港のはずれ
ブラックシャドウは立ち上がり、
「さあ、今度こそ本当に、御落胤捜しに出かけよう」
ホフマンは何も言わず、ブスっとした顔でうなずいた。でも、内心は、「コノヤロウ、いい加減にしやがれ」ではないだろうか。
プチドラは、わたしの耳元で、「やめようよ」と何度もささやいている。わたしも、今度は本当にパーティーを解消したい気分。
「こっちだ。港まで乗ってきたものとは別の荷馬車を用意してある」
と、ブラックシャドウは歩き出した。なかなか用意周到。武装盗賊団が港に戻ったとき、乗ってきた荷馬車がなくなっていれば、細工を見破られるかもしれない。
ホフマンは、納得した顔ではないが、それでもブラックシャドウに続いた。いわゆる「乗りかかった船」ということだろうか(「船」ではなく「荷馬車」ではあるが)。
さて、わたしはどうするか…… ブラックシャドウの言うことは、あまり信用できないにせよ、とりあえず彼についていかなければ、その御落胤情報が本当かどうかも分からない。プチドラは、あくまでも反対意見のようだ。難しい顔をして首を横に振り、ダメダメのサインをしている。
でも、ここはひとつギャンブル、「虎穴に入らずんば虎子を得ず」の精神でもって、わたしはブラックシャドウを追った。
ブラックシャドウに連れてこられたのは、港のはずれだった。ゴミや廃材が無造作に積み上げられている。荷馬車は、そのゴミの山の横に停まっていた。
そして、荷馬車の脇には、全身黒ずくめの男が立っている。確か、クラーケンの宿でブラックシャドウと何やらヒソヒソとやりとりをしていた男だ。
「あの黒いのは、一体、何者?」
「私の協力者だ。主に情報収集を担当してもらっている」
ブラックシャドウめ、この前は「『ソロ』で活動している」と言ってたのに…… ただ理屈を言えば、その「協力者」とは別行動ということであれば、一応、ウソはついていないことになる。でも、役人の答弁ではあるまいし……
ブラックシャドウは「よぉ」と右手を上げ、黒ずくめの男に近づいた。
「ありがとう、助かったよ」
「いえ、このくらいならね。では、私はこれにて」
用が済んだのだろう。黒ずくめの男はわたしたちに背を向けると、矢のように素早く、走り去っていった。
ブラックシャドウは御者台に座ると、
「乗ってくれ。こんなところでグズグズしていても仕方がない」
ホフマンとわたしが乗り込むと、荷馬車は静かに動き出した。今度こそ本当に御落胤にめぐり合うことができるのだろうか。荷台から陰鬱な空を見上げていると、とてもそんな気がしないけど……




