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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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迷宮都市の夜明け

長い話も残り三話となりました。ラスト・スパート! お楽しみいただけると幸いです。

 広大な大地を埋め尽くす溶岩土、その後方にそびえ立つ巨大な壁。そこから立ち昇る血生臭さが、トンネルを抜けてきた者達の不安を煽る。


「な、なんだこれはっ! 迷宮は抜けたんじゃないのか?」


 後ろからやって来た護衛隊長のファストフが狼狽するのを、


「元々あった外壁でしょうね〜、これでは脱出できませんね、領主の館から見た時より大きくなって、クックックッ」


 更に後ろから現れた女教授があざ笑う。


 その声に嫌悪感を覚えたゴールド・サージの面々が眉をしかめて睨みつけるが、彼女は悪びれもせずに地面に手をついた。


「クックッ、この土壌、よく育ってるじゃないですか」


 手を返すと、染み込んだ血肉が粘状に纏わり付き、ネチネチと指を穢す。それに舌を付けて味わいながら目を細める彼女に、周囲の皆が鳥肌立った時、


「急ぎます」


 祈りを捧げていたミストが諸手を挙げると、トンネルを形成していた精霊の木が放射状に広がり、皆を包んだ。輝く細い枝が格子状に編み込まれると、密に絡んで巨大な鞠状の籠が出来上がる。

 聖獣マグニヒカがヌルリと音もなくトンネルを抜け出ると、籠を両足でしっかり掴み、飛行翼を最大に拡げて飛び上がる。


 急激な加圧に、籠の中の面々が転がり、絡まり合う中、一人静かなミストは、護剣士ファングに守られながら、籠の隙間から地面を凝視していた。


 全員を載せた籠の重量で、思う様に飛べないマグニヒカは、魔力を振り絞って高みを目指す。だがその時、突如として全身を貫く痺れが襲ってきた。

 あまりの激痛に雄叫びを上げて、ガクンと高度を落とす。その浮遊感に籠の中から悲鳴が上がった。


「こんな所にも見えざる結界が……私にすら読めないなんて……」


 絶句するミストは、実在神リーバの導きである完全なる未来視ビジョンすら及ばぬ存在に戦慄を覚え、ショックを受ける。不安を覚えながらも、何とかマグニヒカに祈りを捧げると、力を増した光によって結界に対抗する力が湧き出して来た。



『下を見て!』


 スイの警告に、籠の隙間から地面を覗くと、溶岩壁がドロリと溶ける様に動き出した。よく見ると、それは溶けているのでは無く、微細な粒子状の物が蠢いている事が分かる。それが遠目には液体が流動している様に見えていた。


「クックック、黒飛蝗の変態、初めて見させていただきました」


 隣で食い入る様に観察していた女教授が、熱い息を吐きながら、顔を上気させて呟く。

 それを聞いたイザも『黒飛蝗? これが……』と家族を殺された恨みを込めて見据える。


「どうして分かるんだ?」


 ズミーレの問いに、


「クックックッ、私は黒飛蝗の専門家ですからね、それより御覧なさい、どうやら大きく動き出しましたよ」


 その言葉につられて見ると、黒飛蝗は渦を描いて迷宮都市に向かって飛翔し始めた。まるで動く砂絵を見るような感覚、だが、一粒一粒が蠢く蝗である。その圧倒的な数を想起すると、見る者全てが身震いを禁じ得なかった。


 イザは手にある鉄パイプを硬く握り込むと、溢れる魔力を抑えきれなかった。その手をそっと包む小さな手。顔を上げると、柔和に微笑むドゥーが、静かに佇んでいる。


「君ならできる」


 突然喋った、その声は何故か師匠の呪術師コーラルのもの。普段は言葉を禁じた呪術師見習いの言葉が、イザの心に染み込む。


『なにを?』


 という問いも出せぬままに、差し出された乳鉢を見た。





「大丈夫ですか?」


 先程から必死に祈りを捧げるミストを見兼ねたファングが声をかける。ミストの祈りと共に増加した光で、マグニヒカの痺れも消え去り、緩やかながらも飛行を再開できた。だが、継続して祈り続けているミストは、いつになく大量の汗をかいて、顔面蒼白になっている。


「何故? リーバ神様からの未来視ビジョンもこの状況に反応してくれない、それにこの敵は……全く力が及ばない。怖い! 凄く怖い」


 初めて聞く巫女の弱気な発言、驚いたファングは、微かに震える巫女の手を掴むと、


「この魔力、全てをお使い下さい。大丈夫です、貴女は私が護りますから、安心してお力をお使い下さい」


 彼女の目を力強く見る。目の合ったミストは、初めて見せた少女らしい不安な表情を、フッと和らげると、包み込むファングの手から溢れる魔力を己の魔力と同期させていった。


 一層輝きを増すマグニヒカ、力を得た聖獣はその魔力を翼に送ると、力強く羽ばたく。


 その魔力の奔流に呼応するかの様に、黒飛蝗の一部が上空に向けて食指を伸ばす。一部とはいえ、空間を埋め尽くす黒の塊は、驚異的なスピードで間を詰めて来た。


 余力を得たマグニヒカが輝くブレスを放つが、ほんの表層を焼くのみで歯が立たない。本格的な迎撃のために魔力を集中させようとするミストに、


「僕が注意を引くから、早く逃げて!」


 魔力を集中しきったイザが叫ぶ。と同時に、


「ズカさん、闇魔法の力を貸して下さい! このパイプに手を添えて、魔力を!」


 鞠籠の隙間に鉄パイプを突き立てながら、己の持てる魔力の全てを込めて合水を生成する。中には既に、ドゥーの作り出した闇精の供物が合成されていた。


「おう!」


 委細を聞かずに、ズカが鉄パイプを握ると、持てる魔力を合わせて行く。


「俺も手伝うぞ」


 そこへ魔法の得意なズクもやってくると、少ない鉄パイプの隙間を掴んで、魔力を提供した。

 普段スイとしか同期しない魔法の扱いに、二人もの協力者を得て、不安定に増幅する魔力が鉄パイプを熱する。ともすれば暴発しそうな魔法を必死に制御していると、


『なにやってんの、しっかりしな!』


 スイが、念話と共に草盾の服から蔓枝を伸ばして鉄パイプに絡ませる。それと同時に、不安定だった魔力を包み込むと、力強い魔力で安定させていった。


 高まる魔力、魔力飽和に鉄パイプの水精達も震え出し、その深層に大精霊の力を垣間見た瞬間ーー


 極大化した闇合水が鉄パイプから射出された。


 マグニヒカの魔力に惹かれていた黒飛蝗達は、矢の様に発射された闇合水の強烈な引力に惹かれて方向転換する。真っ黒に重なった黒飛蝗が一斉に集まると、そのまま地面に弾けた。更に周囲の黒飛蝗も、迷宮都市への移動を歪めて、闇合水に吸引される様に集まる。


「素晴らしい! 素晴らしいわ! さすが教授の見込んだ少年、予想通りの働きよ!」


 大渦巻きの様に黒飛蝗を動かした闇合水に、興奮した女教授が籠から覗き見ながら、唾を飛ばして喚く。そして胸元からネックレス状の筒を取り出すと地上に向けて垂らした。


「教授、貴方のおっしゃった通り、肉水は黒飛蝗にも効果を表しました、次はこれの出番です、今こそ……」


 言い切らぬ内に筒を手放すと、黒飛蝗の群れに落下させたーー




「光よ!」


 ファングと力を合わせたミストの魔力が、最高輝度の光魔法を発動すると、マグニヒカを縛り付けていた結界のくびきが破れる。

 自由を得たマグニヒカが、持て余す魔力の限りに飛翔すると、あっという間に迷宮都市を離れ、幾つもの山地を超えて行った。





 迷宮都市に穿たれた巨大で深淵なる穴の奥で、魔法人形は集まる全ての魂を飲み込んで、肥大化して行く。だがその中には、如何なる魂も乗り移る事無く、器のみが強大に増幅していった。


 思考の欠片も無いその人形は、取り込んだ魂の人格、性質を映し出して、叫び、泣き、笑い、鳴き、怒り、あらゆる感情を爆発させながら、極点に至ると音にならない咆哮を上げるーーそれまで闇合水を争い求めていた黒飛蝗の蠢きが、瞬時に鎮まると、一斉に迷宮都市の中心に集まって行った。


 黒飛蝗が殺到し、真っ黒な世界に埋れた魔法人形の目の前に、突如として虹色の甲殻を持つ虫人が現れる。その体に開いた気孔に触れた魔法人形は、指を突き入れると、内臓を引きずり出して貪り始めた。虹色の甲虫も、巨大な顎で魔法人形の肩を挟むと、メシリ! と食い込ませながら摂食して行く。


 お互いに貪り合い、混じり合っていく体に、黒飛蝗が吸収されるーー


 全て交じり合い、地下深く落ちて行った〝それ〟は、残りの黒飛蝗を尾引かせながら、底知れぬ闇と同化していくと、最後に地上の魔法陣をも取り込んで蓋をした。


 周囲には何も残さずに……穴の跡には名残すら無い。

 廃墟と化した街の残骸に夜が訪れて朝日が照らし出す。当たり前の様な一日の始まりに、無人の街は白々と空虚だった。

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