表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
第二章 タガル大陸へ
29/128

G狩②

まだG

 ソウジャが言うには、紫閻王は谷全体の支配者らしい。

 支配階級のダークローチの中でも、紫閻王ともう一匹の〝赤閻王〟は別格とされており、魔獣ハンターの中でも高ランクの獲物とされている。


 二匹は敵対するでも無く各々が群れを構築しており、番いとも、兄弟とも言われているが、詳細は誰も知らない。

 謎の多いアサルトローチの生態のなかでも、特に謎の多いこの二匹は、滅多な事ではお目に掛かる事もない存在だった。


 わかっている事は二匹共、溢れる程の魔力のオーラを纏っており、何らかの魔法を操るであろうという予測のみ。確定していない理由は、戦った者はすべて彼らの胃袋に収まっているからだった。



「ある意味ラッキーだったな」


 何の慰めにもならない事を真顔で言うソウジャ。

 桁違いの魔獣の出現に、その日は狩を諦めてローチ達の棲息圏外まで退避する事にした。


 ローチ狩の引き際は、夜間の安全を図る事が一番重要だ。もし、上手く狩れたとしても、もたもたして夜になっても彼らの生息圏に居ると、逆に狩られる事になってしまう。


 ロウに乗って2時間程離れた丘陵地で、今夜の野営をする事になった。


 今度はイザが薪を集めると火を起こし、背負袋から三ツ又と鍋を出してお湯を沸かす。


 疲れた時は甘い物が一番だ。村で買った唯一の甘味、ヌメリコのドライフルーツを取り出すと、鍋の中にタップリと投入した。

 ヌメリコの果実は、生の時はそれ程甘く無くてヌルンとした食感だが、干すと糖度が上がり、カチカチに乾燥して日持ちがする様になる。

 それを溶かし込んだ汁を、ソウジャにも分けると、フーフー吹きながら啜りこむ。

 トロミのついた汁で温もり、仄かな甘みが胃に沁み渡って、思わず顔がほころんだ。


 隣りを見ると無表情ながら目を細めて味わっているソウジャ。目が合うと「美味いな」と言ってニヤリと笑った。


 それから暫く狩のプランを二人で練った。

 王クラスやダークローチは手を出すと確実にやられると言う事で、いかにそれらを回避して偵察ローチを狩っていくか? その点を熟考した。


 ソウジャには考えが有るらしいが、イザが考えて実行する事に意味が有ると思い、自分で発案させてから、所々修正するように一言添えるスタイルで話は進んだ。


「肉水のフェロモン作用が強すぎて王クラスを呼び寄せてしまうなら、ギリギリの濃度で偵察ローチを誘導して仕留めるしかない」


 肉水の進化した能力を使う手もあったが、ダグラスからそれだけは他の人に言わない様にと指示を受けていた為、この手しかないと思えた。


「濃度調整の精度が問われる」


 ソウジャの言うとおり、濃すぎて他のローチを呼ぶと今日の繰り返しだし、薄すぎても何の意味も無くスルーされるだろう。

 解決策として、まずは実地で薄めの肉水から徐々に試して行く事にした。


「後は一撃で仕留める方法と離脱法だな」


 今や、刃水噴射の精度は一番得意とする所で、魔力満タンでの最高出力なら10m位先の岩でも切断する自信が有る。


 問題は離脱法だった。


 ロウの様な駿足の騎獣も無く、鍛えたとはいえ速く走るのは余り得意でないイザが、まともに逃げてもローチ達の食料になるのが落ちだ。


 刃水で仕留められる距離から仕留めて、その場で魔石を回収し、ローチの群れから安全圏内に離脱するには、偵察ローチを相当誘導して巣から離さねばならない。


 明日の早朝から狩に出る事を決めて、体を休める事にしたイザ達は毛布に包まり寝る態勢を整えた。


 また、今後一人で狩る事になるイザを気遣って、今夜の見張りはソウジャとロウの交代でやってくれる事になった。


 ありがたく毛布に包まるイザは、明日に備えて無理のない様に少しだけスイに魔力を分け与えると、ストンと眠りに落ちた。




 翌朝、と言ってもまだ辺りは真っ暗な時刻にイザは揺り起こされた。


「これでも食え」


 ソウジャがカホウ茶に穀物を入れた薄い粥状の物を勧めてくれた。

 周囲にロウの姿が見えない、疑問に思っていると、


「ここの所ロクに食って無いからな、単独で狩に行ってる所だ。もうすぐ帰って来る」


 半時ほど野営の後かたずけをしていると、満足気なロウが全速力で走ってきた。


 ロウが全力疾走する時は風を纏い、飛ぶ勢いで駆ける。衝撃波で周囲の草を撒き散らす為、遠くからもその姿がわかった。


 慌てて来たのだろう、口の周りに獲物の血を滴らせて走る姿は迫力があり過ぎて、親しくなった今でもビビってしまう。


 息を弾ませたロウと言葉を交わしたソウジャはイザを乗せ、昨日最初にローチを狩った集落に向けて出発した。


 アサルトローチのつけ込みどころは、一晩狩に出て戻ると、それまでの騒動が無かったかの様に平常運転に戻る所だ。

 一度調査にきた他所の大陸の魔導師は、ローチ達が谷に縛られている事と関係が有るだろうと分析していたが、その魔導師もローチ達に襲われてしまって、真相は謎のまま不明である。


 集落に着くと、イザは水の魔知覚、ソウジャは風の魔知覚を働かせる。

 谷の端には時たま偵察ローチが飛び回り、戻って行く。昨日と同じ光景が繰り返されていた。


 慎重に500m離れた位置まで近づくと、岩陰に隠れて様子を見る。

 偵察ローチは鳴き声で異常なしのコール音を発すると、何か食料でも探しているのか、地ベタを這いずり回った。体長約2m、そこそこの大きな個体だ。


 今がチャンス!と、肉水を生み出す。限界まで小さく薄く作った肉水を偵察ローチに向けて発射した。

 パシャッと地面に弾けるが、中々ローチが反応しない。

 暫く待ったが全然関係ない方向にカサカサと移動するローチに向けて、先ほどよりも少しだけ大きくした肉水を発射する。


 パシャッ、今度は割と近くの地面に当たった。


 ローチが急激に反応する。触覚をピコピコ動かすと、高速で肉水に飛びついた。


 慎重に移動しながら先ほどと同じ肉水を100mほど先に打ち出す。

 肉水を舐め尽くしたローチがピクンと反応して、また全速で移動する。


 20回位繰り返したろうか?いい加減隠れる岩もない位草原地帯に戻ってきたイザは、ぼちぼちか? と思い、ソウジャを振り返る。


 ソウジャも首是している、やる時がきた!


 イザの刃水が噴射され、20cm程の刃が水撃に押されながら槍となって、偵察ローチに襲いかかる。

 ズバッと首と胴体が切断された。ローチは肉水を舐めるのに必死で、避ける間も無かった。


 切断面に手を突っ込むと、魔石を探り出して引き抜く。ブチブチッと嫌な感触がして石が取り出された。

 この後は一刻も早く離脱しなければならない。臭く汚れた手を洗い流しながら、駆け出すイザ。


 ひたすら走って谷との距離を取る。安全圏内に退避した頃には、バテバテになって、草原に寝転んだ。


 やった!という達成感より、しんど!という感覚が勝った。報酬のすくなさが、更にやる気を失くさせる。

 兎に角約束は果たされた。イザは約束の報酬である20銀をソウジャに渡す。


「取り敢えず今の感じでやれ、無理せず引く事も大事な事だ」


 その一言でソウジャは去って行った。


 仲良くなったロウは、イザに鼻を押し付けると、一声「ワオーン」と吠えてから、ソウジャを乗せて行ってしまった。


 手元に残った茶色の魔石を転がして、ふーっと一つ溜息を漏らすと、


『ま、頑張るか』相棒に念話を送って腹をさすった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ