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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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ダークストーカーズ

 人一人が背筋を伸ばして立っても充分に余裕のある空間。精霊の木の根に空いたパイプ(樹道)を進む一行を、猫人族のセレミーと魔犬コンビ〝アイク〟と〝レイク〟が先導して行く。猫と犬は相性が悪いと言われているが、アイクとレイクはプロのハンター組織の斥候役。素晴らしいコンビプレイで、さっき会ったばかりのセレミーをしっかりサポートしていた。セレミーも頼もしい相棒を得て、緊迫した状況の中では悪かろうはずもない。


 樹道の中は、幹と同じくボンヤリとした燐光に黄色く照らされており、その暖かい光に中を通る全員が精神を癒されていた。総勢30名を越す一同は、その段になって初めて、知らず知らずの内に街を覆う魔法陣の赤色光に感覚を犯され、麻痺していた事に気付く。


 都市の迷宮化という異常事態のプレッシャーは、アサルト・ローチという異容のモンスターの襲撃とあいまって、一行の心身に疲労を蓄積させていた。その緊張に凝り固まった体は休息を求めて、手足は冷たく鈍くなっていたが、精霊の木から湧き出す聖なる光は、徐々にそれらを癒して皆の心に余裕を生んでいった。


 ワンジルもドゥーを背中に庇いながら快調に進んでいたが、いかんせん前を行くラヴィの巨体が彼の視界を遮って、不快感がつのり始める。飛び抜けて長身な獅子族のラヴィは、屈みがちに歩を進めるため、突き出したお尻ばかりが彼の視界を埋めていた。


 右手に持つ短槍で目の前のお尻を突つきたくなる欲求を抑えながら、僅かな隙間から見える前方を警戒する。先頭を行くセレミーは、時々地上の音に聞き耳を立てながらも、なるべくスムーズに前進できる様に務めていた。いまだに成長を続ける木の根はゴリゴリと凄まじい音を立てており、樹道内に微振動をもたらしている。それは進むに連れて明確になり、迷宮城壁近くになると激しい揺れを感じる程に強まった。

 そんな状況下では、ワンジルには何も感知する事が出来なかったが、彼女はしきりに耳やヒゲを動かして、魔犬コンビとコンタクトを取りつつ、何かを捉えると納得したように進んで行く。


 〝トントン〟


 魔獣の毛で編み上げられた、分厚い呪魂戦士の貫頭衣を叩かれて後ろを振り向くと、大蛇牙の呪物でワンジルを突つくドゥーがつぶらな瞳で見上げてきた。


「どうしました?」


 しゃがみ込んで見つめ返すと、空いている左手で腹をさすりながら、空腹のサインを送ってくる。そういえば緊張の連続で忘れていたが、ここしばらく食事をしていない事に気が付く。後ろに続くメンバーもドゥーの仕草に空腹を思い出したのか、空腹を訴えてザワザワとうるさく喋り出した。

 こればかりは精霊の木の癒しが気の緩みを招いたと言っても致し方ないかもしれない。だが、人間食べないと動けなくなるのも道理だ。

 ワンジルは少し前を行くズミーレに状況を説明すると、


「そうだな、そろそろ一休憩入れよう。セレミー、少し先まで偵察して来たら、交代で小休止をとろう」


 と言うと、魔犬使いのドゥープス、愛犬アイクとレイク、そして情婦のスピークを選出して、セレミーと連れ立って歩き出した。

 残りのメンバーは、四名の見張りを前後にたてると、思い思いの携行食を取り出して黙々と食事を始める。

 ワンジル達も手持ちの食料を食べ出したが、イザは彼らの誘いも断り、肉水を摂取するのみで、前方の見張りに志願した。


『ここは私の魔法で育った精霊木の中、普段の力にも増して魔法を行使できるわ。そのイメージを送るから、感覚にズレが出ない様にしっかり学習するのよ』


 スイの念話に、


『了解、僕の水魔法も有利な状況だから、何かがありそうな気配は感じているよ』


 イザは樹道に沿って水分感知の精度を安定させながら、スイの送ってくる、実体験の様に感覚すら伴うイメージに同期していった。


 目の前にある、セレミー達が通って行ったパイプの知覚情報の他に、スイの送りつけたビジョンが映し出される。それは視神経を通さずに、脳に直接送られた魔力の信号だった。毎日欠かさず交信しているおかげで、今では微々たる魔力で優に数時間分ものやりとりが出来る様になっている。

 その中で、精霊の木の力を自在に操るスイの草魔法や、魔力のサポートを受けて強化された肉水魔法などを駆使して、地下、地上の街中、迷宮城の中などのあらゆるシチュエーションを舞台に、アサルト・ローチの大群や、過去に戦った夜叉神など、知りうる範囲の敵と対峙させられた。その中でイザは何度も死に、何度も再生されながら、飽きる事なく戦闘を繰り返す。


 見張りに立つイザは、イメージトレーニングに反応して動いてしまうが、毎日の慣習でなれっこのワンジル達が周囲に説明して回る。

 イメージの中で怪我を負うと、実際の体にもミミズ腫れなどが出来、酷い時は出血も伴う。その都度回復水で治していく様は、見慣れないゴールド・サージの面々には異様な光景に映り、食事の手を止めてボンヤリ眺める者もいた。

 成長著しいイザとスイは、普段平静を装っているが、腹の底では故郷を壊滅され、親を食われた恨みが煮えたぎっている。そんな彼らにとっては、少し行き過ぎの様な過酷なトレーニングでも、まだ生温く感じられた。


 そんな過激なトレーニングをこなしつつ、もう一方ではスイと協力して、常に周囲に魔力感知を働かせている。精霊の木の力を流用させたスイの感知は、今や街の地下ほぼ全域を知覚の範中に収めていた。とはいえ木の根は感覚が鈍く、薄ぼんやりとした情報しか得られない。それをスイが読み取り、引っかかる所をイザの水魔法で詳しく調べるという分業には、かなりの時間を要した。


 目立った所では、目的地である迷宮城の近くで、アサルト・ローチ達が地面を掘り返しては木の根に噛り付いているのが解る。根の放つ聖なる燐光に焼かれても尚、何故か彼らは執拗に穴を掘り続けて、後を絶たない様だった。


 その事を伝えようとイメージトレーニングを中断し、見張りを交代してもらおうとした時、先を調べに行っていた魔犬コンビのけたたましい吠え声が聞こえてくる。


「先に見てきます!」


 一緒に見張りに立っていたゴールド・サージの一員に断りを入れると、鉄パイプを手に走り出した。

 一歩進む毎に草盾の服が硬度を増し、鎧の様に胴体や手足を保護していく。頭には鉄木と海綿草がヘルメット状になって纏わり付き、各種仕込み種が戦闘配置に送られた。袖口から伸びる蔦は鉄パイプにも絡みつき、草魔法と水魔法の連動をサポートする。それら全てに樹道の魔力が限界まで込められ、燐光を纏うと、今までにない力強さを感じた。


 戦闘になっているのか? 前方が騒がしい。少し進んだ先にセレミーの背中が見える。


「大丈夫?」


 離れた所から声を掛けると、それに反応したセレミーは、振り返らず無言で前方を指さした。そこには湧き出す様に密集するアサルト・ローチ達と、それを衝撃波で押し返す盲犬レイクがいた。その横で地面にうずくまるアイクと、それを庇うドゥープス、それに撃ち漏らしたアサルト・ローチを仕留めるズミーレ達が奮戦している。

 その場にひしめくアサルト・ローチは全て、見たことの無い黒い靄を纏って、真っ赤な目を光らせていた。


「三でさがって下さい!」


 樹道から更なる魔力供給を引き出しながら、イザがセレミーと入れ替わると、


「一、二、三ッ!」


 と合図を送って前に出る。それを受けたズミーレ達が一斉に引くと、力なく横たわるアイクを抱きかかえながら、ドゥープスもレイクを操り後ろに下がった。

 その瞬間、黄緑の光を放ち、イザの体から無数の槍葦が伸びる。力を増した槍先は、易やすとアサルト・ローチを貫き、その後ろに控えるものも貫通しながら成長する。程よい所で根元を断つと、それ自体が障害物となって樹道を塞いだ。


「詳細は後で! 取り敢えず皆の所に退避しましょう」


 イザの提案に皆が同意して撤退する間、隙間を通ってきた魔法感知不能のローチ達を刃水で仕留めて行く。どうやらこの黒ローチは特別強い個体という訳でもないらしく、以前出会った他のローチと同じ位の硬さで、弱点の頭部を貫かれると絶命した。だが一匹を仕留める間にも後から後から途切れる事なく湧いて出てくる。


『なんで感知にひっかからなかった!?』


  予想外の事態を嫌うスイが語気荒く問うが、イザにも訳が分からない。決して注意が散漫になった訳では無い。それどころか、今までにないほどの注意力で感知し続けていたのに、それをすり抜けてきた黒ローチ達。


『分からないけど……かなり手強いな、もしかしたら最悪の事態かも知れない』


 ふと降りてきた思いつき、その想像に身震いしたイザは、そう返す事しか出来なかった。

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