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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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再会

 スイが復活した朝、捻れて閉じた樹道の継ぎ足しはすぐにすんだ。それこそ朝食の準備中に突然、


 〝ゴゴゴゴゴ……〟


 と地響きがしたと思ったら、樹道の横にポッカリと横穴が空いていた位に。


 最初は唖然としていたゴールドサージの面々も今は準備をすませ、イザとセレミーを先頭に移動を始めんとしている。

 殿しんがりを務めるズミーレが後方からその様子を眺めていると、


「ちょっと待ちなさい」


 突如として呼び止められた。驚いたズミーレが振り向くと、真っ赤ないでたちの女が一人、後方から近づいて来る。


 まるで気配を察知出来なかった。それも自分以外にも探知に優れた魔犬レイクや、スカウトのセレミー、魔法で感知するイザなどそうそうたる面々の居る中で、である。

 その一点だけでもズミーレを警戒させるには充分であり、全身を覆う真っ赤な装いは浮世ばなれしていて、


『悪魔の化身か?』


 と疑ったのも無理はない。


「お前は何者だ!」


 硬い口調で問い質すズミーレに、


「お前とは失礼ね、私はバーモール、シュビエの色魔法使いバーモールと言えば少しは知られた名前だよ」


 言葉と共に脳みそを揺らす様なさざめきが全身を駆け抜ける。魔人となって溢れ出る魔力は、普段の会話にも力を与え、魔法抵抗に優れたズミーレでさえも多少の影響を逃れられなかった。


「バーモールさん! イザです、ダグラスさんと一緒にピンフ・バーモールに行った、ギョランの弟子イザです」


 異変に気付き喜び勇んだイザが隊の前方から声を上げる。その姿を見て、


「あら! あんたもう帰って来たのかい? で、修行はできて?」


 自ら紹介状を書いたイザを思い出したバーモールは、目を細めて成長したイザを見る。以前会った時からそれほど時間は経っていないが、すっかり青年の容姿となったイザは、しかし、よく見ると少年のの面影を色濃く残していた。


「はい、おかげさまで師匠のお墨付きをいただき、戻って来ました。あっ、こちらは遺跡ハンターのズミーレさんです」


 半身を引いてズミーレを紹介する、全身刺青だらけの大男は、


「シュビエのバーモールと言えば、うちらの業界では知らぬ者のいない伝説の探索者、ぞんざいな言葉遣いを失礼しました。気配を察知出来なかったもので」


 言うや握手を求める。だがバーモールは、溢れ出す魔力がどんな作用をもたらすか分からないとやんわり断りながら、


「私は精神魔法使いだからね、悟られたくない時はそれなりの手があるのさ」


 と言いながらも、ズミーレの丁寧な対応に満足したのか、妖艶な笑みを浮かべる。ズミーレはその容姿からバーモールが通常の人間種ではない事を察知したが、特段それに触れる様な不粋な真似はしなかった。


『この女、魔人だね。破格の魔力を秘めているわ。それこそ魔力全開のファングにも劣らない程、底の知れない怖さがあるわね』


 以前会った時には寝ていた初見のスイが念話を送る。その魔力に気付いたバーモールが、


「あら、お腹の子も目覚めたようね、もしかしてこの地下道はその子の仕業かしら?」


 楽しそうに質問するその目は、好奇心のせいかキラキラと輝いて見えた。


「はい、おかげさまでこの子も覚醒しました。この道もこの子が作った様なものです。バーモールさんは、なんでここに居るんですか? 一人で?」


 この子呼ばわりが癇に障ったのか、突っかかるスイの念話を無視して一気に喋ると、


「いや、ちょっと迷宮城への入り口が無くてね、派手に行くのも憚られたから、何処か出入り口が無いか、別れて探索していた所よ。さっき合図を送ったから、もうすぐ来ると思うわ。ほら、そこに来た」


 バーモールの指差す先、ちょうどズミーレ達が出入り口として使っていた樹道の穴に、真っ黒な何者かが飛び降りて来た。


 ファサッと翼を広げたその姿は、正に悪魔。咄嗟に身構えた一同に、


「大丈夫、彼女は私の弟子よ。テオ、こっちにおいで」


 バーモールに呼ばれて来る間に、背中の黒羽根が収納されて行き、真っ黒な装束に身を包んだ少女が現れた。目の前には驚きを隠せないイザが、


「てっ、テオ……さん」


 妙に慌てて挨拶する、腹の中ではスイの訝しむ思念が読み取れて、


『昔の知り合いなんだ! スイが寝てる時のねっ!』


 慌てて念話で言いつのった。シラッとしたスイの思念を感じる中で、


「バーモール様、こちらの方達はどなたですか?」


 ズミーレやイザ達をフンワリと見回して問う。まるで初めて会ったかの様なそぶりを見たイザは、何とも言えずさみしい感情が沸き立つのを禁じ得なかった。


「こちらは遺跡ハンターのズミーレさん」


 手をさし示して、ズミーレを紹介する、ズミーレもその場で深々とお辞儀をした。伝説的魔法使いの弟子ともなれば、自分よりも相当腕が立つと見て差し支えないだろう。


「こちらはほら、一年以上前に貴女がお願いしてお相手した、あの少年よ」


 バーモールの説明に少し目を大きくしたテオは、真っ白な手をのばして、


「ごめんなさいね、余りにも見違えたから分からなかった。お久しぶりねイザさん」


 イザの手をやんわりと包み込んだ。名前を覚えてくれている! 一度落ち込んだ気分が急上昇して、胸の鼓動が高鳴るのを止められない。緊張のピークになったイザが、


「こ、こちらこそっ! 見違えました。分からなかったです」


 汗をかきながらドギマギと答える。その様子に何があったかあたりを付けたスイは、


『はんっ! 発情小僧が、十年早いわっ!』


 のぼせるイザに冷や水を浴びせかけるが、熱せられた頭には入らずに、目の前で微笑する美少女に魅入られてしまう。以前会った時よりも大人に見える、少女と呼ぶには憚られる女性になったテオは、黒一色の装束の非現実味とあいまって、魔性の色香を発していた。


「坊主、色気付く状況じゃないだろ」


 突然テオの後ろから声がかかる。そこから姿を現したのは顔馴染みズカだった。その意外な組み合わせに驚くイザの後ろから、


「ズカさん! ここに居たんですか? 師匠はどこに?」


 様子を見に来たセレミーが、兄弟子との再会を喜んで駆けてくる。


「師匠はリタイアした、ズーパンチが街門の安全地帯まで送り届けている所だ」


 ズカの言葉に顔を曇らせる。根性の座った師匠は滅多な事ではリタイアなどしない。以前に仕事を途中離脱した時は、半死半生の重傷を負ったと聞いている。


「大丈夫、命に別状はない。街門には治癒の専門家が居るから安心しろ」


 ズカの目を見て、事の真偽を見極めたセレミーは、一息つくとフッと顔を緩ませた。ここ数日張り詰め通しの緊張が、頼れる兄弟子の登場で緩むのも仕方が無い。だが、そんな様子を見たズカは、


「むしろ無傷なオレ達の方が、よっぽど危険な状況だぞ。これから死地に向かうんだからな」


 目の前の妹弟子に言い含める。兄弟子の滅多に言わない緊迫感のあるセリフと、その真剣な目を見たセレミーは、この迷宮の困難さを改めて感じて黙り込んだ。








 禍根の塔破壊によってシュビエの上空に現れた大魔法陣の一角を崩し、一休憩を終えたズキ、ズク兄弟の率いる一団は、意気揚々と街門をくぐり抜けると、巨大な精霊の木が聳え立つ根元近くに来ていた。


 遠目にも良く見える木は、まるで千年以上前から生えているようだが、以前シュビエに来たことのある兄弟は、この様な巨木を見たことが無い。


「何だ? この木は。全体が薄っすらと光ってないか?」


 ズキの言葉に、


「それどころか、この木は魔法陣の魔力を吸い取っている様だ。魔力感知で調べると、膨大な魔力が上空の花弁に集まっているのを感じるぞ」


 魔法に優れたズクが答える。だが同時に嫌な魔力塊をも発見してしまった。


「ズキよ、あの根元に嫌な魔力を感じるぞ。さっきまで戦ってたレッサーデーモンの群れが、大きく根元を掘り返しているらしい」


 そう言われて木の根元を見ると、それまで影に隠れていた部分に、影の様なレッサーデーモンの群れが、硬い溶岩土を掘り返す姿が見えた。

 その数ザッと見で百体を越して見える。更に最前の様に、影から後続が現れる可能性も考えられた。


「マジかよ、いくら悪魔対策を装備して来たとはいえ、もう在庫切れじゃないか?」


 ズキの言葉に、


「ああ、消耗品はさっきの戦いで惜しみなく使ったからな、ほぼ使い切ってるぞ」


 沈んだ声のズクが答える。その目の前で、独自の感知能力を持っているのか、レッサーデーモンの一体がこちらを向くと、その他の個体も一斉にズク達の方向に首を回した。


「やばい! ばれたか。 魔法が来るぞ!」


 ズキの言葉を追う様に、レッサーデーモン達の口元に魔力が集中する。だが、以前と違って結界の魔具は禍根の塔破壊に消費してしまいもう無い。


 せめて陽動変わりになろうと、ズキが走り出した時、目の前にそびえる精霊の木が輝きを増した。その光に触れたレッサーデーモンが弾かれる様に吹き飛んでいき、その場から逃れようと熱線魔法を解除して、蜘蛛の子を散らす様に距離を取る。


 直視出来ないほどの光量が増し続け、太い柱となって上空魔法陣を突き破った時、


 〝キュエエエェェェッ!〟


 ポッカリと覗いた青空から、耳をつんざく程の鳴き声が地面に降り注いだ。

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