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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
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ソウジャの仕事

 ソウジャは基本的に、相棒のウインド・ウルフ〝ロウ〟以外とは組まない。

 草原地帯のガイドや商隊の護衛など、ハンター以外の仕事で他人と関わる事も多いが、その時も誰かと組まずに、ソロとして編成してもらっていた。


 彼自身は孤高のハンターを気取るつもりは毛頭ない。だが、今日までの人生が彼をそうさせていた。




 少年ソウジャは、年齢を考えると、集落の中でも抜きん出た弓と風魔法の使い手だった。その時既に〝グレイウルフ〟ロウを相棒とする優秀な騎兵として、戦力に数えられていた。


 草原エルフは獣を手懐ける事を得意としており、何らかの騎獣を持つ事が多かったが、グレイウルフは気性が激しく、手懐ける事が出来るのは極限られた者しかいなかった。

 狼乗りはソウジャの集落の騎兵約100人の中にも、5人しか居なかった程である。


 ソウジャの母親は、彼が幼い頃に他界していたが、父と、子供の少ない草原エルフの集落に大切にされて、周囲の期待を受けて育った。


 酋長の弟で狩人の父は、黒髪に焼けた肌の精悍な男で、戦闘になれば一番の活躍をする優秀な戦士、ソウジャの憧れだった。

 無口な父は一緒に遊んでくれた事など無かったが、ソウジャが幼い頃から狩に連れて行き、持てる技術の全てを叩き込んでくれた。


 一般的に人に比べて細いエルフの中でも草原エルフは一回り小さく、成人しても傍目には子供位に見える。

 だが、草原で彼らを侮る者はいなかった。風の魔法に長じ、騎上弓の名手である彼らの戦闘能力は、例え体が小さく数が少なかろうが、それを補って余りある驚異だった。


 スパルタ教育のお陰で、誰よりも早く一人前の戦士の証〝妖精の弓〟を与えられたちょうどその年、湖水地帯で魚人族と深海族の戦争が始まる。そしてソウジャ達草原エルフは魚人族側の遊撃隊として勇猛果敢に戦った。


 開戦初期の劣勢時、魚人族の戦線が少しでも持ったのは、深海族の大型モンスター達を相手に獅子奮迅の戦いを見せた草原エルフの遊撃隊のお陰と言われている。


 そんな彼らが他種族の戦争に深く関与したのは、普段それだけ魚人族から受ける恩恵が大きかった事、そして今回の戦の見返りも潤沢に用意されていた事があげられる。

 また、義理固い性格の当時の酋長は、一度誓った同盟の約束を、決して違える事はしなかった。


 結果、戦争によって集落の戦士の5割が失われ、2割が負傷した。他部族の為にほぼ壊滅状態という酷い有様だーーだが問題はその後起こった。


 集落のリーダーやソウジャの父などの、歴戦の猛者が亡くなり、新しいリーダーを選ばねばならない段になって、適任者が居ないという事態に陥ってしまった。


 急遽決まった酋長は前酋長の弟、ソウジャの叔父に当たるが、全くもって頼りない男だった。


 それまで優秀な兄達に頼って生きて来た彼は、自分では何も決められない、そのくせプライドだけは高い厄介な性格をしていた。そして新酋長の方針もあり、集落全体が魚人族からの戦後保証を当て込んだ生活に甘んじるようになっていく。


 戦闘要員を魚人族に求め、狩を忘れ、過去の保障で生きて行く。


 段々と魚人族の腰巾着と成り下がる集落に馴染めないソウジャは、周囲から浮き始め、村八分となって行った。


 元々新酋長は優秀なソウジャにコンプレックスを持っており、軟弱化した周囲も苛立つソウジャを持て余していた。


 きっかけは些細な事件だった。


 ロウが他のグレイウルフにじゃれ付いた時、たまたま通りかかったグレイウルフの飼い主が止めにかかったが、元気すぎるロウがその飼い主を押し倒して、ケガをさせてしまったのである。たったそれだけで酋長は、


「ロウを殺すか、お前共々出ていくか二つに一つだ」


 とソウジャに詰め寄った。


 ウンザリだった。尊敬する父親達が命を賭して守った集落が、どんどん堕落している様に感じていたイザは、その晩黙って集落を去った。


 戦争で知り合ったライカには以前から魔獣ハンターに誘われていた。そして行く宛も無いソウジャがピナカ村を尋ねると、ライカは喜んで仲間に迎え入れてくれた。それが8年前の事である。





 イザと別れたソウジャは彼にしては珍しく、少し焦った様子でロウを走らせる。


 ソウジャの乗る〝ウインドウルフ〟ロウの全力疾走は衝撃波を生み、爆音を響かせる。静かなる草原は突然の暴風に荒らされた。


 ソウジャの風魔法は一種類、〝突風〟のみ、突風を周囲に発すれば局所的な暴風を起こす事も出来るが、本来の使い方は人や物に纏わせる事である。


 矢に纏わせれば超絶射程の貫通矢となり、ロウに纏わせれば暴風狼と化す。


 すでに太陽は真上に来ている、本来なら余裕を持って間に合ったはずの場所はもう少し先だ。



 イザの依頼を断っても良かった。実際最初は断る積りで話を聞いていた。だが、少年の師匠の名を聞いた時、ソウジャの胸に複雑な感情が去来した。


 ギョランは命の恩人にして、集落を変えた戦争の一方の責任者でもある。

 戦争以来、全く表舞台に出なくなった彼の話を聞いた事は無かったが、最強の魚人にして冷酷な指導者、優しい手の感触と治癒魔法を忘れた事はなかった。


 様々な思いが沸き立つ中、気づけば依頼を引き受けていた。


『あいつは良い狩人になる』


 ソウジャは狩人が好きだ、腕の良い狩人はもっと好きだ。

 もっと付いてやりたかった、少し不安はある。それ程アサルトローチは油断のならない魔獣である。


 結局中途半端な事をしてしまったかもしれない。イザには最後まで付けず、今は約束に大分遅れている。約束の相手が待ちきれずに独走したら最悪の事態も起こりうるだろう。


『中途半端は何時もの事か』


 ソウジャは自笑すると、相棒の首を軽く撫でる。


 ロウは爆進する、ソウジャの目的地、草エルフが代々狩場として来た〝狩猟ヶ原〟へ。

 そこには待っているはずである、10歳になりソウジャの教えを熱望する〝姪〟のソウラが。

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