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ザ☆旅行記Ⅶ 奇貨おくべし  作者: 小宮登志子
第2章 御落胤クエスト
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交渉妥結

 話し合いは、細部の詰めを巡って、その後もしばらく続いた。マーチャント商会会長は、「アーサー・ドーン及びG&Pブラザーズ株式会社と同一の条件で取引をしたい」と主張したが、それでは形式論理的に「宝石の独占販売権」を両社に与えることになり、こちらは自動的に債務不履行となる(なので呑めない)。このような「頭の体操」のような議論を経た後、結局、マーチャント商会とは、「宝石の独占販売契約」が付かない継続的取引契約を締結することとなった。交易品の価格設定は、アーサー・ドーン及びG&Pブラザーズ株式会社の例によって決定することとし、さらに、契約が一方の責に帰す事由により解除されない限り、「相互不可侵」を約束する。ちなみに、この場合、アーサー・ドーン及びG&Pブラザーズ株式会社に対しては債務不履行だけど、そちらの方は、どうにでもなるだろう。

 契約書への調印が終わると、帝国宰相はホッと胸をなぜ下ろし、

「まったく、スローターハウス、貴様という男は…… 戯れも程々にしてもらいたいものじゃ」

「宰相への義理は、しっかりと果しているつもりですよ」

 戯れだったのか? 帝国宰相とマーチャント商会会長の間で、事前にどんな話になってたのか知らないが、最終的には、筋書きと同じようなところで落ち着いたのだろう(想像だけど)。


 懸案がようやく片付いたので、帝国宰相の音頭で改めて乾杯。緊張感が解けたせいか、宰相は、何杯も続けて酒を一気飲みしながら、

「いやぁ~、我々3人が力を合わせれば、この世の中で不可能なことなどない」

 珍しいこともあるもので、顔を赤くして、いつになく饒舌になっている。

 一方、マーチャント商会会長ルイス・エドモンド・スローターハウスは、飲んでいないわけではなさそうだけど、まったく表情を変えない。のみならず、このような場でも商売の話は忘れず、

「ところで、ドラゴニア候討伐の戦費を一部負担していますが、それは確実に返済いただけるのでしょうね」

「心配は要らぬ。ドラゴニア候の領地、爵位、個人財産、その他諸々に先取特権を与えたではないか」

「確かに頂戴しております。しかし、それは戦いの結果によっては、どうですかね? 我々としましては、確実に債権を回収できる見込みが立たないことには、出資者への責任も果せないわけでして、結果如何にかかわらず、戦後、ドラゴニア候領における我々のフリーハンドを認めていただきたい」

「きっ、貴様という男は…… こんな時に……」

 帝国宰相は、一瞬、ドキッとしたようにも見えたが、

「分かった。好きにせい。しかし、戦後のことについては、わしは知らんぞ」

 と、あっさりとOK(と解釈してよいのだろう)を出してしまった。


 こうして、食事会は終わった。こちらとしては、損をすることなく安全を確保できたわけで万々歳だけど、それはそれとして、マーチャント商会のえげつない商法の一端を見せつけられ、少しビビッてたりもする。

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