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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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アドバンスド・魔法×罠猟

 イザは再び、赤色光の模様渦巻く魔法陣の空の下に佇んでいた。周囲に他のメンバーは見当たらず、単独で精霊の木の根が作り出した高台に片膝をついている。

 感知魔法に反応しない黒ローチは、視認するしか確認方法が無かったが、魔法陣の発する赤色光の元ではその姿を捉える事ができなかった。

 目の前には、スイが精霊の木の根を操って作り出した広大な盆地が広がっている。そして現在、イザは過去に無いほどの魔力を込めた高濃度の肉水魔法を行使しようとしていた。鉄パイプを握る手は、スイを経由して送られて来る精霊の木の魔力でジンジンと痺れている。更に中継装置となったスイが陣取る下腹部の魔力禍も、凝縮された魔力が発する波動で熱を持ち始めていた。


『準備はいい?』


 イザの問いかけに、


『そうね、地下根の操作にあと十秒』


 木の根に意識を取られるスイが答える。それを聞いて鉄パイプの先を樹道を細く圧縮した延長パイプに差し込むと、反動を抑え込むために周囲の根をその後端に絡み付かせた。

 今やガッチリと固定された長大な根のパイプと一体化した鉄パイプ、その内部に宿った水精達は、かつてない魔力供給に震え上がるほど喜んで、イザの精神に活発な信号を送り込んできた。


『……3、2、1、撃て!』


 スイの号令に、引き留めていた水精達のたずなを離すと、同時に肉水魔法を発射する。余りにも圧縮された魔力の奔流に、ガッチリと固定された鉄パイプが手の中で一瞬震えた。

 さらに鉄パイプの後方を抑える精霊の木の根が吹き飛ぶ中、魔力行使のイメージをコントロールして暴走を抑え込むと、全てのエネルギーを肉水魔法の効果へと集中させる。その作業にも慣れて来ると、ものの数十秒で大量の高濃度肉水が盆地に吐き出された。そのフェロモン作用が瞬時に迷宮都市に拡散していく。それは込められた魔力濃度に比例するかの様に、高い求心力を持っており、地下を掘り続けていた黒ローチ達は、目眩のするような誘惑に反応すると、一斉に地上に出た。


 赤光に照らされた迷宮を覆い尽くす程の黒い影が、肉水の注がれた盆地に殺到する。その姿は死骸の皮膚に蠢く腐肉喰らいの様にも見えた。高台に居たイザは、その予想もしない数の多さにギョッとして、思わず握った鉄パイプを、放水の終わった木の根から外して握り込んだ。この数に真っ直ぐ向かっていたら、確実に物量に飲み込まれていただろう。そう思うと、戦いの覚悟を決めたにも関わらず、全身に鳥肌がたつ。


『こんなに……』


 数千を数える黒ローチの大群には、スイも驚いた様で、絶句してしまった。だが、盆地はかなり余裕を持って作ったため、この数でもなんとか対処は出来る。地下に隠した精霊の木の成長硬根を操作して、肉水に夢中で飛び込んでいる黒ローチ達を取り込み、押し潰そうと魔力を行使した。


 既に魔力行使のトリガーは引かれた……そんなタイミングで、


「ビイイィィィィイッ!」


 後方から強烈な鳴き声が上がると、黒ローチ達の動きがピタリと止まる。

 同時に盆地の四方八方から、無数の成長硬根が鎌首をもたげて殺到する。一本一本が人間の胴体よりも太く、固い地盤をも易やすと穿つ硬根が黒ローチ達をすり潰していった。同時に地面と化していた精霊の木の根もうねりをあげると、黒ローチ達を地面の下に引きずり込んで絞め殺す。

 地面を揺らす程の猛攻に、作戦成功! とイザが思ったのも束の間、


『ちっ! 嫌なタイミングで肉水の効果を打ち消されたね、思ったよりも撃ち漏らしが多いよ』


 スイの念話に修羅場と化した盆地を観察すると、木の根を掻い潜った黒ローチ達が盆地から這い上がって来るのが見えた。本来のスピードではローチ達の方が遥かに素早く、フェロモンの効果を切られたローチを仕留め切るには根の動きが鈍すぎた様だ。

 その数は大分減っているが、いまだに脅威足り得る数が何者かの命令で、真っ赤に光る目をイザの陣取る根塊に向けている。


『本命は別動隊に任せて、私達はこいつらの注意を引きつつ、自分の生き残りに専念するわよ!』


 スイの念話と共に、根塊が後退する様に形を変えていく。そんな中、素早い個体は既に飛行しながら近くまで迫って来ていた。イザは刃水を撃ちながら、


『分かってる、スイも魔力供給と根の操作で大変だろうけど頼むよ!』


 珍しくスイに発破をかけた。気配を掴めない大群を相手にどこまで頑張れるか、だがこんな所で死ぬ訳にはいかない。生き残る! という強い信念を込めて強く握ると、右手の鉄パイプからも、


 〝俺達も頑張る!〟


 とばかりに活発化した水精達の手応えが返ってきた。






 地表近く、樹道に潜んだズミーレ達の耳が、盆地に注ぐ肉水の音を捉える。それと同時に樹道の天井に空いた穴が全開になった。


「来たな! 手はず通り虫の指揮系統を割り出すぞ」


 セレミーやレイクの斥候コンビを中心に、他のメンバーも周囲を探る。その後全員で隊列を組み、次の樹道まで探索を進めていた時、


「ビイイィィィィイッ!」


 前方で突然、切り裂く様な鳴き声が響いた。それと同時に、スイが根の罠を仕込んだ盆地で、狙い通りに肉水に貪りついていた黒ローチ達の気配が一変した後、轟音と共に罠が発動する。


 〝こいつだ!〟


 セレミーのハンドシグナルに、ズミーレも頷く。間違いない、今の一鳴きで場の空気が一変した。正に虫達の指揮系統と見て間違いないだろう。

 声の主まで後少しという所で、彼は隊列を止めると後方に合図を出した。それを受けたドゥーは足元に魔石の屑を散らすと、呪術の準備を始める。蛇牙の呪物に詰めた呪香に、ワンジルの差し出した火を付けて煙をふかすと、撒き散らした魔石に吹きかけていく。更に鳴き声の主に意識を向けると、その呪力を一点に集中させて行った。


 〝意趣念着〟


 闇魔法で逃げられない様に、意識の縛りを仕込むための呪術が、煙となって天に登って行く。

 次の瞬間、突如現れた煙に絡め取られた声の主は、慌てて身を隠そうとするが、思うように闇魔法の隠遁が行使出来ずに、苛立ちの鳴き声を上げた。


 〝呪術成功!〟


 ドゥーを補佐するワンジルが出した合図を受けて、ラヴィや肉弾戦士のオース、ゴールドサージの前衛メンバー等がその姿を捉えようと走り出す。


 彼らが瓦礫の山を超えた先に見たものは、紫色のオーラを放つ、5mを越す巨大なローチの親玉と、それよりいく分か小さく、しかし普通の個体よりも明らかに大きなローチが2体、そして周囲を固めるアサルト・ローチの群れが数十体。親玉は突然の呪術行使に、怒りの咆哮をあげて、周囲の部下達に当たり散らしている。


 そして明らかに少ない取り巻き達、どうやらイザの陽動作戦は成功したらしい。


「あれは何だ?」


 その余りに巨大なローチの親玉の姿に、前衛メンバーの勢いも止まる。その後にドゥーを護衛しつつ続いたワンジルは、


『あれは黒子渓谷の紫閻王じゃないか? という事はここにいるアサルト・ローチ達は黒子渓谷から連れて来られたって事だろうか?』


 と思い至る。その昔、側付きをしていた呪術師コーラルから、黒子渓谷に住み着いた魔獣の話と共に、親玉である紫閻王と赤閻王の話を聞いた事があった。その特徴と、前方のローチの親玉の特徴はそっくり重なる。

 そんな疑問を持ちながらドゥーを見ると、真剣な表情で新たな呪術の準備に取り掛かっていた。慌ててその手伝いを始めながらも、釈然としない思いが頭を巡る。だが、


『こんな所まで移動してくるとは思えない』


 という当たり前の思考に落ち着き、核心に迫る閃きは胸にしまわれてしまった。


「とにかく、あいつをやっつけるしか、方法はなうぃだおゔ」


 巨大化し、牙を剥き出しにしたラヴィが駆け出す。その足に蹴られた迷宮の瓦礫が、粉塵をあげた。

 ズミーレが制止の声を上げる隙もなく、猛然と斬りかかるラヴィは、立ち塞がるアサルト・ローチを切り裂き、踏み潰すと、紫閻王の元に飛び掛かって行った。

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