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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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ダーク・ストーカー

『おかしい』


 炎剣を倒して街に向かって歩き出したラヴィは、ジワジワと違和感を感じ出していた。

 踏み出す足は少しづつ重くなり、周囲の音は聞こえ辛くなる。

 目は焦点が合わせにくくなり、思考能力が鈍って来たのか、今何処に向かっているのか、ふとした瞬間に分からくなって、立ち尽くす様になっていた。


 炎剣の持つ短剣に毒が付着していたのは、臭いと見た目で察知していた。毒は絶対に受けていないと確信を持っている。


 何が原因か分からないで体に変調をきたす恐怖に、精神まで侵食されていき、やがてそれすらも麻痺してきた。

 そしてとうとう立ち止まり、両手を地面に付けるラヴィは、自然と四つん這いになると、


「ガオォーーン!」


 気合一発、咆哮を放った。溜まっていた涎が飛び散り、滴る。獅子族の戦士としてのプライドが、気力が、突然の体調不良をも凌駕した。


 一瞬、覚醒した隙に、ポーチから万能ポーションを取り出すと、一気に飲み干した。〝ボッ〟と火のついた様に食道が熱くなると、


「ガオォォン!」


 身体活性を促す為に、再度吠える。


 万能ポーションはその名の通り、飲用者の抵抗力を上げて、あらゆる毒や病気に対処する事の出来る、高級魔法薬である。

 飲用者の体力、気力によって効き目が段違いに変わってくる魔法薬は、驚異的な体力、気力を誇るラヴィに劇的な効果を発揮するはずだった。


 だが一瞬取り戻した意識も、更に襲いくる倦怠感に押されて、麻痺してくる。張っていた肘も崩おれた。



 その時、ラヴィの影が形を変えだす。もはやハッキリと認識できなかったが、それは女の形を成すと実体化した。


 漆黒の長髪に大きな黒目、真っ白な肌に酷薄な笑を浮かべる真っ赤な唇。

 外見は15〜6歳位の少女の物だが、明らかな違和感を発するのは、その格好。


 裸体の局部のみを隠すように絡みつく黒骨の鎧、頭部には蝙蝠の羽根を付ける髑髏の兜。


 〝変質者〟〝露出狂〟〝痴女〟〝悪趣味〟


 形容する言葉は多々あれど、全身から発するオーラと絶世の美顔、抜群のプロポーションと言った要素で、異様の美を醸し出している。


「さすがお姉様の呪物ね」


 兜の髑髏からは黒い靄が立ち込める。どうやら呪物とはこの髑髏のようだ。

 影に取り付き、呪いでラヴィを無力化した女は、片手に黒の曲刀を持ち、うずくまるラヴィを見下ろすと、真っ赤な唇を舌で濡らした。


 数日前、闇のコネクションを通じ、炎剣を雇ってラヴィを襲わせたのは、炎剣の影に取り付き、戦闘のドサクサに紛れて、ラヴィに取り付く為である。


 炎剣が倒される事も折り込み済みであったが、あそこまでアッサリと倒されるとは、予想外で少し焦った。


「さすがは最高級の生贄、大物だわ」


 髪の毛を掴んで頭を上げ、刀をラヴィの頬に当てると、スッと引く。ジンワリと浮かぶ血玉に上気しながら、長いまつ毛をウットリと下げた。


 そのまま血の付いた刀を髑髏に近づけると、黒い靄が血に纏い付き、吸収する。その時、髑髏は動き出した。内側からガシャガシャと多足を生じると、少女の頭から立ち上がり、蝙蝠羽根を拡げて羽ばたいく。


 覚束ない飛行、移動は得意では無いようだ。ようやくラヴィの頭に辿り着くと、ズシャリと多足でまとわり付く。


 立ち込める黒靄が頬の傷を探ると、皮膚に滴る血を吸収した。そのままゆっくりと頭に陣取ると、ラヴィの頭部が見えなくなる程、真っ黒な靄で覆い尽くした。


 周囲が真っ暗になったラヴィは、強烈な悪寒と倦怠感に襲われ、まともな思考能力は失われてしまった。最早目を開けているのか、閉じているのかも分からない。そんな状況で思う事は唯一つ。


 〝死にたくない!〟


 強烈な生への執着。


 〝死にたくない〟〝死にたくない〟〝死にたくない〟〝死にたくない〟


 四つん這いのラヴィは祈るように頭を垂れ、一心に念じた。


 プライドもかなぐり捨てた願いが通じたか、ラヴィの体が一瞬膨らむと、


 ドン! っとラヴィが地面に頭突きをかまし、両手で髑髏を引き剥がす。

 最後の力を振り絞っての抵抗、ラヴィの目は白目を向き、ピクピクと痙攣して元に戻ろうと頑張って、充血した。


 無様にワシャワシャと足を空回りさせる髑髏を、そのまま遠くに放り投げたラヴィは、ドサッと倒れ、地面を転がる。


「あらやだ」


 少し離れて眺めていた黒の少女は、ラヴィのしぶとい抵抗に半笑いで距離を詰める。その手にはもう一本の黒刀が出現し、二刀を携えていた。


「頑張るわね〜」


 余裕の笑みを浮かべて、無警戒に間を詰める。髑髏の黒靄はまだラヴィの頬傷を捉えていた。


 完全に無抵抗になる前に『少し遊ぼうかしら』とムラッ気が湧いてきた。少女は戦闘狂なのだ、そして重度のサディストでもある。


 黒刀に舌を押し付けると、ラヴィの血の濃厚な鉄の香りがする。


「ああっ」


 エクスタシー声を上げながら〝ピュンッ〟と刀を振るうと、ラヴィの肩が薄く裂けた。


「いいっ」


 悦楽に任せて刀を振るう少女、腕を振るうたびに新しい傷が増えていくが、獅子族の皮膚は強く、どれも皮一枚を切り裂くのみ。


「あははっ!丈夫〜」


 調子に乗って踊るように切り付ける少女は、ラヴィの服を狙い出す。ビリビリに裂けた服をみて、


「裸にリュックいい〜」と言いながら、抱きつくと額にキスをした。


 その時、ガシッと抱きすくめられる少女、ありったけの力で締め上げるラヴィにも、余裕の表情で頭を撫でる。


「おーよちよち」


 あやす様に撫でながらも、影が形を成し壁となって一ミリも締め上げる事が出来ない。

 ならば、と少女を持ち上げ、地面に叩きつけるが、それすらも笑って耐えられた。


 そう、少女は笑っていた、今ではゲラゲラと大声で笑っている。


「があっ!」


 左手で頭を握り込み、右手を大剣〝 ベフィーモス〟に掛けると、一気に引き抜く。


「あーっはっはっはっ」


 爆笑の少女に、


 思い切り大剣をぶち込む、だが捨て身の一撃は、完全に双刀で抑え込まれた。


「無理〜」


 構わずにガン!ガン!と大剣を打ち付け続けるも、全て完璧に双刀で受け止められてしまう。


 攻撃している筈のラヴィに、黒刀がかすって、ベフィーモスを握る手に血が滲む。それでも構わずに一心不乱に大剣を振り続けた。


 〝大剣ベフィーモス〟


 かつて大陸北部の大山脈地帯を支配していた、千年地龍の前足に生えていた対なる剣爪。


 その地龍を倒したラヴィの祖先が手に入れ、二本の大剣〝タイタン〟と〝ベフィーモス〟を鍛え上げた。


 以降数々の英傑が手にして磨き上げられた二本の大剣には、英霊の魂が宿っていた。


 ラヴィの血が、願いが通じたか、ベフィーモスの剣身から薄っすらと白い魔光が立ち上る。

 英霊の力宿る剣を振るう、その斬痕には白い軌跡が尾を引いた。


 キンッ!


 その斬撃をまともに受けた黒刀が折れた。


 予想外の出来事に余裕を無くした少女は距離を取ろうとするが、ラヴィの左手が捉えて離さない。


「離せっ」


 新たに生み出した黒刀で、メチャクチャに斬りつける少女によって、新たな傷が増える中、ベフィーモスの分厚い剣身が少女を切り裂くと、その一太刀で真っ白な腹が掻っ捌かれた。


 キッと睨んだ少女が魔力を練り上げると、二人の影から無数の黒刀が突き出され、ラヴィを貫く。


「グアアッ」


 呻きながら、涙、涎、血を滴らせても尚、左手は離さない。無数の黒刀は右手のベフィーモスを絡め取ると、投げ捨てた。


「オラアッ!」


 気合と共に左手を切り飛ばそうと、腸を引きずりながら双刀を振るう少女を、グンッと引き寄せると、ラヴィの右手が少女を捉えた。


 その手には、炎剣から奪った短剣がにぎられているーースパイダーベノムという猛毒が滴る短剣はーー少女の心臓に鍔まで深々と突き立っていた。


「あかっ」


 少女の口は酸素を求め大きく開くが、そこからは逆に鮮血が迸る。

 跪き、うずくまる少女は、毒の効果か失血のショックのせいか、ピクピクと痙攣している。


 霞む目で、ベフィーモスを探り当てたラヴィは、この機を逃すまいと、少女に向けて大剣を振り降ろす。


 初撃、少女の肩を掠め、腕を切る。二撃目、頭を掠めて地面を斬りつけた。三撃目、少女の首を捉えると、何の抵抗も無く、少女の首がコロリと転がった。

 と同時にラヴィを強烈な悪寒が襲う。遠くに放った髑髏が這い寄り、足元に絡みくと、黒靄を放ってきたのだ。


「ガオオーーン」


 気合一発、咆哮をかますと、何も見えないラヴィは、勘を頼りに辺りを踏みつけまくる。


 ガス! ガス! ガチッ!


 骸骨の踏み答えを感じると、思いっきりベフィーモスを喰らわした。


 硬質な音と共に、まともに一撃をうけた髑髏が真っ二つに割れると、一段と濃い靄を立ち昇らせて動かなくなる。


 その靄を吸い込んでしまったラヴィは、気絶しそうになりながらも、大剣を杖に何とか踏みとどまると、ヨロヨロと歩き出す。


『なんて日だ』


 吐気を抑え、ボロボロになった服を抑えながらも、歯を食いしばって歩き続けた。得体の知れない術を使う、不気味な少女の死体から一刻も早く遠ざかりたい一心で……




 夜、草原の魔獣が蠢き出す頃、一匹の魔狼が少女の死体を嗅ぎ回る。フンフンと嗅いだ後、おもむろに噛み付こうとした口に、


 ザンッ!


 と黒刀が突き立った。


 狼の命と引き換えに、少女の体は見る見る蘇生して行く。


 しばらく後、離れていた首すらも付き、完全に回復した少女は、


「あ〜あ、やっちゃった」


 とつまらなそうに呟くと、地面に魔法陣を生み出し、そのまま闇に落下して行った。

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