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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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冷眼流し龍髭を弄ぶ少女

 マグニヒカの後頭部に跨ったミストは、安全帯代わりに胴に巻きつけた龍髭の端を掴むと、


「あれを見て、雲霞うんかの如き黒虫共がイザ達を追いかけてくるわ」


 先端を指し棒の様にして、前方を指し示した。その声は、龍に乗って飛翔しているという状況が影響したのか、僅かに弾んでいる。


 聖獣マグニヒカは目を向けずとも、分身体の動向と、それに続く黒ローチの群れを感じ取る事ができる。


『光輝のブレス一発で仕留めようぞ』


 口の中に光精の力を集約させて答える。あれしきの闇ならば、ほんの一息で消滅させてくれる。そう思っていると、巫女は髭の先端を地面に向けて、


「あれ分かる? 存在を隠して地を這う黒の塊。虫が融合して巨大な怪物になっているわ。貴方には分からないでしょうけど、上空の虫を囮に、隙を見せたところで襲いかかるつもりよ。分かったら指示通り飛びなさい」


 そう言うと、長大な体を急転回させて、イザ達の乗る分身体を左目に見据えながら、大きく右に旋回していった。


「おおい! 助けに来てくれたんじゃないの!?」


 全速で飛行するイザは、救援に駆けつけたはずのマグニヒカが横にズレて行った事に驚愕する。おぼつかないマグニヒカ分身体の操作を、魔力供給の増加でなんとか誤魔化した。


 魔力的にはまだまだ余裕があるが、急造の木製分身体は脆く、端から少しずつ崩れては、体の一部を落下させていた。

 それを鉄木や粘蔦などを張り巡らせて、なんとか強度を保ちながら飛行している。しかし木像のどこが浮遊の核たる部分か一切不明で、次の瞬間には浮力を失い落下するという不安感が頭から離れなかった。

 尻尾の先端を籠状にして仲間を保護していたが、それすらもいつ落下するか知れず、生きた心地がしない。


「イザ〜っ! ローチ共が追いついて来たぞ!」


 その籠の中で、魔導弩を構えたラヴィが吠える。その照準の先にはアサルト・ローチよりも一回り大きなダーク・ローチが、群れを率いて先頭を飛来してきた。

 飛行能力に秀でた個体は、スピードにのったマグニヒカ分身体にも追いつけるほどの速度で今にも分身体の尻尾に届きそうな位置まで来ていた。


 ラヴィは不安定な足場の中、体を太い根塊に押し当て、足爪を籠の骨にガッチリと食い込ませる。

 怪力で巻き上げた弦の引き金を絞り、籠の隙間から破魔矢を射出すると、見事ダーク・ローチの眉間を撃ち抜く。だが、大きな穴があいたと思った次の瞬間、頭頂部がドロリと裂けると、異物を吐き出す様に破魔矢が突き出て、落下していった。その後もダーク・ローチは平然と飛来しつづける。


「ちっ! 紫の霧の中と一緒だね、酷い再生能力だよ。誰か聖水か光精の媒体は持っていないかい?」


 犬歯を剥き出したラヴィの問いかけに、既に貴重品である聖水を使い切った面々は首を振る。そこにゴールドサージの回復役レジットが、


「私は光魔法を使えますが、聖水などは作り出せません。せいぜいポーションに魔力を込めて、一時的に効力を増すのが関の山です」


 そう言って、手を開き、淡く光るポーションを見せた。


「待って、それじゃあ普通のポーションに光の魔法が貯留できる訳?」


 隣で聞いていたセレミーが問いただすと、ハッキリと頷く。

 それを見てセレミーとラヴィの目が合った。ありったけのポーション類を掻き集めると、片っ端からレジットに手渡して行く。

 光の力が込められたポーションを、破魔矢の先端に塗り付けると、急いで魔導弩にセットした。


 不安定な状況で思う様に作業がはかどらない中、弩の弦を張り直して、再びダーク・ローチに照準を合わせて射出する。その矢は左の胴体を掠めて一本の足を吹き飛ばした。


「ギシュアアァッ」


 ダーク・ローチが今までに無い反応を見せると、その左側面から煙が上がる。破魔矢のやじりよりも大きく抉れた傷口を見て活気づいた一同は、それぞれの射出武器にポーションを塗り付けて、迫り来る黒ローチ達に一斉に放った。


「いけ〜っ!」


 隣で魔法のククリナイフを投擲する戦士を見て、ポーションを塗る手伝いをしていたセレミーが叫ぶ。その念が乗ったのか、ククリナイフは魔光の軌跡を描きながら、黒ローチに突き刺さると、その体に大きな穴を穿つ。


 その後もレジットの光精ポーションは威力を発揮して、追いすがる黒ローチ達を駆除していった。ラヴィの手持ちの矢が尽きたころには、当面迫り来るローチの群れは駆逐してしまい、皆の顔にも余裕が生まれる。


 その時、ガクンッ! と籠が揺れた。巨木が裂ける不吉な音に皆が振り向くと、信じられない事に、籠と尻尾の接合面がめくれ返り、僅かに粘蔦でぶら下がっている。


 大の大人が悲鳴を上げる中、素早く伸びてきたスイの鉄木魔法に縋り付いたセレミーは、


「ラヴィ姉! 貴女が一番重いから、この根元に掴まっていて!」


 一人執拗に魔導弩を構えて、残る黒ローチに狙いを定める、戦闘狂の義姉に声をかけた。どうにも狙いが定まらない事に苛立ちを覚えたラヴィは、諦めて這い登ると、


「しかし後方にはウジャウジャいるな! こんなやばい物で逃げ切れるのか?」


 尻尾の根元に爪を立てて掴まりながら、遠く前方に跨るイザを見た。



『まずいよ! このニセ龍が崩れるのも時間の問題、早く高度を下げて!』


 スイの金切り声を聞かずとも、崩壊し出したマグニヒカの分身体に冷や冷やしていたのはイザも一緒だった。かと言って魔水を通しての操作にも限界がある。崩壊し始めた分身体は、中々いう事を聞かず、高度を下げる時もガクンッ! と落下と変わらないくらいの浮遊感が襲ってきた。


 それでも何とか高度を下げて、魔法陣の光に真っ赤に染まる家々がはっきりと見えるまでになる。だが、分身体はそこで限界を迎えた。


 巨大な亀裂が全体に走ると、その質量に繋ぎとめていた粘蔦や鉄木が呆気なく千切れる。


 崩壊する後部、籠の中にいる仲間達を、海綿草の緩衝材で包んだ時、轟音をあげて分身体が迷宮都市の地面を削る。

 崩壊した巨大な木材が、街の集会場に突き刺さった時、海綿草に包まれた巨大な球が勢い良く、目抜き通りを転がっていった。


「おわーっ!」


 全員の絶叫と共に。





「おお! 何か知らんが面白そうな事になってるじゃね〜か! 俺も交ぜてくれよ」


 満面の笑みで巨大な球を見送り、空を見上げたオルトスの眼前には、黒ローチの群れが羽音を響かせて、空を埋め尽くしていた。


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