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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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呪術師コーラル

 宿の亭主マクリートが手配してくれた馬車は、大陸東部の街道をひた走り、通常丸三日の行程を二日半に縮めてくれた。


 中型馬四頭立ての馬車が疾走する草原は、埃っぽく乾燥している。辺りはどこまで行っても地平線と遠くの森のみ、幸い天候に恵まれて順調な旅程だった。


 御者は爺さんと孫のふたりだけ、だが元ハンターだったマクリート御用達の馬車商だけあって、腕は確かだ。一度ショボイ盗賊団に襲われかけたが、巧みな操馬術によって、馬車の勢いだけで蹴散らしてしまった程である。


 街道から外れた所にある村には、直接馬車で乗り入れる事ができないので、御者達には一番近い街道で待機してもらう事にする。一週間後まで待機してくれるとの事で、半金の50銀を渡した。


 そこからはひたすら歩きである。状態の悪いラヴィを気遣いつつ、頑張って山道を歩く事半日、ようやく目的のジョンワ村に辿り着いた。


 獣人大陸の先住民ジョンワとは、先史〝知の王〟時代より、未開民として草原地帯で独自の文化を築いてきた少数民族である。

 未開とはいえ、長年掛けて築き上げた文化は独自の成熟をみせ、呪術に於いては他の追随を許さぬものがあった。


 だがイザ達が村に入ると、人っ子一人いない状態だった。閑散とした集落には、ポツンポツンと三角錐のテントが並んでいる。


 羊飼いを生業としているであろう家にも、羊は一匹もおらず、空っぽの囲いが虚しく扉を開け放っているばかり。


 だが、イザの魔法感知には、明らかな生物の反応がある。テントの中では息を殺した住民がこちらの様子を伺っていた。


「すいませーん!」


 イザの呼びかけにも、辺りはシーンと静かなままである。


 困ったイザがもう一度呼びかけようとした時、中央の一際大きなテントの入り口が開き、中から長杖をついた老人が出てきた。


 背は曲がっているものの、眼光鋭く、高い背を更に高くする飾り羽を付けて、大振りの首飾りや綺麗な腰布を巻いた黒人が何も言わずにイザ達を凝視している。


『気を付けて! 杖に土精の収束を感じるよ』


 スイの警告に身を固くしながらも、


「失礼します、私はイザ、こっちはラヴィと言います、この村に呪術の依頼にやってきました」


 と大声で伝える。すると、老人は片手を上げつつ近づいて、


「大声で言わんでも分かっておる、お一つ様のお告げ通りじゃ、そこで座って待て!」


 言われた通り、イザは地面に座り込んだ、そして、


「土産です」


 と言いながら、背負い袋からお土産として持ってきた鋼の鉈や反物などを出して地面に並べた。マクリートさんの助言に従って用意した品である。


 ラヴィは鉄木の助けを借りて膝を付くと、そのままの姿勢で固まった。


「正直ワシも困っとるんじゃ、お告げは大雑把じゃし、来たのは獅子族の女と少年なんちゅう珍妙な連中じゃし、全くお前らはなんじゃ?」


 そう言って杖を向けつつ三歩手前で立ち止まる。


「ダグラスさんの紹介でコーラルさんに会いに来た者です」


 イザは分かり易いように短く答えて相手の反応を伺う。


「ああ、分かっているとも、呪術師に会いに来る客の事は聞いておる、ダグラスってのが何者かはしらんがな」


 答える老人がコーラルでは無い様だ、地面に並んだお土産を品定めしながら続けた。


「ワシが言っとるのは、お前等が何を求めとるかっちゅう事じゃよ」


 お土産の中から一番高級な絹の反物を服の中に仕舞い込みながらも油断無く二人を凝視し続ける。


「彼女は獅子族の戦士ですが、呪いを受けて弱っています。私は付き添いとして、彼女が治るまで一緒に行動している只の旅人です」


「呪術師にその呪いを解いて欲しいってわけじゃな?」


 やっと話が通じた。


「そうなんです! コーラルさんに会わせていただけますか?」


 イザが勢い込んで身を乗り出す。


「それは呪術師次第じゃな、どれ、聞いて来るからおとなしくここでまっておれ」


 そう言うと、スタスタと村の奥に行ってしまった。


 残されたイザ達は、居心地の悪い視線に晒されながらも、動くに動けず大人しく待つしかない。


『さっきの土精の気配以外にも、周りから闇の精気とかも感じる、油断しちゃだめよ』


 スイの警告に従って鉄パイプをいつでも抜けるように皮紐を手繰る。左手首に並んで括られた鉄木と粘蔦の種も、いつでも使える様に位置を確かめた。


 もしこの場で襲われたら一溜まりもないだろう。何しろ相手のテリトリーど真ん中で、連れは呪われて戦力にならない処か、足手まといにしかならない。


 だが、万が一の時は唯やられるだけでは済まさないつもりでいるし、力を示す事で抑止力としての効果が発揮されることもある。そんな物騒な事を考えている時、


『そう気張らんでも良い』


 女の声で念話が届いた。


 スイ以外の念話を初めて聴いたイザは、驚いて声の主を探す。


『こっちじゃ』


 思念の元を辿ると、村の奥からだと分かる。


『女と共にこちらに来るが良い』


 土産をそのままに置いて、言われた通りに村の奥に向かうと、一軒の大きなテントが入り口を開けており、先程の老人が立っていた。


「お前その武器を渡せ、帰る時までワシが預かる」


 老人の足元に鉄パイプとラヴィの大剣〝ベフィーモス〟を並べた、老人は頷くとテントの中を指し示す。


 テントの天井や入り口からはお香の煙が立ち昇る、外の明るさと対照的で屋内は真っ暗だった。中を伺うが煙とあいまって何も見えない。


 独特のお香はこの地域の香木を焚いているのだろう、慣れないイザにはむせ返る様に感じたが、ラヴィにとっては慣れたものらしい。


 勇気を出して一歩踏み込むと、煙に混じって煤も舞っている。奥には大きな囲炉裏と祭壇があり、床にある寝籠には老女が寝転がり水パイプをくゆらせ、側には少年があぐらをかいていた。


「お前がダグラスの知り合いってガキかい? どれ、こっちにおいで」


 老女が手招きする、寝籠の中には小さく縮んだ皺くちゃの老女が、派手な絹に包まれて、埋もれる様に収まっていた。


 イザが恐る恐る寝籠の前に立つと少年と目が合う。キラキラと大きな目が黒い肌とあいまってとても大きく見えた。

 少し年下に見える少年は珍しい客に興味津々の様だ。


「こっちにしゃがんでご覧」


 老女が促す通りにしゃがむと、お腹をさすられた。


「ほっほっ、珍しいね、木の種が共存しとる人間は初めて見たよ。長生きはするもんじゃな」


 面白がって尚もさする。


「ダグラスさんとの繋がりの証があります」


 赤札を背負い袋から出そうとするイザを手で制して、


「わかっとるよ、今日お前さん等が来るのはお告げで出ておった」


 老女の言葉に、イザは出鼻を挫かれて黙り込む。その様子を楽しそうに眺めながら、


「で、この女が呪われとる訳じゃな」


 ラヴィの方を見た。そして傍の少年にゴニョゴニョと耳打ちすると、ラヴィの元に向かわせる。


「この子はドゥー、ワシの助手じゃ」


 その少年、ドゥーはラヴィを観察すると、おもむろに頭を掴む。驚いて身じろぎするラヴィに構わず、掴んだまま何か呟くと、手が淡く発光した。


 淡い光の中、頭を締め付けていた痛みが和らぎ、ぼやけていた思考が覚醒していく。


「治った」


 思わずラヴィが喜ぶが、


「一時的なものさ!こっちの祭壇においで」


 コーラルに言われてドゥーと共に祭壇に移動する、祭壇前にはちょうど寝そべる位の場所があった。


「お前はワシを引っ張っていくんじゃ」


 イザはコーラルの寝籠をズリズリと祭壇まで引きずる、途中床に転がる壺や燭台を倒して、叱られながらも、なんとか辿り着いた。


「どれ、みてやるからジッと寝ておれ」


 コーラルがラヴィに被さると、


「ふむふむ」


 と全身をさすりながら時間をかけて観察していった。さすり続けた後も、骨振りや石割りといった呪術の作業を延々と繰り返していく。

 長時間の作業にイザが眠くなってきた頃、


「どえらい呪いに罹ったもんじゃ」


 汗を拭きつつコーラルがラヴィに告げる。


「こいつを治すのは骨が折れるわい、下手すれば命がけじゃ」


 イザを覗き込みつつ、


「じゃが! ワシなら何とか出来んでもない。坊主、見返りに何をくれるつもりじゃ?」


 言われてイザは金の入った袋を取り出す、目減りしているが、まだ3金以上は入っている筈だ。


「そんなもん、ここじゃあ意味がない」


 コーラルは手を振る、イザは背負い袋を漁り、魔石を取り出すとコーラルに差し出した。


「ふむ、中々良い物も混じっているようじゃな」


 コーラルは幾つかの石を取ると品定めした、が、ポイッと放りかえすと、


「じゃがこんなもんで命はかけられんのう」


 というと、イザの襟首を掴んで引っ張り、耳元で囁いた。


「命がけには命がけでかえしてもらおうか」


 襟首を放したコーラルがニヤリと笑いながらイザを見上げた。

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