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鉄パイプの魔法使い  作者: パン×クロックス
最終章 生存都市ノ夜明ケ
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百話達成記念閑話 〜鉄パイプの魔法使い〜

鉄パイプの魔法使い、最初に考えていた雰囲気を文章化しました。今とは大分雰囲気が違いますね。

 酒場のドアを開けると、煙草の煙の向こうに男達の喧騒が聞こえてくる。一歩踏み込むと、建て付けの悪い木の床がギイギイと悲鳴を上げた。


 夕暮れ時にも関わらず、随分と沢山の客が居る。とは言ってもL字カウンターとテーブル席が三つだけの狭い店の話。そこは薄暗く、酒と煙草と汗の入り混じった、何とも言えない据えた臭いが充満していた。


 遺跡都市ダリンの郊外にある場末の酒場には、近場で発掘を終えたばかりの遺跡ハンター達が一日の労を癒しに、または仕事前の景気付けに一杯ひっかけに集まっていた。

 時に獣臭のする彼らの腰には、使い慣れた剣や鈍器が提げられており、中には巻き上げ式のクロスボウや、見慣れぬ素材でできた鞭を束ねている者も居る。


 俺はジロリと周囲を見回してから、カウンターに向かってゆっくりと歩を進めると、空いたスペースのイスを引いた。


「おいおい、見かけない顔らな〜、俺様に挨拶なしかよ」


 隣の酔客がトロンと焦点の合わぬ目で絡んできた、酒臭い息を漂わせながら、顔を近づけて来る。その声の感じからするとまだ若そうだ。


 不快な先客に何の反応も示さずに、


「エール」


 銀貨をつまんでカウンターに置くと、亭主が無言でそれを受け取った。


「なんだテメ〜、しゃべれねぇのか? ああ〜?」


 へべれけの客がしなだれかかるのを、スッと肩を回して避けると、勝手に足を滑らせて、盛大に転倒する。その際に腰に吊るした短剣が鞘から抜け落ちて、派手な音を立てて転がった。


『全く、武器位はしっかり保持しておかないと』


 余りの不用心さに呆れつつ見下す俺に、


「なにしやがるんでぃ!」


 倒れた若者が声を荒げると、一つのテーブルで飲んでいた客達が一斉に立ち上がる。その隣のテーブルで飲む客達は、何か始まるという期待の目で、動向を伺っていた。


「よう兄ちゃん、そこにおわすお方はな、うちの坊ちゃん、つまりメニニボラ2世組組長のご子息、メニニボラ3世様なるぞ!」


 立ち上がった男達の内、一番の貫禄を漂わせる中年の男ががなり立てる。メニニボラという難読氏名を間違いなく発音するあたり、かなり言い慣れたセリフなのだろう。それにしても取って付けたような「なるぞ」発言。そう思うと何だか可笑しくなって、くすりと笑ってしまった。


「なに笑ってやがんだ! ぶっ殺すぞオラ」


 それを見て、威勢の良い若手がこちらにつっかかって来る。その手には両刃の短剣が握られていた。

 俺はそいつに正対すると、じっくり観察する。頭は悪そうだが、動きは中々隙が無い。多分遺跡ハンター組織の末端構成員だろう。


 男は問答無用で切りかかってきた。体ごと腰溜めに飛び込んで来たそいつが、こちらを刃圏に捉える前に、俺は隠した鉄パイプを右袖から振り出す。


 そのまま思い切り繰り出した鉄パイプが、男のみぞおちに突き込まれると、咄嗟に避けた男の右胸を打つ。

 分厚い胸筋を断裂しながらめり込んだ鉄パイプに押されて、少し怯んだ男の左こめかみを返す刀で強か打って、若手を跪かせた。


 その段になると、後ろに控える男達の目の色も変わる。遺跡発掘後なのであろう、各々得物を構えて油断なく間合いを詰めてきた。

 ザッと見、鉄杭で補強された棍棒を構える男が二人、腰から優美な細工を凝らしたブロード・ソードを抜く男が一人、貫禄のある親父は棒状ワンドを構えながら後列に控えている。たぶん魔法使いってところか?


 その魔法使いの命令で、棍棒コンビが突撃してくる。左右に迫る男達が棍棒を振りかぶって走り寄って来た。分かり易いその軌道に、


『まじかよ』


 と呆れながら左にずれる。ちょうど左手の男の真っ正面に来た俺に、


「オラッ!」


 と叫びながら大振りの一撃をみまうのを屈んで躱すと、鉄パイプの角で男の足指を痛打した。


「ぎゃっ!」


 と叫んだ男は転がりながら店の壁に派手にぶつかる。それに構わず、右手の男が上から振り下ろしてくる棍棒を今度は後退しながら躱すと、後方に控えた魔法使いが火魔法を射出した。

 俺は咄嗟に鉄パイプを向けると、大雑把な照準で水魔法を放つ。噴射する水の先端を刃状に硬化させた〝刃水〟は、男の放った火魔法を切り裂き、そのまま胸の真ん中に突き刺さった。


 〝シュッ!〟


 いつの間にか駆け寄って来た剣使いの胴一撃に、鉄パイプを合わせていなすと、棍棒コンビの片割れが後頭部に突きを放ってくる。

 それを転倒する事で躱した俺は、真下から剣使いの股間を刃水で貫いた。


 天井まで噴き上げた刃水と血が重力に引かれて落涙すると、絶叫を上げた男が後頭部から倒れこむ。その間に呆気に取られて傍観する棍棒男の手首を打ち砕き、屈み込んだ男の鼻下に鉄パイプの角を食らわせて昏倒させた。


 最初に絡んで来た男が、ガクガクと震えながらイスの後ろに隠れようとする。その方へ足を向けると、


「まて! まってくれ! 俺の親父はメニニボラ二世だぞ! だから、つ、つまり金持ちだって事だ!金なら幾らでもやるぞ、い、幾ら欲しいんだ」


 口から泡を飛ばしながら早口にまくし立てる。その目の前まで歩み寄ると、


「つまりお前がメニニボラ三世だろ?」


 見下ろした男がブンブンと首を振るのを見て、


「丁度良かった、お前に用があるんだ、マルケスさんの件でね」


 その言葉を聞いて、男の顔面から血の気が引く。マルケスとは数日前に遺跡内で謎の死を遂げたベテランハンターだった。新人教育を生業とする彼は、通い慣れた遺跡で、何故か丸裸で発見されている。


「おっ、俺は知らない! そんな奴知らないぞ!」


 焦る男に手をかざすと、袖口から鉄木の枝がスルスルと伸びる。


「そうか、それならそう言えばいい、だが相手は俺じゃない、悪火のズキがマルケスの知り合いでな、是非一連の顛末をお前から聞きたいとの事だ」


 この街を取り仕切る暗黒街のボス、悪夢のズキ、ズカ兄弟の名前を聞いて縮み上がる男に、鉄木の手錠を嵌めると力に物を言わせて立ち上がらせた。


「今日はこいつらの奢りだ! 財布の中身はお前らの好きにしな!」


 俺の宣言に歓声を上げて、床に這いつくばる男達の身包みを剥いでいく客達。それを取り仕切るバーテンの怒声を背後に聞きながら、最初に頼んだエールを飲み干すと、虜囚を引っ立てて外に出た。



ーーENDーー

百話を超えて、長くなり過ぎましたが、なんとか完結に向けて頑張りますので、宜しければあと少しお付き合いくださいませ。

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