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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
102/128

精霊の樹に注ぐ聖水の冷たさ

 大至急集められた魔法使い達の後ろで、ズクとアンジーが機を伺う。

 目当ての双頭レッサーデーモンは、押し寄せる騎兵隊の相手に忙しく、幸いにもこちらに意識を向ける余裕は無さそうだった。

 だが、その巨体が振り回す黒戦斧は、一振り毎に確実に人間側の兵士を屠っており、時間的、そして人的な余裕は刻々と無くなっていく。

 手をこまねいている暇は無い、軽い打ち合わせを済ませた一同は、ズキの突進と共に作戦を決行した。


 騎兵隊が駆け抜けた瞬間、アンジーの指示の元、目障りな周囲のレッサーデーモン達を遠距離からの聖水付き矢の掃射で仕留める。

 そうしてできたスペースを活かして、双頭レッサーデーモンに駆け寄ったズキは、消費した魔力を補うかの様に、右手に短剣、左手に火龍牙を構えて、肉弾戦を挑んだ。


 2m50cmはあろうかという双頭レッサーデーモンと、1m80cmほどのズキは大人と子供程の体格差がある。更に、近づいた苦悶の盾には常に呪詛の残響を発して、精神に揺さぶりをかけて来た。

 魔力も集中力も切れかけのズキは、歯を噛み締めて敵の前に体を晒す。黒戦斧の一撃は一発でも食らうと、即あの世行きの威力を持っていたが、紙一重で致死の一撃を避けると、懐に飛び込んで右手の短剣を突き出した。

 それに合わせて、双頭は横殴りに苦悶の盾を振るって来た為、体ごと左に飛び避けると、足元に爆炎魔具をばら撒く。


 ズキを追うことに夢中でこちらに背中を向けた双頭レッサーデーモンに対して、ズクが手下に号令をかけると、一斉に魔法を放射させる。火、風、土など属性もバラバラな魔法は、しかし一点に集中する事で大きなダメージをもたらす筈だった。


 双頭はそれに対して俊敏に振り向くと、苦悶の盾を合わせてくる。そしてまたしても無数にある口が、魔力を吸引して無効化してしまった。と同時に魔力の蓄積された苦悶の盾が、一斉に呪詛の合唱を唱えだす。その時、


「撃て!」


 アンジーの号令と共に、ズクの極太雷撃魔法が、ズキの爆炎トラップが、アンジーの聖水瓶が重なる様に放たれると、苦悶の盾と激突して火花と共に双頭レッサーデーモンの腕から弾き飛ばす。


 アンジーの『苦悶の盾は呪詛の波動を発している最中、魔力の吸引を行えない』という洞察は見事に的中した。そしてズキが単身特攻したのには訳がある。もし失敗して、再度呪詛の波動が放射された時、周囲に人が少ない方が良いという事と、成功した場合、苦悶の盾が機能しないであろうこの瞬間に、全ての弓矢を集中させる事が出来るという事ーー


 アンジーの号令を聞いた弓隊が一斉に聖水付きの矢を放つと、煙に包まれた双頭は、ハリネズミの様に体を貫かれる。咄嗟に屈もうとした所に、ズキのバーストが下顎に決まると、最後は弩の太矢で二つの頭蓋骨を砕かれて転倒した。


「やったぞ!」


 騎兵隊の先頭を行くイゼルが右手を掲げてランスを高々と振りかざす。そしてレッサーデーモンの湧き出す源泉となっている禍根の塔へと突撃を敢行すると、それに続く騎兵隊が剣の先端の様に戦場を切り裂いた。側では口に魔力を貯めたレッサーデーモンが熱線を放とうと身構えていたが、アンジーの指示で封印魔具が発動すると、放射される前に魔力を封じられる。


 完全に戦場を圧倒した人間側は、バラバラになったレッサーデーモンを各個撃破すると、時間をかけずに全滅させる事に成功した。




「これで良し!」


 結界魔具を、折れた禍根の塔の根元に仕込んだズクは、核たる魔石に呪文を唱えると、過度な魔力を放出させる。溶解せんばかりに加熱した高価な魔具は、自壊と共に巨大な封印の力を発現させて、禍根の塔の一つを完全に封じ込んだ。


「これでこちら側の仕事は済んだ、後は内部の皆の頑張り次第だな」


 ズクの言葉に、疲労困ぱいのズキは、瓦礫に腰掛けると煙草を取り出す。そしてパイプに詰め、火を付けようとして、己の魔力が尽きている事に気付いた。


「お疲れさん」


 横から差し出された人差し指から、種火ほどの火が落とされる。赤々と火のついたパイプを吸って、長く吐き出したズキは、


「全く、兄貴は人使いが荒いからな〜」


 半笑いで火をくれた兄を見上げると、パイプを渡した。受け取ったパイプを吸いながら遠望するズクの前には、いまだに消えぬ奥側の魔法陣が、視界を遮断して不気味な存在感を醸し出している。


「これは一筋縄じゃいかないな」


 改めて事の深刻さを噛み締めたズクに、


「まあ、俺たちにはまだまだホットな戦力があるから大丈夫だ」


 からかう様に指差す先には、甲斐甲斐しくアンジーの傷の手当てをするイゼルの姿があった。暫くして、


「イゼルちゃ〜ん、こっちの方が重傷なんだけど〜」


 大袈裟に足を引き摺って近づくズキに、


「ズキさん! あなたの傷口は腕ですよ!」


 からかわれた事を知ったイゼルがその足を叩く。


『まあ、この分なら少し休めば大丈夫だな』


 それを傍観する〝酷使〟のズクは、目を細めて見えない迷宮内を見据えた。







 迷宮内の禍根の塔の根本、迷宮城の方向に少しずれた場所に立つ大木を見上げて、種を植えた本人であるイザさえも、ポカンと口を開けていた。

 その周囲では彼の仲間やズミーレ達が同じ様にポカンと口を開けて百メートル程に成長した木を見上げている。


「なんだ? この木は」


 イザが精霊の種を、肉水と共に黒溶岩の土壌に植え付けてから、十分も経っていない。そこからの驚異的な木の成長に目を剥いたラヴィが思わず呟いた。こんな現象は初見である。これにはイザの草魔法を見慣れた彼女も度肝を抜かれた。


「これは浮島を作り出した木精の核、それが元になった精霊の種です。魔の力を吸い取る事に特化した核だけに、魔法陣の魔力を吸い取って急成長しましたね」


 スイの説明を念話で聞いたイザがスラスラと解説する。それを聞いた女教授が興味深そうに木に近づいた。


「あぶない! 木に触れない様に、魔の力を吸って元の魔性に近づいてますから、何が起こるか分かりませんよ」


 禍根の塔から立ち昇る魔力は今や薄くなり、消えかけて見える。その分メキメキと太さを増し、成長する精霊の木の先端は、魔法陣が作り出す天井を突いていた。


「これで魔法陣に穴があくのか?」


 バラシが聞くのを、


「いや、どうやらこれだけでは足りない様だな、上には成長著しいが、地下の根っこは城まで届いていない様だ。やはり城の周辺は結界の防備も一段と強いらしい」


 メイジダガーで探知していたズミーレが、渋い顔付きで答える。確かに根っこは城壁に阻まれて、線を引いた様にピッタリ成長が止まっていた。



『何かを忘れている気がするんだ』


 イザの念話に、心当たりのあるスイは、忌々しげに、


『あの女が渡した瓶、あれでしょ』


 確信を告げた。


「そうだ! 聖水だ! ミストに渡された聖水があった!」


 飛び上がるイザに周囲の視線が集まる。その右手には、草盾の服を操作して、腰元から取り出した聖水の瓶が収まっていた。その深い碧色が余計に冷たさを強調する。


『どうすれば良いと思う?』


 イザの問いに、


『植物に水って言えば根っこにかけるしかないでしょ? 葉っぱなんて遥か上空だし』


 呆れたように突き放すのを半ば無視して、瓶の蓋を外すと、精霊の木の根に振りかける。すると、ふりかけた先から光の粒子が漂い出して、精霊の木全体が輝き出した。その光は木の先端に集まり、一段と輝きを増す。


 驚く一同の見守る中で、先端に大きな蕾が芽吹くと、真っ赤な大輪の花が一つだけ、遥か上空に咲いた。それと同時に天井を形成していた魔法陣の極が一つ掻き消える。


 そしてメイジダガーで探知作業を続けていたズミーレが、


「これは……イザ君も探知してくれ、私の感覚ではこの花から地下根塊に向かってパイプ状のトンネルが出来ているんだが」


 と驚きと共に告げる。それを聞いたイザの水分探知にも同様のトンネルが認識された。更に根っこの先端は城壁の結界を突き破って内部まで続いている。


『なんとかここから入れる様に出来る?』


 そのイザの願いに、己の下腹部が光ると、精霊の木と同期したスイの強い思念が映像として送られてきた。その少し後で、イメージと同じ様に精霊の木の根元が隆起すると、ポッカリと洞窟状に穴が空く。


 中に入ったイザが、手招きを送って先に進むと、仲間達も恐る恐る後に続いた。最後になったバラシは、手頃な瓦礫で矢印を作ると、


「頼むぜ援軍! 先に行っとくからよ」


 まだ見ぬ後続に声を掛けて、精霊の木の洞窟へと入って行った。

長兄〝懐刀〟のズカ、次兄〝酷使〟のズク、末弟〝悪火〟のズキ。

体力=ズキ>ズカ>ズク

魔力=ズク>ズカ>ズキ

本当の兄弟では無く、ダグラスに拾われた義兄弟という設定です。教育係はズカ=ハードキィ、その他はまた別という関係。

最初の方に名前をチラリと出しただけなので、イキナリ誰? ってなってないと良いな(^◇^;)

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