酒宴のあと
酒宴は果てしなく続いた。ある者は戦友を偲び、また、ある者は武勇を誇り、飲めや歌えや、ルール無用の宴はクレージーの度を深めてゆく。
隻眼の黒龍は、「真のアルコール大王決定選手権」とかで、巨人の大酒豪と飲み比べを始め、闇夜のように黒い肌も、この時ばかりはほんのりと赤く染まっていた。この調子では、今日中の出発は絶望的だろう。
でも、そういうことなら、
「わたしも少しだけ、いただきます」
わたしは、「少しだけ」とは言いながら、杯から溢れんばかりに酒を注いでもらい、一気に飲み干した。飲みやすく、フルーティーな味と香り。調子に乗って飲みすぎると次の日に地獄を見ることは経験済みだ。
というわけで、結果……
次の日は二日酔いで、動ける状態ではなかった。
「はっはっはっ、無茶をするのは若い者の特権じゃが、ほどほどにすることじゃな」
前ツンドラ候はわたしの傍らに立って笑っている。
「マスター、大丈夫?」
隻眼の黒龍はわたしに顔を向けた。よく見ると、わたしは隻眼の黒龍の体にもたれかかり、胸から下には毛布を掛けられていた。
「あなたは…… 元気ね……」
なんだか、声を出すのがやっとという状態。
「『真のアルコール大王』だからね。あれくらいでは、まだまだ」
隻眼の黒龍は上機嫌に言った。周囲を見渡すと、幾人もの巨人が苦しそうに巨体を横たえている。飲み比べは隻眼の黒龍の勝利に終わったようだ。
「前ツンドラ候、ピョートル・ミハイロビッチさんから、御落胤のことを聞いたけど、どうしよう。これから行くのか、それとも、しばらく休むのか」
「決まってるでしょ……」
その日は、結局、隻眼の黒龍を枕にダウンして過ごすことになった。
そして、その翌日、
「もう行くのか。残念じゃのう。クルグールスク村では村を挙げての祝勝会が待っておるのに……」
前ツンドラ候は、本当に残念そうに言った。戦場での酒宴に続き、それぞれの地元では、戦勝報告及び祝勝が催されるとのこと。巨人たちは帰り支度を整え、次々と帰途についている。
「仕事なら仕方がないが、適当に頑張ることじゃな。それはそれとして、あのバカ息子のことを頼むぞ」
「は、はい……?」
なんだか妙な物言いだけど、とりあえずは聞かなかったことにしよう。
こうして、わたしはようやく隻眼の黒龍に乗り、ブラックシャドウの追跡を開始するのだった。




