海賊退治に出発
テーブルに戻ると、わたしの朝食が運ばれてきた。朝食は、パンとハムに野菜が少々という、ありきたりのもの。
ブラックシャドウは、おもむろに懐から地図を取り出して机の上に置き、
「既に伝えたとおりだが、我々のターゲットは、今、この島に監禁されている」
と、地図上の小さい島を示した。
ターゲットとは、もちろん御落胤のこと。食堂には、わたしたちのほかにも数人の冒険者がいるので、情報が漏れないための用心だろう。
「つまり、今回はターゲットを捕獲するついでに……」
ここまで言うと、ブラックシャドウはなぜか立ち上がり、机をドンと叩いて、
「この町の人々に乱暴狼藉を働く海賊どもを皆殺しにし、懸賞金の金貨1万枚をいただくのだ!」
にわかに声を大にして言った。周りにいる冒険者は、口を押さえて笑い声を漏らしたり、あからさまに侮蔑するような目を向けたりしている。これではとんだ道化だが、ブラックシャドウはこの結果に満足したのか、口元に薄笑いを浮かべている。一体、何を考えているのやら……
ホフマンは腕を組み、ウンウンと何度かうなずき、
「わしに異存はない。大変困難な仕事じゃが、それでこそ武人の本懐というもの」
わたしには、大いに異存があるが……
ただ、行きがかり上、今更パーティーから離脱するわけにはいかないだろう。プチドラはわたしの服を引っ張り、しきりに何かを言いたそうにしているけど、今回は仕方がない。
「決まりだな。では、『善は急げ』だ。速攻で片付けよう」
ブラックシャドウは、ニヤリとして言った。
食事が終わると、わたしたちはそれぞれ自室に戻り、荷物をまとめた。そして、1階の食堂に再び集合。例によって、わたしは伝説のエルブンボウや貴重品が入った風呂敷包みを、ブラックシャドウとホフマンはコンパクトなバックパックを背負っている。
オヤジ(宿のオーナー)は、カウンターから身を乗り出し、
「本当に行くのかい。まあ、命は大切にすることだな」
「心配は無用だ。成算のない話ではない」
そして、ブラックシャドウはオヤジに顔を近づけ、
「海賊の財宝を分捕ることができたら、あなたの子供たちにも少し分けてやろう。楽しみに待ってるがいい」
「冗談はやめてくれ」
オヤジはぶっきらぼうに言うと、カウンターの奥に引っ込んでしまった。
こうして、なんだかわけの分からないうちに、海賊退治をすることになってしまった。本当に成算があるのだろうか。それに、海賊退治なら、何もわたしたちでなくたってよさそうなものだが……




