖を出発する時にギョランが渡してくれた、たった一つの貴重な魔力回復薬。


 なけなしのアイテムも命あっての物種だ。近接戦闘要員は、ドゥーのサポートありきの戦士達で、ドゥーの呪術が生命線といえる。

 苦くまずい魔裡藻を、つっかえつっかえ飲み込んだドゥーの魔力はほぼ全快した。


 イザの魔力もそれ程消耗していないので、高濃度の肉水を気絶している戦士に無理矢理摂取させる。むせながらも無理矢理飲み込ませると、血の気の引いた顔色が、元通りの黒ツヤを取り戻していった。

 暫くすると「ううっ」と呻きながら戦士が目覚めた、自力で動けるようだ。


「なるべく早く下山しよう」


 イザの提案に頷く一同は、簡単な食事をすませると、来た道を戻り始めた。

 後ろからの襲撃に備えて、前後を戦士達で挟む陣形で、夜叉神のみならず、他の紅トカゲをも警戒しながら下る。


 日はまだ高いが、落ち加減を見ると、この季節の短かくなり始めた太陽はそう長く持ちそうにない。息も荒く、寒くなってきた山での強行軍に微熱を感じながら降りる一団は、終始無言だった。









 夜叉神は斜面を8合目位まで登ると、辺りに何者もいない事を感知する。

 跳び下る前まで夜叉神がいた場所には、彼の臭いを恐れた他のトカゲ達は近づいていなかった。


 おもむろに丸くなる夜叉神、彼の全身の皮膚からブワッと粘液が分泌される。

 すると、夜叉神の上口蓋を貫いた穴や、小さな傷などが見る見る塞がっていった。


 回復の粘液はかなりの魔力を消費する。夜叉神の魔力もかなり消耗していた。だが、


『あいつ等は、この山のボスたる自分に傷を付けたあいつ等だけは、絶対ぶち殺して食ってやる』


 この山から逃さない、自分のテリトリーに踏み込んだ奴は皆俺の食糧なのだ! 執念が宿る目をギラつかせて夜叉神は粘液を吸収すると、皮膚感覚を最高まで敏感にする。


 〝いた!〟


 ズルリと動き出す夜叉神の足音は、その巨体に似合わず静かである。

 滲み出る殺気を封じ込めると、なめらかに、滑るように山を下る彼は、木々の間にスッと消えた。

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