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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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獅子族の女

やっと獅子族の女戦士登場。

 イザが目覚めたのは、突撃鳥が墜落した翌々日だった。


『目ぇ覚めた?』


 スイが念話をよこす。


 あちこち痛む体は重く、しばらくボーッと何も考えられず寝転がる、と、〝グーッ〟盛大に腹の虫が鳴った。


 鉄木シェルターの薄暗がりの中、手だけで背負い袋をまさぐると、少なくなって来た干し肉をほお張る。

 クチャクチャ噛みながら状況を思い出すと、体に不具合がないか、チェックした。


 身体中が痛い。打撲と捻挫、鎖骨は骨折している様でグンと重く感じる。そして体を起こそうとするだけで立ちくらみがした。


『回復水やるよ』


 腹の下から魔力のウェイヴが放たれる、イザもそこに水魔法を同調させた。鉄木シェルターの中が、青い光で満たされると、ゲル状の水が体を覆う。即座にイザの傷、打ち身、骨折などがみるみる回復して行った。


 溢れるほど満たされていた水がスッと消えて無くなった時、完全に回復した体には、どこを見ても傷一つ見当たらなかった。折れた鎖骨も綺麗に真っ直ぐに繋がっている。


 身に宿した魔力も回復しており、今の回復水で減った分位しか消費されていない様だ。


 ボロボロになった服を着替えると、スイに出口を作ってもらい、ゆっくり外に出る。空を見上げて燦々(さんさん)と照りつける太陽光に目を細めた。


 「うーんっ」と大きく背伸びすると、ゴキゴキと首を回し、凝り固まった体を解す。

 近くに転がる突撃鳥にビクッとするが、死んで時間がたっているらしく、肉や内臓は獣に食い尽くされていた。


 近づいて鉄パイプでつつくと、ゴロンと首が転がる。半開きの嘴、足で下嘴を抑えると、グイッと鉄パイプを差し入れて口を開けさせた。


 暫く放置された獣の死臭も気にせず、上嘴を見ると魔石も取られた後だった。


『獣は魔石も食べるのか?』


 どうでもいい事を考えつつ、さてと何処にいこうか? そしてここは何処だ? ハタと我にかえるイザ、草原地帯でも今までとは少し植生が違う様で、遠くには森林地帯が広がっている。


 スイと同調し、ドライアドの加護による草木感覚を強めると、微弱ながら生き物の反応を感知できた。


『どうか危険な魔獣とかじゃありませんように』


 他に行くあての無いイザは、祈りながらそっちに向けて歩き出した。







 〝炎剣〟


 仲間内でそう呼ばれる男は、ベテランの遺跡ハンターであり、裏稼業で売り出し中の暗殺者だった。


 人よりも頭一つ高く、どっしりと骨太の男は、若い頃から傭兵で鍛えた魔法剣使いである。

 戦闘狂と呼ばれる程の戦いに明け暮れた彼は、通常の戦闘ではもの足りず、更なる興奮を求めて暗殺業にも手を出した。


 刃渡り1m程の片手剣は、魔力を通しやすいミスリル銀の新造品。

 紅魔石の取り付けられた大きな柄頭でバランスを取った、ブロードソードと呼ばれる諸刃の直剣だ。


 今、彼の手になるその剣の柄頭、鍔、刀身に彫られた樋には、魔力の奔流が赤々と光り、刀身からは強烈な熱波が放たれている。


 左手には逆手に持った短剣、その柄にも真っ赤な魔石が取り付けられ、魔法の発動を待っている。

 更に短剣の刀身には茶褐色の粘液〝スパイダーベノム〟と呼ばれる猛毒が付着していた。


 つまり本気、全力の彼のスタイルである。


 〝ボッ!〟


 左手の魔石から最速の火の矢を飛ばす、隙の少ない牽制変わりの魔法だ。

 それを、サラリと何の力みもない、流れる様な体捌きで避けるターゲット。

 その動きに炎剣の背中から冷や汗が滴る。相手が一段と大きく見えた。


『初手をかわされたのは痛かった』


 草陰から狙い澄ました毒矢をクロスボウで射掛け、無力化させての暴行を楽しもうとした自分を呪った。

 獅子族の女はその巨体からは考えられない程の素早さで矢を避けると、フッと姿をくらましたのだ。


 慌ててブロードソードに手を掛けた次の瞬間には目の前に来た女!


 火花散る、炎剣も歴戦の猛者である。何とか女の振る巨大な剣に抜剣をあわせて力を反らせたが、凄まじい剣圧に吹っ飛ばされてしまう。炎剣は咄嗟に左手の短剣に魔力をこめて火の矢を打ち出す。


 ごく初歩の火魔法である、高温の火の矢は、念じると共に素早く射出される。追い打ちをかけようとした獅子女はまともにそれを食らった。


 威力低めの下級魔法とはいえ、ダメージの高さで知られる火魔法をまともに受けた、手応えを得た炎剣。しかし女の左腕は、覆われた毛がチリッと焦げた程度である。


「ガオオオォォン!」


 周囲がビリビリと振動する程の咆哮、獅子族の女が激怒した証だった。

 心の底から震える様な、獅子の咆哮に思わず炎剣は竦み上がってしまう。


 右手の炎剣、左手の毒剣。男はこのスタイルで負けた事が無かった。魔法使いの少ない獣人大陸の内陸部では、魔法に耐性を持たない者が多く、魔法戦士の炎剣は敵なしだった。


 だが、今の彼は女には圧倒されてしまい、今にも逃げ出しそうな位飲まれている。右手の剣が重く感じ、剣先が震えだした。


 再三炎の矢を放つが、女のスピードに全然追いつけない。そして女は更に大きくなって見えた。


 実際女は大きくなっていた。最初2m弱の背が今では3mに届かんとしている。ゆったりした服は千切れ飛び、特別製の下着が張り付いて、巨大な両手剣は程よい片手剣と化している。

 腕の太さは男の太腿を凌駕し、牙を剥く顔は鬼よりもなお凶暴性を表す。


 〝女王クイーン種〟


 獅子族の中でも、群れを率いるキングを別格とすると、最強の個体である。滅多に群れの外には出ないが、普通の獅子族とは比べられない力を持つ。


 怒りのまま一息で炎剣の元に到達すると、無造作に右手の剣を振るった。


 硬質な音が響くと、仰け反って避けた炎剣の持つブロードソードが、半分から先を失い、刃先が飛んでいった。


 信じられない物を見て、一瞬動きを止めてしまった次の瞬間、鈍い音と共に、男は縦に潰される。


 〝圧殺〟


 圧倒的重量で上からのし掛かった獅子族の女が左手をどけると、地面にグシャリと圧縮された炎剣が、圧を逃れて少し戻る。そこには手も足も防具も荷物も、一緒くたに千切れ、折れ曲がった肉塊が転がっていた。



 獅子族の女〝ラヴィ・レレ〟(レレは部族の言葉で太陽を表し、王族を意味する)は左手を振るって血肉を飛ばすと、弾け飛んだ服を拾いにいく。


 興奮から醒め、体が元の大きさに縮んでいくと、「は〜っ」と一つ溜息を漏らした。怒りの獣化による興奮状態から戻ると、血の気が引くと共に、気分も鬱的になる。


 草原を駆けて狩りをした時の獣化の後はこんな事はなかった。そして人間の生息圏に来てからはこんな事ばかりが続いている。

 ラヴィは思いっきり大型獣の狩がしたい!と思いつつ、諦めて服を拾い上げた。

 上下共に、特定の部分で千切れる様になった服を予備ヒモで括り付けて行き、服の中に入った一つに束ねた髪を、バサッと後ろに送る。


 金髪金目、毛深い金毛は全身を覆う。精悍ながら何処か女性的な顔立ちは、獅子族ならではの癖はあるものの、概ね整った印象を与える。

 2m近い巨体は無駄な肉は無いものの、出るところは出ており、ある種の迫力と共に魅力も兼ね備えていた。


 動作の端々から内包する運動能力を感じさせるラヴィは、獅子族の中でもまだ若手の部類で、女王の持つ王者の気品とは程遠い。


 〝新しい王を探す〟


 という、いつ果たせるとも知れない密命を受けたラヴィの旅は、もう一年にもなる。


『早く集落に帰りたい』


 旅立ちの時、女王から渡された地龍の剣爪製大剣〝ベフィーモス〟を握りしめ、望郷の念を募らせると、


 〝ブンッ!〟


 と一閃、想いを断ち切る様に血振るいして、背中の鞘に収めた。


 地面に転がる炎剣だった物をつまらなそうに摘み上げると、ボテボテと血が滴る。引き千切られたポーチを探ると、結構な額の大陸金貨と、宝石・魔石類が出てきた。


 思わぬ臨時収入に少し気が晴れると、折れた剣の柄をバキっと踏み折って紅魔石と、短剣も鞘ごと回収する。


『街で一杯やるか』


 こんな厄日は一杯引っ掛けないとやってられるか! と、街に向かって歩き出す。


 だが、彼女の本当の災厄はまだ姿すら見せていなかった、長い一日はまだ始まったばかりである。

この分だと、主要キャラクターが出てくるだけでも相当長くなりそうです。


宜しければ、最後までお付き合い下さい。

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