ホフマン散る
隻眼の黒龍は音もなく、空中から武装盗賊団の背後に忍び寄った。地上を見下ろすと、ホフマンは武装盗賊団に取り囲まれ、既にタコ殴り状態。昔から、「敵を知り己を知れば百戦するも危うからず」と言うけど、ホフマンの場合、敵のことも己のこともよく分かっていなかったらしい。今まで生き残ってこられたのは、余程運がよかったか、自分より弱そうな相手を選んで戦ってきたかだろう。
「うぐ! ぐっ!! ぐわぁ~~!!!」
見ているうちに、ホフマンは、全身に何本もの剣を突き立てられ、果てた。
プチドラは頭をわたしに向け、
「マスター、そろそろ攻撃に移るよ。しっかりつかまってて」
「たのむわ。とにかく派手に引っ掻き回すのよ」
隻眼の黒龍は、一旦上昇したあと、急降下。武装盗賊団の後方から猛烈な火炎を浴びせかけた。これにはさすがの武装盗賊団もビックリ。予想外の不意打ちとなったため、どうしてよいか分からず、ただ右往左往するばかり。
隻眼の黒龍の参戦により、流れは一気に巨人側に傾いた。武装盗賊団は、機動力に特化した騎兵ばかり。個々の高い戦闘能力を活かして歩兵相手の近接戦闘には対応できるとしても、空からの攻撃に対しては、有効な反撃手段を持ち合わせていなかった。
「ダメです! 戦況は非常に不利です!!」
「何を弱気なことを! がんばれ、ここは気合だ!!」
「はい、気合いを入れます! 気合……うっ、ううっ!! ぐぇぇ!!!」
「どうした!? その程度の攻撃に、ひるむんじゃない!!」
「しっ、しかし!」
武装盗賊団は、巨人の特大の武器に叩き潰されたり、隻眼の黒龍の火力で丸焼きにされたりで、有効な反撃行為に出ることができず、徐々にその兵力を減らしていく。
「これ以上の抵抗は無理です! 全滅します!!」
「むむむ…… 仕方がない。口惜しいが、撤退だぁ!」
「撤退! 全軍、撤退!!」
武装盗賊団は血路を切り開き、命からがら戦場を離脱していく。もはや、あの不気味なコーラスを歌う余裕はなかった(涙声でコーラスを歌って逃げ帰るというのも一興か、と思ったりもするが)。
こうして戦闘は終了。戦場には、巨人や武装盗賊団の死体が数多く横たわり、戦闘のすさまじさを物語っていた。
「お~~~い!!!」
不意に、地上から、わたしを呼ぶ声が聞こえた。地上では、巨人にしては背が低い人物が手を振っている。でも、巨人に混じってこんなところで大暴れしている人といえば、「ケンカが三度の飯より好きな」あの人以外には考えられない。




