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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
119/128

闇を害する閃光と、光を通さぬ深い闇。

 突然の閃光が全身を貫き、瞼を閉じていてもお構いなしに眼球を焼く。その痛みに我知らず、


「あがああぁっ!」


 と呻き声を上げるが、後方から轟く断末魔の鳴き声に飲み込まれてしまった。


 思わず疼くまっていたバラシは、地面に手をついて土魔法を発動すると、盲いた視覚の代わりに魔法感知を発動しようとする。

 だが、相変わらず周囲の溶岩土に跳ね返されて、何の情報も得られない。


「チッ」舌打ちしながらも、焦る心をぐっと堪えて、仕方なく四つん這いで前に進む。後方からは、最前まで迫って来ていた、何者かの焼かれる嫌な臭いと、鳴り止まぬ怨嗟の声。幾重にも重なった野獣の咆哮に、ゴボゴボと沸騰するような音が重なって、腹の底に響いた。


 しばらく進んだ時、ようやく視力が回復してくる。薄ぼんやりと見える樹道内は、上部に向けて真っ黒な煙が吹き上がり、


『しゃがんでいて助かった』


 と偶然に感謝した。後方にヘルメットの光精魔具を向けると、煙に閉ざされた真っ暗闇に視界は通らない。


 禍々しい煙をなるべく吸い込まない様に、屈んだままでなるべく急ぐと、


「バラシさん! こっちです」


 突然現れた手に引かれて、上方に穴の空いた場所に出た。換気された新鮮な空気を肺にいれてゲホゲホと咳き込んだ後、絡みついた痰を吐き出す。横を見ると、手を引いてくれたゴールドサージの槍戦士が心配そうに覗き込んでいる。自らも傷を負い回復したばかりなのに、バラシを心配して煙の中戻ってきてくれたらしい。


「すまんな」


 珍しく殊勝なバラシを心配しながらも、


「副長、あれを見て下さい」


 と言って前方を指差す。そこには、巨大な光る根が樹道を破り、地上まで突き抜けていた。


「なんだ、これ?」


 近寄るバラシに向かって上方から、


「お〜い! 無事か〜? 早くお前らも上がって来いや」


 見知らぬ男の声が聞こえてくる。見上げると、中年親父がしゃがみ込んで手を振っていた。


「ズキさん、このロープでよろしいですか?」


 その親父の後ろから、ゴールドサージの若手がロープを差し出す。


「おう! この長さがあれば充分」


 と言って暫く経つと、


「これを体に括れ! 合図をくれたら皆で引っ張り上げるぞ!」


 と言いながら、ロープを投げおろして来た。それを槍戦士と二人、腰に巻き付けると、


「いいぞ!」


 上を見上げて合図を送り、引っ張ってもらう。長い時間を掛けて、重い体を引っ張り上げられて地上に到達すると、労をねぎらい食い込むロープを解いて、ゴロリと横になった。


 その眼前、上空には、信じられない程大きな龍の顔が間近に迫っていた。






「ぎゃあああぁっ!」


 バラシの悲鳴をバックに、


『これで一応全員揃ったね』


 イザがスイに念話を送る。地上に上がったメンバーをザッと見回していると、先程から圧倒されっぱなしの迫力で、とぐろを巻く聖獣マグニヒカが、真上から大きな目でイザをめつけた。


 意識を感じられない虚ろな目に、ぎこちない動き。聖獣とは思えない落ち着きの無さを感じ、巨木を擦り合わせる様な動作音に身が縮みあがる。


『早くしなさい、それはマグニヒカの分身体、それ程の時間は持ちませんよ』


 待ってる間に聞いた話によると、イザが合水魔法で取り込んだのは、ミストの持ち歩く光精の宿る欠片だったらしい。

 それが樹道と組み合わさり、聖獣マグニヒカの操作によって、分身体マグニヒカを作り出したとの事。見ると動く度に砕けた木片が舞い落ちている。


 自ら飛べるバーモールとテオ以外の、地上のメンバーを一箇所に集めると、分身体が尻尾の根塊で彼らを包み込んだ。


「今から飛びますから、しっかり掴まっていて下さい!」


 イザの声かけに、籠状になった根塊にしがみつく一同。それを確認したイザは、頭を垂れる分身体マグニヒカに足を掛け、一気にまたがった。

 ミストの説明によれば、樹道との繋がりを断つと、分身体は本体の干渉から離れるらしい。それを操作するのはイザ達の役目、合水魔法によって出来た分身体は、イザとスイの魔力による命令を上書きできるとの事だった。


『いいのかな?』


 と自信無く鉄パイプを構えると、


『いいかい、これから作る魔水によって操作するのは私達なんだからね! しっかりイメージしてちゃんと飛ぶんだよ!』


 スイの言葉に、一つ深呼吸をすると覚悟を決める。分身体の後頭部には、あつらえたように小さなうろが空いており、そこに鉄パイプを差し込むと、ズブリと思わぬ程深く差し込まれた。


 肉水魔法よりも多く魔力を注ぎ込む事で、鉄パイプの中に魔水を生成すると、それを持続的に増量して、分身体に注入する。そうする事で常にイザの命令を与え、操作を可能にした。そこにスイの木精支配が同期されていく。分身体とはいえ、聖獣の魔法抵抗は強く、最初は命令を弾かれたが、


『分離するわ』


 ミストの念話と共に、樹道から分身体の根っ子が引き抜かれると、途端に二人の魔力が循環し出した。


 ここからは樹道を通して得られた、魔法陣からの魔力供給も途絶える。更に分身体自身の持続時間が限られる為、先を急がなくてはならない。


 巨大な体を揺らして空中に浮かぶ龍、その後頭部で鉄パイプを握るイザは、分身体の飛行を安定させようとするが、初めての経験にグラグラと重心が定まらない。

 籠状になった尻尾の根塊では、中に詰め込まれた仲間達が悲鳴を上げる。ユラユラと揺れる度に地面にぶつけられているが、持ち上げようとすると、逆に地面に打ち付けてしまう。


『何してんの! 早く高度を上げて』


 スイの念話に、鉄パイプを握る手に上昇の念を込めると、風を切る様に数メートル飛び上がった。その時、


 樹道を穿ち、真っ黒な塊が伸び上がる。無数の顎が分身体に噛み付こうと大きく開ききっていた。


 〝上がれっ!〟


 イザの念に答えて更に急上昇した分身体、その尻尾に間一髪、伸び上がってきた顎が掠める。だが、伸長にも限界があるのか、黒い塊は地面に落ちて、巨大な本体に吸収された。


 尻尾に閉じ込められたメンバーの悲鳴を聞きながら、操作管たる鉄パイプを握りしめたイザが振り向くと、真っ黒な塊の中央にダークローチが浮き立ち〝ブウゥンッ!〟と飛び立った。その後、無数のアサルト・ローチが浮き上がると、ダーク・ローチの残した紫の靄の後を追って飛び立つ。


 普段の下手くそな飛行と違い、狂った様に羽ばたく紫の靄に包まれたそれらは、スピードに乗って、飛行にまごつくイザ達に迫ってきた。


 逃れる様にありったけの念を込めて、分身体の飛行スピードを上げる。その眼前に魔導角で浮遊するバーモールとテオが来ると、


『こっちだよ!』


 と念話でメッセージを送ってきた。その誘導に合わせて方向を定めると、目指す精霊木に向かって飛んだーー後ろに紫の雲の様な黒ローチの大群を引き連れてーー






『分離するわ』


 イザに念話を送ると、意識を戻して周囲を見回す。そこにはレッサー・デーモンの大群を相手に無双するファングの姿があった。


「そちらは済んだ?」


 少ししてから何事も無いかの様に呟く、ミストの声を拾ったファングが、


「あらかた済みましたがね、肝心の奴が隠れています」


 最後のレッサー・デーモンに止めを刺すと、短剣から伸びた銀光を収束させて構える。


 その先には一際濃い影が、渦を巻く様に対流していた。


「あれは……」


 それを凝視するミストにも、その正体は計り知れなかった。最前から銀光を飛ばしていたファングも、全く手応えの無い謎の現象に答える事が出来ない。


 〝これはこれは、光の巫女様、こんな所までお呼びだてして申し訳ありません〟


 どこからともなく声が聞こえてくる。どこか軽薄で、それでいて得体の知れない男の声。それに向けて、


「貴方がこれの原因?」


 ミストが呟くと、


「原因という程大それた存在ではございません。せいぜいが演出家といった所でしょうか」


 闇の中からシルクハットを被った、痩せた男が現れた。まるで前からそこに居たかの様な自然さで。


「大した演出ね、マグニヒカや私たちの様な存在だけを奥に通さない魔法陣といい、何を企んでいるのかしら? それにこの土壌は……」


「おっと、皆までおっしゃるな、巫女様ともあろう者が不粋でございますよ」


 と言うと、懐に手を入れる。それを見て、すかさずファングが飛ばした銀光に、あっさりと切り裂かれながら、


「おやおや、こちらの男性は気が短くていけませんね。そんな貴方にはお仕置きをせねばなりません」


 フォッフォッフォッと笑いながら掻き消えた。去り際に懐から抜き出した瓶を傾け、一滴の黒い雫を落として。


「まあ良いわ、もうそろそろイザ達を迎えに行かないといけないから、ここは任せるわね、どうやら増援も来たみたいよ」


 ミストが聖獣マグニヒカに手を掛けると、龍髭を伸ばして、その体を頭部に持ち上げられる。


 ファングが横を見ると、事の顛末を見守るオルトスが、


「よう! 増援って俺の事か?」


 手を上げて話掛けてきた。その後方にはズーパンチやドゥープスとその魔犬アイクが、巨大な龍を見上げて口をポカンと開けている。


「巫女様、こちらは任せてくれ!上手くいったらまた会おう!」


 陽気に手を振るオルトスに見送られて、ミストを乗せたマグニヒカが飛び立った。

 それを見上げていたアイクが一早く異変に気づくと、


「グルルルル」


 と地面に向けて唸り声を上げる。


 その眼前では、黒い雫を受けた地面に〝トプン〟と波紋が広がっていた。

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