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ザ☆旅行記Ⅶ 奇貨おくべし  作者: 小宮登志子
第6章 フロスト・トロールの住処
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ブラックシャドウの「職業」

 わたしたちは月明かりの下、地獄谷へと続く坂を下った。荷馬車は元のところにつないだまま。音を立てれば、フロスト・トロールを起こしてしまうかもしれない。集落の入り口では、威嚇するように、頭蓋骨がうず高く積み上げられている。

ブラックシャドウは、一旦、歩みを止め、

「さて、これからフロスト・トロールを皆殺しにかかるわけだが……」

 そして、周囲に注意深く目をやりながら、声を小さくして、

「ここはひとつ、私に任せてもらえないだろうか」

 するとホフマンは、不服そうに顔をしかめた(声は出さなかったが)。

 ブラックシャドウは構わず言葉を続け、

「いや、何も、あなた方の能力を信頼していないという意味ではない。もともと、このような『卑劣な』手段は私の専門分野なのでね。専門的な仕事、くだけた言葉で言えば、ここでは『暗殺』を意味するが、こういったことは専門家に任せていただきたいのだ」

 ブラックシャドウの「職業」はシーフかアサシンのようだ(いずれにせよ、ロクな者ではない)。泥臭い仕事が嫌いなわたしにとっては願ってもない申し出だけど、「真の強さを求める」ホフマンの場合は、事情が違うらしい。

「いや、パーティーに誘ってもらったからには、それ相応の働きをしなければならぬと心得ているつもりだ。貴殿の考えも分からぬではないが、我輩としては……」

 ホフマンはブラックシャドウに食ってかかった。思うところがあるのか、「どんな理屈でも構わないが、ここではとにかく相手を言い負かさなければ気が済まない」みたいな……

 でも、わたし的には、ブラックシャドウの言い分に賛同したい気分。素人が下手に手を出して暗殺に失敗すれば、反撃を受けて悲惨な結果が待っているだろう。

 結局、最後にはホフマンが折れ、暗殺はブラックシャドウに「お任せ」となった。

 ブラックシャドウはショートソードに毒を塗ると、

「では、行ってくる。一応、自分では『玄人』のつもりだけど、もし、何かあった時には、フォローを頼む」

 と、身を低くし、足音を立てることなく、ただ1人、フロスト・トロールの住処に向かった。


「あやつめ…… 理に適ってはいるが、気に入らんな」

 ホフマンは、あご鬚を撫でながら、ポツリとつぶやいた。

 わたしは適当に調子を合わせ、

「わたしも、そう思います」

「そうかね。やはり、あんたも……」

 珍しくホフマンが相槌を打った。内心ではブラックシャドウのことをよく思っていないようだ。

「でも、この話は、これまでにしよう。本人のいないところで非難をしてはならぬ」

 ホフマンは口惜しそうに、ため息をついた。見ていると、可哀相な感じもしないではない。ホフマンに活躍の場を作ってやることができれば、ホフマンと仲良くなれるという意味では、わたしにもプラスになりそうだが……

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