情報提供料
わたしは手早く着替えを済ませ、プチドラを抱いて階段を下りた。朝といっても、かなり遅いせいか、1階の食堂では人がまばらだった。既に多くの宿泊客はチェックアウトしているようだ。怪しげなギミック(=ブラックシャドウ)の姿も見えない。わたしとパーティを組むことはあきらめて、1人で出かけたのだろうか。
わたしは適当に席に着き、モーニングセットを注文した。
プチドラは、テーブルの上で軽くストレッチをしながら、
「マスター、これからどうするの? 闇雲に探し回っても仕方がないと思うけど」
「そうね。まず、捜査の鉄則を踏まえましょう。え~っと、クル……スク村……だっけ?」
「クルグールスク村」
「そうそう、それ。とりあえず、一度、行ってみましょう。何か手がかりがつかめると思うわ。現場百回、もちろん、百回も行くことはないと思うけどね」
「どうかな。反対はしないけど、お金を出せば、この店でも情報が手に入るみたいだし……」
「もちろん、それは前提よ。情報を収集してからね。多少の出費なら構わないわ」
食事を終え、わたしはカウンター横の大きなボードのところまで足を運んだ。ボードには、一面に、仕事の依頼や情報の提供に関する貼り紙がされている。あまり整理されているとは言えず、御落胤関係の情報を探すのにも骨が折れた。それでもどうにか、「御落胤の噂に関する情報売ります」との貼り紙を、いくつか見つけた。
ところが……
「げっ!」
その内容を見てビックリ、わたしは息を飲んだ。プチドラは、わたしの肩越しに貼り紙をのぞきこみ、
「う~ん、ちょっぴり高いような気がするなあ。でも、HOTな話題だから、このくらいは取られるかもね」
情報には、どれも金貨100枚以上の値が付けられていた。
「マスター、どうするの? 買う??」
「やっぱり、やめる……」
わたしはプチドラを抱き、2階に上がった。帝国宰相から受け取った必要経費は、金貨500枚。多少の出費なら構わないと思ったけれど、1つの情報を手に入れるために金貨100枚以上を費やしていては、あっという間に資金が尽きてしまう。御落胤を帝都に連れて帰ることが義務付けられているわけではないし、今回は購入を見送ることにしよう。
わたしは荷物をまとめて風呂敷包みにしまいこんだ。1階に下りてカギを返し、宿を出ると、丁度、昨日の少女がメイド服姿で店先の掃除をしているところだった。
少女は丁寧にお辞儀して、
「おはようございます。お気をつけて」
「うん、ありがとう。そのうち、また来るわ」
わたしは手を振って少女と別れた。さあ、行き先は、とりあえずクル……なんだっけ……ナントカ村……




