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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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金瓜亭のナイスガイ

 〝草原の街ギアナ〟


 容体の優れぬラヴィを連れた、イザ達が辿り着いた街は、草原東部の城塞都市。

 かつて草原を統一した半馬族の王が築いた城壁は、半径一キロの真円を形づくり、その周囲にも新街が出来上がり、スラム街を形成していた。

 丘状にせり上がった頂上には、かつての支配者ギアナ王の城がそびえ立ち、現在では魚人族の商業組合が所有している。


 魚人族の街特有の、幅広く商取引が行われる商業都市として、近年急速に発展してきたギアナは、人で溢れ返り活気に満ちていた。城壁につくられた門には長蛇の列が出来ている。


 その列に並ぶ事しばし、門番にイザの赤札を見せると、ラヴィの容体を説明する。何らかの魔法にかけられた様だと話すと、熱心な信徒だという壮年の門番兵が「早く教会にいくように!」と親切に道順まで教えてくれた。


 そのラヴィは今、スイの作った海綿草をより合わせて作った服を着ている。それはサイズが大きく見た目は悪いが、かえって鉄木の支えの存在を隠すのに都合が良かった。


 半馬族の作った砦だけあって、幅が広く砂地を踏み固めた足に優しい道を行くと、街の中心部、太い路地の交差点に〝ドーン〟と居を構える、巨大な真っ白の建築物がある。


 〝実在神リーバ教会〟


 光精を眷属とする母神リーバを祀った、タガル大陸で広く信仰されている教派である。


 同じく光精を眷属とするシーメン流と共通点が多く、一部では同一神なのでは?と言われているが、両教会共に否定している。


 実在神とは、伝承される神々の中でも、現象として現世に力を発揮しうる存在であり、光精神(シーメン流やリーバ教)と黒神が広く認知されている。


 この二大神は信者も多い、何しろ現実にご利益があるのだから、その求心力は時の権力者など比較にならないほどである。


 従って、教会の権力はどの大陸にも及び、様々な流派に分かれながら、あらゆる種族に浸透している。


 そしてギアナのリーバ教会は、タガル大陸でも有数の格式をもっていた。


 〝光精神の有るところ繁栄あり、繁栄有るところに魚人族あり〟


 と言われる程、光精神の教会がある地は発展する。近隣地域の作物の安定的豊作、病や呪いからの治癒(金持ちに限る)、魔獣や獣、モンスター除けの結界の設営など、いい事ずくめ。

 イザが最初に訪れたシュビエの街しかりである。


 そんな儲け話に便乗しない魚人族ではない。魚人族の主要都市には、必ず光精神の教会があった。


 リーバ教会ギアナ支部も、沢山の旅行客や商売人に混ざって、病を治すために遠くから巡礼の旅をしてきた獣人などで混雑していた。


 さんぜんと輝く白亜石の重厚な造りの外壁をくぐると、モザイク模様の立派な内装、参拝者の為のベンチやついたても、巨大な一枚板を加工した、シンプルながら豪華な造りとなっている。


 礼拝堂の奥にあるリーバ教会治癒院の受付は、今日も混雑していた。


 治癒院には外傷を治す部署、解呪を司る部署、精神的な治療を司る部署、終末期を静かに送るための部署など、細かく様々な専門部署に分けられている。


 そしてあまりに軽症な者には、他の重症者に治療を譲る為に、治療を断る事もあるため、受付にいる鑑定士と治療助手による審査にかかる必要があった。


 ラヴィ達も朝から受付に並んでおり、審査を受ける頃には昼過ぎになっていた。


 途中で魚人の売り子がパンを売り回っている事に驚く、ラヴィ達も硬いパンと熱い乳茶を買ったが、相場よりも5割増し位の値段であった。それ以外の食べ物の飲食は禁止で、持ち込み食料を食べようとして注意を受けたイザやスイは『理不尽だ!』と立腹したが、ここでは当たり前の事らしい。


 やっとラヴィ達の番がきた。イザも付き添いとして同席する。背の低いおばちゃん治療助手は、魚人族特有の生臭い息を吐きながら、規則通りの口上を一気に喋り捲る。


 曰く、これから行う魔具を使った鑑定は、リーバ神のご威光により、絶対の信頼を誇る。故に、鑑定で治療の必要なしと出た場合は、速やかに院外に退出する事。


 曰く、治療の必要ありと鑑定された場合には、治療師による施術を受ける事ができるが、お布施を先に支払う事が出来ない場合は、これまた速やかに院外に退出する事。


 曰く、治療師の施術は間違いなくリーバ神の力が込められており、効力のあるものだが、不信心やその人の持つ運命などにより、効果を発揮しない場合もあり得る。その際も文句を言わず、速やかに院外に退出する事。


 要するに、こちらのいう事に逆らわず、言うこと聞いて、効果が有ろうが無かろうが、文句を言わずに金を置いてさっさと去れ、ということらしい。


「同意したら早速鑑定するから、ここにサインして」と詰め寄られた。


『呆れた!こんなのやってられないわ!』


 スイがカンカンになって怒る。イザも確かに余りに一方的だな、と、思いながらも他に手はない。ラヴィを見ると、辛そうに首肯したため、


「お願いします」


 と頭を下げて鑑定料2銀を支払った。


 それからはあっと言う間だった。鑑定士の持つ箱型の魔具に手を付けて、10個程の質問に答えて行く。


 たったそれだけで、解呪担当の部署に回された。さっきまでの待ち時間は何だったんだと思うほどあっけなかった。


 そして解呪担当部署で待つこと二刻、治療師の問診も程々に、1金ものお布施を要求された。


 遂にスイが『やってらんねー!』と切れていたが、他に手はない。渋々ラヴィが支払うと、治療が行われた。


 素っ裸にされて、ベッドに横たわる。当然イザは退出させられる中(わからないように鉄木も解除して回収した)、何故かベタベタと胸や下腹を触られながら、解呪魔法を唱える治療師。


 確かに金光が部屋に満ち、暖かな存在が体を通るのを感じた。


 が、頭のだるさは全く改善しなかった。服をきて、鉄木の補助を受けながら、治療師の説明を聞く。


 曰く、治療は成功した、あと数日すれば呪いは消えるだろう、だが、信心が足りない場合は治療が完全に効果を発揮しない事がある。故に、帰りに礼拝堂にてお布施を上積みすると尚よいでしょう、との事。


 テカテカに禿げ上がった脂ぎった人間のおっさんが笑顔でそうのたまった。


 スイに確認した所、ラヴィの闇精気の気配は全然変わらないらしい。ぶん殴ってやりたい! とイザですら拳を握りしめる。

 ラヴィが完調ならば、自分でぶった切っていたかもしれないが、弱った今はそれどころではない。


 唯一の希望にすがってフラフラと礼拝堂に行くと、お布施を更に1金、中央の神像に作られた祠に納める。

 後は軽く司祭に祈りをかけられて終わりだった。


 見守るイザも、なすすべがない。自分の治療に自分のお金を支払うラヴィを止める権利はどこにも無かった。


 夕暮れ迫る中、街の外れに移動すると、ラヴィがこの街に来た時に利用するという宿に向かう。


 〝金瓜亭〟の亭主はラヴィの事を覚えており、すぐさま二人部屋を用意してくれた。事情が事情だけに、付き添いのイザの料金は取らず、ラヴィの分も一人部屋と同じで良いと言う。


 元戦士の金瓜亭亭主のマクリートは、男気溢れる親父で、旅人からの信頼も厚い太っ腹な男である。


 早くもこの街を嫌いになりかけていたイザとスイは、


『オヤジィッ』


 少し上気した目で親父の太腕を熱く見てしまった。この街も捨てたものでは無いようだ。


 それから3日間、頭の重いラヴィを気遣いながら、無益に部屋で過ごしたが、案の定容体は一向に良くなる気配がない。

 とうとう痺れを切らしたイザは、最終手段に出ることにした。


 この状況を何とか出来る情報を知りうる人間、ダグラスへの通信である。


 ダグラスからの書状にあった魔法印を、説明にあった通りに思い切って千切る。

 魔力の干渉がイザの頭の中に入り込むと、暫くしてから遠くから声が聞こえてきた。


 最初薄っすらと聞こえていたものが、声だと判別出来た頃、唐突にダグラスの低い声が呼びかけた。


「イザか、今どこだ?」


「タガル大陸のギアナの街です、今、師匠からの卒業試験を受けて魔獣狩りに出ています」


「じゃあ、まだ修行は終わっていないんだな、その時点で連絡とはどんな要件だ?」


「魔獣狩りを終えて、師匠の元に帰ろうとしたんですが、途中で同行者が出来ました。しかしその者が呪いにかかってしまい、立ち往生しています」


「そいつは見捨てる訳にはいかないんだな?」


「はい」


「その呪いを解く方法を教えろと?」


「はいっ」


「そうか……タガル大陸東部なら、凄腕の呪術師コーラルが居るはずだ。ギアナからなら、北に馬で二日の集落に住んでいる。ジョンワという原住民の村だ」


「そこに行けば診てもらえますか?」


「ああ、お前の赤札は俺の名前で登録しているから、それを見せれば診てもらえるはずだ。後は報酬だが、それは行って見ないと分からない、だが、法外な金額は請求されないだろう」


 頼りになるダグラスの情報網に改めて感心したイザは、


「ありがとうございます、なんとかそれで行ってみます」


 と感謝した。


「それが済んだらバイユに戻れるか?」


「たぶん、師匠も最後の試験だと言っていたので、報告次第戻れると思います」


「なら良かった、完全に冬が来るまでにバイユに戻る様にしてくれると都合が良い、俺も今は別の場所にいるが、その頃にはバイユに戻る様にしよう」


 そこまで話した時に交信の時間が切れた。


『今のがダグラスね』


 始めてのスイが確認してくる。


『ああ、そうだよ、スイが寝てる間に色々お世話になったんだ』


 イザは完全に信頼している様だ、スイは大体の話は聞いていたが、その信頼が怖いと思っていた。

 スイの事も完全に把握して、その上で泳がせているのも不気味だ。


『ダグラス、一番手強い奴だね』


 スイは肝に命じた。


 ともかく、目的地は決まった。金瓜亭の主人マクリートに聞くと、ジョンワ村に行くには馬車を借り切るしかないらしい。


「知り合いの馬車商に掛け合ってやる」


 マクリートさんが胸を叩いて請け負ってくれる。


『オヤジィッ』


 その頼もしい姿にイザとスイは完全にいかれてしまった。マクリート・ファンがまた一人増えた瞬間だった。


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