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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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穴の中①

 真っ暗な穴に落下しながらも、黒の三女の首に巻き付けた、盟約の紐ならぬ綱を締め上げながら手繰り寄せる。

 ハードキィの目は一点、三女の真っ白な顔だけを見つめて離さなかった。因縁の年月に、左手から伸びる綱もギチリと強張る。

 三女は足場のない落下状態の中で、為す術もなくハードキィとの距離を縮めていった。


 先行するズカが上方に向けて矢を放ち、今度は下に向けて三本の矢を放つ。暗闇の中では穴の径など見当もつかなかったが、矢の手応えを得て直径30m程という概算をつけた。


うん!」


 右手で印を切ると、下に放った三本の矢を起点に、瞬時に闇魔法の網を張る。穴の底からの吸引で、落下に勢いの付いたズーパンチとズカは、その網に飛び込み、強か食い込むと、反動で跳ね上がった。


「ズーッ!」


 そこへ一丸となって落ちてきたハードキィと黒の三女が迫ると、三女の手足を押さえつけたハードキィが、ズーパンチに向かって怒鳴りつける。

 寝食を共にする師弟の間柄、何も言われなくとも剣で貫け! という師匠の想いを把握する。だが、明かり一つ無い穴の中で、感知能力のみに頼って位置取りを決めたズーパンチは、咄嗟に刺突剣を抜き打ったものの、片腕を振りほどいた三女の黒刀によって弾き返された。


 更にもう一方の手を振り抜いた三女は、ハードキィに黒刀を打ち込む。

 防御にまわった影剣と黒刀が刃を合わせ、不協和音が闇に響く中、闇糸の網に落下した二人は、もんどりうって絡まり合った。


 ズカは上方に放った矢に魔力を注ぎ込むと、繋がる糸を綱の様に太くする。そのまま底からの吸引力に対抗しようと網全体を引き上げた。それと同時に、穴の側面に突き立った矢が抜けない様に、鏃と壁の双方にも魔力を分け与える。

 その結果、闇糸の網は何とかその場に留まる力を得て安定したが、同時に他の事に神経を向ける余裕も無くなった。


 ズーパンチが発光魔具を操作して光源を作り出す中で、三女はハードキィともつれ合いながらも、首回りに生成した黒骨を張り出させると、盟約の綱を強引に外す。そして自由になった体を網目の隙間に滑り込ませると、うんていの要領でスイスイと移動して行った。


「アッハッハッ! まさかこんな運動するハメになるとはね」


 楽しそうに笑うと、壁と繋がる綱に逆上がりで登り、振り返る。そこに瞬間移動してきたハードキィが影剣を投擲して、空いた手を後ろに伸ばして印を切った。


 即座に黒刀を現して弾こうとする三女の目の前で、影剣に繋がる盟約の紐が、再度人間の腕の様に太い綱に変わると、軌道を変えて三女の足元に斬りかかる。

 すかさず黒骨を伸ばして防御した三女が、黒刀で綱を斬り飛ばそうとする所で、瞬時に引き寄せられた影剣がハードキィの左手に戻った。


 その右手、最前から印を切り魔力を載せた爪の先は、いつの間にか後ろに立ったズーパンチの鳩尾へとめり込んでいる。

 その爪先を捻ると、一気に引き抜く、その軌道には闇のリボンが尾を引いていた。


ッ!」


 鋭い気合と共に空中を走るリボンの先端が、綱の上で双刀を構える三女に迫る。その間、激痛が走っているのか、ズーパンチの絶叫が吐き出され続けた。長い絶叫に後押しされた長い闇のリボンは、三女が切り払うのも構わずに絡みついていく。


 全てのリボンを抜き取られたズーパンチの真っ黒だった肌は、白色人種の様に変色していた。そのまま膝から力が抜けた彼は、脱力してくずおれると足元の網に縋り付く。

 それとは対照的に闇のリボンに纏わり付かれる三女は、真っ白な肌に黒のリボンを張り付かせながらも、網の上を逃げ惑う。

 その姿は網に吊るされた魔具に照らされて、リボンを振り回しながら遊んでいる様にもみえた。


 その時前方に移動したハードキィが、素早い身のこなしで切りかかっていく、その左手には影剣、右手には何時の間に取り出したのか、闇に淡く光る青の短剣が握られている。二刀同士の激しい斬り合いの合間に、闇のリボンが執拗に三女を拘束せんと絡みつく。イライラを募らせた三女が、体を張り出して叫ぶと、胸を隠していた黒骨が変形して、闇のリボンを切り裂いた。だが、その黒骨にすらリボンが絡みついて、ビラビラと底からの吸引にたなびく。


 長年闇のリボンを纏い続けたズーパンチは、念を込め続けた呪物を剥がされて、その虚脱感に膝を折っていたが、ズカの手助けで立ち上がると、手渡された気付けの覚醒系ポーションを飲み干した。

 体を軽く動かすと、今迄には無い程の軽さを感じる。まるで分厚い服を一枚脱いだ様な身軽さ。精神的な虚脱感が抜けると、腰に差した刺突剣〝触角〟を抜き払った。


 小さな光源を反射する細身の剣身は、側面のに毛状の触角そのものが、密に詰まっている。そこに今まで皮膚に割いていた魔力を、余すところなく流すと、燐光の様な淡い光を伴って、ふんわりと起毛した。

 軽く一振りすると、目の眩む様な感覚がズーパンチの体を駆け巡る。触角剣と同期した彼の感覚は、空間ごと周囲を感知して、その範囲を広げていった。


「この場がもつのは一分程だ」


 ズカは闇の網に充分な魔力を注ぐと、魔力を切って独自に循環させる。一分後、自動的に網が巻き上げられる様に仕込んで。

 そうして自由になった彼は、闇に溶け込む様に消えた。


「わ〜かったぜ〜ぃ!」


 素っ頓狂な返事を返して走り出すズーパンチの前方では、師匠と三女が激しく斬り合っている。その中にテンションを上げて突っ込んで行く彼の視界は、何時になくクリアーだった。




「あんた何者? お姉ちゃんの剣を持ってるって事は、関係者なんでしょ?」


 三女の問い掛けを無視して、影剣を突き込むものの、皮一枚の距離ですり抜けられる。そのまま右手の短剣を横薙ぎに振るうが、黒骨の防御に阻まれて火花を散らした。


「あれでしょ? その剣に呪われたか、契約したか知らないけど、逃れられないんでしょ? お姉ちゃんもえげつな〜い」


 ニヤニヤと微笑を浮かべて聞いてくる、激しい運動量の中に、随分と余裕が見えた。闇のリボンに追いかけられるのにも慣れて、何処か楽しみ出した節がある。


「うるさい! そんなんじゃない! 彼女は、私の恩人だっ!」


 何時に無く感情的なハードキィの怒声が、穴の底に吸引されて行く。それを見た三女は喜色満面、


「あははっ! それが呪いって言うのよ」


 言うと、黒双刀で影剣と青の短剣を受け止めて、鍔迫り合いの末に押し込みにかかる。

 見た目華奢な体のどこから湧き出すのか不思議な程の怪力で、ハードキィの機動力は完全に封じられた。闇のリボンも伸びた黒骨に阻まれて近付けない。


「どうやら密着されたら瞬間移動出来ない様ね」


 耳元で三女が囁く。力一杯押し返すハードキィの関節が軋みを上げて痛んだ。


「一つ教えてあげる、お姉ちゃんはね……捨てられたんだ、私達に。クスッ、ほとんどの力を無くしたカスだよ、アレは」


 一段と重くなった三女の背後には、黒い靄がたなびき、濃度と共に力が増して行く。


「知るかっ!」


 影剣に繋がる盟約の紐が、瞬時に太もものようになると、倍以上の力で押し返す。それを支えるハードキィの下半身は、筋を違えてグキリと鳴ったが、それに構わず力一杯押し込んだ。密着状態だった体が少し離れた瞬間! パッと姿が掻き消えると、三女の背後に瞬間移動する。


 振り下ろされる影剣と防ぐ黒骨、その隙に自由を得た闇のリボンが三女の手足に絡みつく。

 自由を奪われて一瞬焦った三女は笑みを崩して、殺気の篭った黒靄を増加させる。と、その胸にいつの間にか鋼が差し込まれていた。


「力は強いけど頭悪いね〜アンタ」


 そこにはピュンッと刃を引き抜いた真っ白なズーパンチが、笑みを浮かべて刺突剣を構えていた。

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