何が本当の話か
「もうそろそろ、話してくれてもよかろう」
ホフマンの話しぶりは穏やかだけど、ブラックシャドウに振り回されて、かなり頭にきている様子。でも、ブラックシャドウは全く動じるそぶりもない。
「ああ、そうだな。ヤツらが船出してくれた今なら、多少は余裕もある」
ブラックシャドウは倉庫の中の荷物の上にドッカリと腰を下ろすと、落ち着いた調子で喋り始めた。
「今まで黙っていて悪かったが、すべてヤツらを欺くための策略だったのだ」
「策略だと? ということは、つまり、わしらをダシにしたということか?」
ホフマンは気色ばんで言った。
ブラックシャドウは、「まあまあ」とホフマンをなだめながら、
「悪かったと思う。しかし、『敵を欺くには、まず味方から』という教えもあるだろう。私がヤツら武装盗賊団に追われていたことは既に知っていると思うが、御落胤探しの間、ヤツらに邪魔されたくないという一心でね、要するに、ヤツらの目をそらせるためのことだったのさ」
ブラックシャドウは、(傍から見ていると嫌味にしか映らないが)会心の笑みを浮かべながら、事の顛末を話し始めた。
彼が言うには、「自分は、とある事情で(もうバレてるけど)、武装盗賊団から追われているが、御落胤を探している最中にヤツらの目を気にしなければならないのは面倒なので、しばらくの間、武装盗賊団を自分から離し、遠ざけるための策を講じた」とのこと。すなわち、「自分が海賊のいる島に向かえば、武装盗賊団も後を追ってくることは明らかなので、そのように見せかけた」らしい。御落胤が海賊に捕らわれたという話は、実は、真っ赤な嘘、ブラックシャドウの創作で、完全なでっち上げとのこと。
ブラックシャドウはニヤリとわたしを見ながら、
「ふふふ、『ブラックシャドウ』と『ブラックウィドウ』か…… あなたの演技がヤツらにバレていたのは、なんとなく分かっていた。その翌日、連中は、クラーケンの宿の1階で冒険者に紛れて、スパイ活動をしていたようだから、それを逆に利用させてもらった。その意味では、感謝しなければならないかな?」
なんだかバカにされているような、ちょっぴり複雑な気分……
「しかし、ヤツらも馬鹿ではない。しばらくの間はごまかせたとしても、いずれ見破られるだろう。ヤツらがこの細工を見破り、追跡を再開するまでに、こちらの仕事を済ませてしまおう」
「仕事を済ませるって? 『御落胤情報は嘘だった』と言ったばかりじゃないの」
「今度は、本当の御落胤情報だ。私はフリーのエージェントでね。私独自の情報網によれば、御落胤は、北の大河の畔の小さな村でひっそりと生活しているらしい。だから、これからそちらに向かおうと思ってね」
なんだか…… 何が本当の話なのか、分からなくなってきた。




