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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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柔肉に食い込む骨、滴る体液。

「魔法陣の中でも、割と自由に次元魔法を使える様ね」


 真っ赤な魔装のバーモールが、ハードキィ達を先導しながら歩く。レザーでもなく、龍革でもなく、不思議と艶のあるボディスーツが、メリハリのある体をピッタリと覆う。額、膝、肘、胸、腰部などの要所要所には、大小様々な六角板状の補強材が魔力によって浮かんでいた。

 場所は街外れにある小屋、魔力の結界によって迷宮化を逃れた地下室に降りて行く。中はすっからかんだったが、金属でできた重厚な壁の一面には、魔法陣の切れ込みに据えられた魔石と、その下に手を差し込むための窪みがあった。


 ピンフ・バーモールの地下にある装置と同じく、次元魔法の込められた移動扉。しかし集団移動用のそれは、ピンフ・バーモールにある物とは違い、かけた魔力の分だけ何人でも利用できる仕様である。


「でもやっぱり、城の中には行けないみたいね、迷宮核はその下辺りが怪しいけど……取り敢えず現場に行ってみる?」


 窪みに手を入れて、行き先を念じるが、元領主の館には強力な結界が張られ、侵入できそうにない。ならば取り敢えず下調べとしてその周囲に転移するか? 今回のリーダーたるハードキィにお伺いを立てた。


「もうそろそろズカが帰りそうじゃし、少し待ったらいくとしようかね」


 ハードキィはそう言うと、地面に腰を下ろして、アロマ浴の準備を始める。なんでも一日に数回これを行わないと、エラいことになるらしい。呼吸器系の疾患でもあるのか? とテオが訝しむ中、先ほど別れたズカが追い付いてきた。


「すみません師匠、お待たせしました」


 珍しく息の上がったズカに、


「結構じゃ、きっちりカタは付けたんじゃろ?」


 独特の香りを放つお香を焚いて瞑想していたハードキィが、片目を開けて尋ねる。


「はい、吸血樹の苗にしてやりました。こっちも身代わりの呪物を使わされましたが」


 それを聞いたハードキィが目を剥く。一番弟子とも言えるこの男が、切り札を連発する。そこまで追い詰められるとは……アイテムが無ければ倒されていた可能性が高いという事だろう。


「思った以上に油断ならない迷宮のようじゃのう」


 バシッと両膝を打つと、バーモールに目で合図を送る。それを受けたバーモールが頷く、どうやら移動先には異常がないらしい。

 その後全員を促すと、バーモールの操作で、中央の魔石が赤色魔光を放ち、次の瞬間には全員を迷宮城の近くに転移させた。


「これは中々立派な城じゃのう」


 城を見上げるハードキィの言葉に、


「あ〜ら、田舎者には刺激が強すぎたかしら?」


 側面から声がかかる。


 即座に影剣を抜いたハードキィに、


「やっぱり、お姉ちゃんの剣だ、なつかし〜!」


 テンションを上げるのは、漆黒の長髪に大きな黒目、真っ白な肌に酷薄な笑を浮かべる真っ赤な唇の美少女。裸体の局部のみを隠すように絡みつく黒骨の鎧が、柔肉を締め付けていた。


「皆! 黒の妹だ! 陣形を組め」


 ハードキィが警告を発すると、予め決めていた通りに魔法使いを後衛とする陣形を組む。


「姉は? どこにいる」


 極度の緊張から、珍しく語気の荒いハードキィが詰問すると、


「さあ? 私しらないし〜」


 両手を持ち上げてブラブラと振って見せた。


「案外そこら辺に居るかもよ?」


 そう言うと、敏感に反応して周囲に気を配るハードキィを見てクスクスと笑う。


「少なくとも半径百メートル以内には何も居ないわ」


 魔力感知をしたバーモールの言葉に頷くと、次の瞬間には、黒の三女の元へと瞬間移動していた。


 右手に具現化した鎌刃の影剣を持ったハードキィは、三女の首筋を狙う。それに合わせて形態を変えた三女の黒鎧の防御と噛み合って、耳障りな音と火花を散らすと、三女が思い切り後ろに跳びすさった。それと同時にズカの破魔矢が射出される。


「あっはっはっ! 手が早すぎ〜、もっとゆっくり楽しみましょ」


 股間に纏った黒骨が素早く動き、破魔矢を払って着地すると、具現化させた黒双刀を地面に突き立てる。そのままクロス状に地面を切り裂くと、その中心から、地面を破って巨大な黒い門が突き出てきた。


「さあ、仕事の時間だよ! わが下僕ども、とっとと出て来て働きな!」


 黒髪をたなびかせ、門の上で見得を切った三女の金切り声と共に扉が開く。中から現れたのは、黒鎧に身を包んだダークエルフの一団。頭には闇のオーラを放つ額冠を着けていた。


 その時、バーモールの精神魔法が場を包み込む。


 〝精神支配〟


 魔人と化したバーモールによって、三女の意思を乗っ取ろうとする魔力の触手が、素早く展開される。

 更に味方には精神高揚と、身体能力の向上をもたらした。


「無駄だよ!」


 三女が手にした刀をバーモールに向かって投擲する、どうやら意思の乗っ取りには失敗した様だ。


 その刀を前面に出たズーパンチの細剣が弾き飛ばすのを待たずに、門の裏側に飛び降りる三女。それを追ってハードキィとズカが駆け出した。


「貴方も行きなさい」


 門から湧き出すダークエルフ達に、鈍化の魔法を放射したバーモールが、彼女を庇う様に立つズーパンチに言い放つ。それを受け、少し迷った彼に、


「こっちは大丈夫、それより師匠の宿敵はあの女よ! 全力で行きなさい!」


 その言葉に頷いたズーパンチは、門の裏側へと駆け出した。


「さあ、この場をさっさと片付けて私達も合流するわよ!」


 後ろに控えるテオに向かって発破をかけると、全身に纏った浮遊する六角形の板(=浮遊角)を集めて、臨戦態勢を取った。


 その前方には、門から出たダークエルフが二十名ほど、陣を組んで前進して来る。額の六角から放射する鈍化の魔法にも、段々と抵抗が出来て来た様だ。


「中々やるじゃない、久しぶりに一丁あばれられそうだわ」


 少し楽しそうなバーモールが、弟子たるテオに笑みを放つ。実戦経験に乏しいテオは、既に黒魔装を操って浮遊角の翼を形成していた。


「私は余裕が無いから、先にやらせてもらいます!」


 テオの宣言と共に、浮遊角の翼に魔法陣を形成すると、脳下垂体から内分泌魔法を発動する。爆発する性腺刺激ホルモンに滴り落ちる体液、そこに溢れる魔力が靄となって全身を包むと、一匹のケダモノと化した夢魔が黒い羽を広げた。


「あらやだ、私の分も置いといてよ」


 ダークエルフ達の元へと飛び立つ弟子の残臭を嗅いで、妖艶な笑みを浮かべるバーモール。溢れ出るフェロモンを抑えきれず、魔人と化して変質した己の力を確認しながら歩き出すその周囲には、ピンク色のオーラが滲み出ていた。






 ズーパンチが師匠を追って、門の裏側に回り込むと、城壁の高みに垂直に立つ黒の三女と、それを睨みつけるハードキィ、後方から援護射撃を試みるズカがいた。

 三女はズカの破魔矢を弾き返しながら、時折瞬間移動してくるハードキィを迎えうつ。その口元は妖艶に歪み、傍目には二人がじゃれている様にも見えた。

 だが、ハードキィにはそんな余裕が無い。何せ固有能力である瞬間移動は、繊細な魔法な分、魔法陣の強力な魔力に引きづられて、より強い集中力を強いられている。

 だが、何度も手合わせする内に、三女に関するかなりの情報を得ていた。


 〝聴剣〟


 剣を合わせる度に情報を引き出していく彼女の次なる能力は、盟約剣たる影剣によってその精度を強化されている。そうして把握された三女の身体能力、魔力は驚異的なものだったが、予測の範囲を超えるものでは無い。だが、逆にその事が彼女を不安にした。


 黒の次女……盟約剣の主から聞いた話では、黒の長女は人智を超えた存在の筈、三女は兎も角、彼女がこんなに無防備に仕掛けてくるとは思えなかった。


「なにかあるよ!」


 追いついてきたズーパンチに警告を発した時、


「あら、バレちゃった?」


 三女が地面に黒刀を投擲すると、その地点を中心に地面が崩れると、真っ暗な穴が突然現れた。

 穴からの魔力を避ける間も無く、師弟が吸い込まれるのを、


「バイバーイ」


 からかう様に三女が見送る。と、次の瞬間にはその首に黒い紐が巻き付いていた。影剣とハードキィの心臓を結ぶ盟約の糸、存在を隠された糸が具現化すると、太い縄の様に変質して、締め付けて離れない。


 不意打ちに引っ張られて、穴の発する強力な吸引に巻き込まれた三女は、先行する師弟共々真っ暗な穴に消えて行った。

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