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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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黒の三姉妹

 黒神の啓示を受けた母は、黒司祭との間に三つ子の姉妹を産むと絶命した。

 享年18歳。細い体躯の、地味で、これと言って目立つ所のない少女は、その命と引き換えに歴史に残る大事を成し遂げた。


 黒司祭の元、村人に保護され大切に育てられた三姉妹は、16歳の誕生日を迎える。


 光を吸い込む闇の様な黒髪、雪白の肌、真っ赤に艶めく唇、背格好のそっくりな三人が漆黒のドレスを身に纏う姿は異様ながら美しかった。


 村人総出の盛大な誕生会の席で、突然、黒神からの啓示が下る。


 〝すべてころせ〟


 三姉妹の頭の中に声が響くと、弾かれる様に躍動する。


 三女は両手に黒の曲刀をそれぞれ生み出し、当たるに任せて斬りつける。


 次女は鎌刃状の短刀を生み出すと村人の影を伝う様に駆け抜けながら急所を切り裂いていく。


 長女は微動だにせず、手に黒杖を持ち、黒神への祈りを呪文に紡いでいく。


 無抵抗の村人が次々と斬られて行く中、黒司祭は満足そうに中央で立つ。そして残りは黒司祭だけとなった頃、大きく両手を掲げると、前後から黒刃を突きたてられて絶命した。


 長女の呪文が完成し、巨大な魔法陣が場を満たすと、村人達から沸き立つ黒いモヤを吸収し出した。


 最後に黒司祭から沸き立つ一際大きなモヤを吸い込むと、二つの力場が出来上がる。


「あたしはこっち」長女が言うが早いか一つの魔法陣に飛び込む。


 次女と三女が顔を見合わせると、我先にともう一つの魔法陣にダッシュする。


 素早い次女が届きそうになった時、三女は二つの刀を投げつけた。


「グアッ!」


 一本は避けたが、もう一本が足の腱に当たる。派手に転倒する次女を他所に、三女は魔法陣に飛び込む。


 と、辺りは何時もの静寂を取り戻した。大量の死体と呻く次女を残して。


「「フフフフッ」」


 二人の少女の声が黒の聖堂に響き渡っていた。






「遅かったわね」


 あれからどれほどの月日がたっただろうか?迎える長女は、しかし、何ら変わる事無い少女の顔で、シミ、シワ一つ見受けられない。


「生贄はどうしたの?」


 感情も抑揚も欠落した声は、完璧な少女の口から発せられるだけに、聞く者に空寒い印象を与える。


「ごめんなさいお姉様、失敗してしまいました」


 三女は身を竦めて謝罪する。


 姉妹は対等では無い、何時でも姉が考え、妹が動く。姉の命令は絶対である。


「おかしいわね、私の言付け通り動けば失敗するはずがないのだけど?」


 問いかけながらも目付きが鋭くなる。妹は移り気で、堪え性がない。言付け通りに行動しなかった事は、今までも散々経験して来た。


 言付けを破った時のお仕置きは凄惨を極めた。過去の経験を思い出して身震いする三女は、


「お姉様の言付け通りやったんです! でも、あと一歩の所で失敗しました」


 手を合わせて訴えた。


「あら、そう。ならちょっと確認させてね」


 と言うや、右手を無造作に妹に向ける。


「ひっ」


 と縮こまる三女の頭に、長女の右手の影が伸びると、三女の頭の影を鷲掴んだ。

 瞬時に白目をむく三女。


「ふむふむ」


 と首是しながら何かを読み取った長女は、


「やっぱり遊んだわね、呪物も壊して、本当使えない」


 と言うや、無造作に妹を解放する。


 白目を向いたままドサリと地面にくずおれた三女に見向きもせず、長女は立ち上がると屋敷の地下に向かった。


「全く無能にも程が有る、これならあの娘を残しておくんだったわ。早い所こちらの準備も進めなくてはいけないのに、ったく雑魚が」


 一人ブツブツと呟きながら書斎の隠し扉に向かった。

 広大な敷地に屋敷を構える、とある貴族の立派な離れ。その地下は、とてつもなく深い地下迷宮と繋がっている。


 邪悪な穴〝呪呪魔呪〟


 様々な場所と次元魔術の通路で繋がるこの迷宮の最深部、少女に与えられた部屋に向かう。


 ダンジョン・マスターからの依頼〝魔法人形〟の作成の為に与えられた部屋には、様々な実験体、生贄の為の檻が並んでいる。


 あと一体、狙いを付けた獅子族のクイーン種が手に入れば、完璧な人形に仕立て上げる自信があっただけに、惜しい、悔しい。

 だが、期限は迫っている。もう次の機会を作って彼女を手に入れる時間はない。


「しょうがない、手持ちの材料でいくか」


 呟きながら、一つの檻の前に立つ、中では怯え切ったラミアが、長大な蛇の胴体を長女の立つ位置の反対側に巻きつけて、固まっていた。


 長女が右腕をかざすと、ビクッと痙攣し、表情を無くす。


 魔力の鍵を解かれた檻が一人でに開く中、無気力、無表情のラミアが這い出てきた。


 その体長10m、少女の上半身に虹色に輝く蛇の胴体。希少種と言われる個体は、ラミアの中でも、魔力に優れた強力な種族だ。

 輝く鱗は、所々剥げ落ち、切り取られている。よく見ると、彼女の片目は眼球から切除されていた。


 次々と檻を解放して行く長女、ラミアの後には文字通りの長蛇の列が出来上がる。

 種族等は様々なれど、いずれ劣らぬ希少種ばかり、皆何処か欠け、削れ、失っていた。


 這い進む先には、巨大な魔法装置と、様々な薬品の入った貯蔵樽、それらをグルリと囲う魔法陣は、様々な光が入り混じり、毒々しく辺りを照らし上げる。


「それじゃ始めるわよ」


 いつの間にか現れた男に向かって喋り掛ける。今回の依頼者、ダンジョン・マスターだ。


「報酬の方は準備出来てるんでしょうね」


 長女の問いかけに頷くと、


「もちろん!私が約束を違えるなぞあり得ません!今、ある者に取りに行かせております」


 甲高い声かつオーバーアクションで返事が返って来る。


『うざい奴!』


 長女は少し眉をしかめると、踵を返して魔法陣に向かう。


 似合っていると思ってるのか?何時もの真っ黒タキシードに真っ黒のハット、髑髏のワンポイントの入ったステッキを持った、痩せぎすの男は、しかし、確かに約束を違えた事は無い。


「じゃあ始めるわよ、仕上がるまで辞めないから、付き合うなら覚悟しなさい!」


 ビシッと言い放つ長女に、肩を竦めるダンジョン・マスターは、ハットを取る。


「望むところでございます」


 真っ黒な眼球をすぼめ、深々とお辞儀をした。


 それからは不眠不休の作業が続く事になる、呪呪魔呪最深階は年中無休で邪悪にデッドエンドだった。

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