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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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ボーイ ミーツ 獅子ガール

 イザは魔力探知を頼りに森の中を進みながらも、ドライアドの加護やスイに教えられるがまま、木の実や果物等を採取していた。


 暑さの盛りを過ぎ、森は実りの時期を迎えている。今も、鮮やかな黄色の果実が鈴なりになる低木〝カジュ〟の前に屈み込んでいた。


 たわわに実るカジュの実は完熟果実独特の甘い匂いを周囲に漂わせ、思わず一つ手に取ると、ズッシリと重く、ポテッとした見事なフォルムで手のひらに収まる。

 その艶やかな薄皮を剥くと、真っ白な果肉が現れた。表面に滴り落ちる果汁を啜りながら、大きく一口かぶりつくと、


 〝ジュルッ〟


 格別に甘い果肉に、イザの目がとろけ、頬が上がる。後味すっきり、尾を引く甘い香りには、何の嫌味もなかった。

 果物好きのイザでなくても誰しもが魅了されるであろう、ねっちりとした果肉の繊維をしがむと、まだ甘味が染み出てくる。


 二口、三口かぶりつくと、そこからは止まらなかった。気が付くと、全ての果実を食べ尽くし、大きな種をしゃぶっていた。


 全部で8個もの種を手に、


『これも育てられる?』


 と念話でスイに確認を取り、


『できるよ』


 との返事を聞いた時には、思わず拳を握りしめて、


「よっし!」


 と珍しく声を張ってしまった。


『こんな楽園のような森があるのか』


 飢饉に見舞われ、黒神の呪いでやせ細った森しか知らないイザにとっては、別世界のように感じる。

 同時に、今も飢饉に苦しんでいるであろう家族の事を思い出し、ギュンと切なさがこみ上げてきた。


『ほらほら、早く進みなさいな』


 ホームシックにかかるイザが、けしかけるスイの一言で我に返ると、寄り道し過ぎて木の実や種でいっぱいになったズタ袋を背負い袋に入れ、キノコ類を横に引っ掛けて担いだ。


 もうほんの少し先には、最初に感知した生物の所に着くはずであったが、イザの魔知覚には、もう一体の生物の反応が感じられている。


 だいたい生物の癖に、朝感知した場所から移動していないのはどういったわけか? 近づくにつれて、どちらもそこそこの大きさのある生物だとは分かってきた。


 野生の動物が巣に篭っていて、そこを狙う別の動物が感知されているのか? どちらにしても人間ではなさそうだ。ましてや、集落なぞ望むべくもない。


 だが、他にこれと言って向かう当てもないイザは、動物なら仕留める。魔獣なら極力回避して、無理なら戦う。そう決めて、黙々と歩いた。


 うっそうと茂る下草を、鉄パイプから出した精霊石ナイフで払い進むと、朝から目的としてきた生物の地点向かう。


 少し開けた場所に生える〝赤色二年木〟の下に、何がしかの動物が居るらしい。二年木の落節でよく見えないが、動きからして眠っているようだ。


 イザはその大きさに警戒心を抱く、どう見ても体長で負けている、大型獣の可能性が高いとふんだからだ。

 もう一方の生物は、姿は確認出来ないが、どうやら向こう隣の赤色二年木の上に止まっている様だ。

 というのも、20mほどある二年木の真ん中辺りに魔感知が薄っすら引っかかっているが、何度見ても姿は見えず、植物に居るはずなのに、ドライアドの加護による知覚が働かない。

 大きさからしてそこに存在する事があり得ない事から、考えるのを一先ず保留した。


『下のやつ、怪我してるみたい』


 スイが念話で教えてくれた。


 その姿を見ようと、隠密行動で慎重に木の反対側に回り込む。


 その丁度半分、もう少しで体の一部が確認出来そうな位置で、下の生き物がゴロリと体位を変えた。


『腕! 人間のものだ!』


 予想を覆した人間の出現に、驚き、また少し嬉しくもなる。その時、隣の赤色二年木の枝が動いた。

 いや、その枝に見えていた物は、大きな羽を広げると下の人間に飛びついた。


『あっ』と思う間もなく、大きな鎌足を振り下ろす、下の人は何とか抵抗している様だが、もみ合いながらも力負けしているのだろう。鎌足が振り下ろされる度に、鮮血が飛び散った。


 〝タガル・レッドマンティス〟


 タガル大陸の赤色二年木の森に住む、赤茶色の巨大カマキリ、魔力感知を持ってしても特定しずらい程の擬態能力を誇り、体長3mを超える成体は、縄張り内の全ての生物を襲う森の殺し屋である。


 赤くて太いお腹を、ビビビッと揺らして狩りを楽しむレッドマンティスに、思わず飛び出したイザは水撃を放つ。


『何してんの!ほっときなさいよ』


 反対するスイを他所に、ホームシックと人恋しさの募るイザは、


『人間だぞ!助ける!』


 と、何時もの冷静さを欠いた念話を飛ばしつつ、人間の元に走った。

 狩りを邪魔されたレッドマンティスは怒りに震え、羽を広げると、


「ジャジャジャジャッ」


 と腹を鳴らして威嚇する。そして狙いすましたイザの水撃も、信じられないスピードで躱し続けてしまった。


 その時、振り上げていた鎌足から、


「ブブブーン!」


 という大きな音が聞こえたかと思うと、振り下ろした鎌足から衝撃波が放たれる。


 狙いたがわず飛来する衝撃波に吹き飛ぶイザ。咄嗟にスイが張った鉄木盾のおかげで直撃はまぬがれたが、その盾に刻まれた斬撃の痕を見て戦慄を覚えた。


 間髪おかずに飛びかかるレッドマンティスは、羽ばたいて半分飛びながら瞬間移動の様に向かってくる。

 大きな二本の鎌足と、その内側の小さな多数の鎌足を大きく広げて突進するレッドマンティスは、スイが展開する鉄木盾を容易く切り裂くと、イザの肩や腹を傷つけた。


 イザはその間、刃水を撃ち出すも、ことごとく躱され、鎌足で撃ち落とされてしまう。


『盾に肉水!』


 スイの激に反応して、鉄木盾の草魔法に肉水魔法を同期させて行く。


 切り裂かれた盾が見る見る太く硬くなり、レッドマンティスの攻撃を受け止めつつ、体を捉えようと枝や根を伸ばすが、素早い動きについて行けず、届きそうになっては鎌足で切り裂かれた。


 肉水を囮にしたかったが、その隙もない。さらに小さな鎌足をギチギチと盾に食い込ませると、


「ブブブーン!ブーン!」


 左右の大鎌から嫌な音が聞こえた。


 次の瞬間、左の大鎌が鉄木盾を大きく切り裂くと、ぽっかりと隙間が空いて、虫独特の無感情な大きな目と、イザの目が合った。


 右の大鎌刃を振り上げて今度こそ仕留めようと超速突進するレッドマンティス。

 すんでの所でイザは全力水撃を地面に発射する。


 膨大な量の水撃が地面にぶち当たり、周囲は一瞬にして水飛沫でけむった。イザはその勢いに乗って飛びしさり、レッドマンティスから、鉄木盾で見えない位置に跳ねる。


 回り込もうとするレッドマンティスをようやく鉄木で捕まえるスイ、幸い水飛沫が上手い具合に目くらましとなった。


 スイの締め付けと、レッドマンティスの斬撃が鎬を削る中、イザは必死に高濃度肉水をつくるとレッドマンティスの足元に射出した。


 肉水に反応して地面に飛びつくレッドマンティス、鉄木がその鎌足を包み込む様に伸びると、ギュッと刃が内側を向く様に縛り上げた。


『粘蔓いくよ!』


 スイの念話で、ポケットから種を取り出すと、驚異的なスピードで無数の粘蔓の束が生み出され、鉄木の隙間に入り込んで、レッドマンティスをギチギチに縛り上げる。


 頭だけ出したレッドマンティスに近づき、首関節に思いっきり刃水を発射する、が、驚く事に切断できなかった。


 鉄木と粘蔦に絡め取られてなお、ギチギチと抵抗し続けるレッドマンティスは、グルン!と首を回してイザの方を向くと、牙を最大に開いて威嚇する。顎の端から茶色の体液が飛んで、イザの服を汚した。

 その口に鉄パイプを突っ込んで、刃水を発射すると、ようやく頭を切り飛ばす事が出来た。


「ふいーっ」


 思わぬ死闘にへたり込むイザを、


『勝手に何突っ走ってるのよ!』


 回復水で治療しながらスイが嗜める。


『ごめんなさい』


 素直に謝りつつも、とにかく木の下の人はどうなったか?と、気が気でなく、そちらに向かう。

 そしてイザは絶句した、血まみれで横たわって居たのは、2mほどもある半裸の女性!


 こうしてイザとラヴィは出会った、ラヴィにとっては最悪な厄日の、不幸中の幸いである。

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