暴風雪の中
サエナルト大陸。
エーンヤード大陸の北西に位置する大陸で、日本での呼称は第三大陸である。
この日、日本は、そのサエナルト大陸に位置する『ファリスター魔導王国』と接触するため、
エーンヤード大陸とサエナルト大陸の間にある大きな海「中央海」を抜けようとしていた。
なお、ファリスタ―魔導王国……というか、サエナルト大陸の文明レベルは中世ほどである。
ちなみに、地質学研究所の四人は仕事が終わったので地質学研究所に戻り、
エルラトもさらなる調査のため生物学研究所に送り返された。
***
~中央海・護衛艦「しなの」艦橋~
「さむっ。どんどん温度下がってない?」
「外の気温はー……-40℃ですね」
「-40℃!? そりゃ寒いわけだ」
防寒着を着た木村と太田がそんなことを話していた。
護衛艦「しなの」は海自でも少ない砕氷艦である。
砕氷艦としてつくられた理由は、地球で急速な温度低下が確認され、氷河期の到来が予見されたからである。
「しなの」の周りにはほかの艦も多くいるが、そのすべてが砕氷艦だ。
「第三大陸に向かうにつれて温度が下がってる……到着するころには何度までさがってるんだろ?」
「-100℃まで行ったりして」
「そんなわけ――」
***
「クシュン! あ~……さむっ」
「げ、現在の外気温は-70℃……とんでもないですね」
「暖房ガンガンに効かせてもこの寒さだもんね……私寒がりだからなぁ」
そう言いながら、木村はどこからか取り出したカイロを手の上で転がしている。
「それ意味あります?」
「しらない。気休め程度のも――クシュン! のだよ」
「くしゃみした後に言葉をつづけんな」
「別にいいでしょ」
その時、「しなの」が大きく揺れた。
「どうした!?」
「何かとぶつかりました……あっ、船です! 小船です!」
「なに?」
見ると、「しなの」の船首部分につぶされた木製のボートがひっかかっている。
鋼板製の大型艦に木製のボートが勝てるわけがないだろう。
しかも、「しなの」は砕氷艦。船首部分は特殊な構造になっている上、硬い装甲に包まれているのだ。
ボートには数人の人がおり、意識を失っているようだ。
ボートは、どんどん海に沈んでいっている。
「この気温じゃ凍死しちゃうよ。はやく救助しなきゃ」
「そ、そうですね。内火艇下ろせー!」
***
~護衛艦「しなの」・医務室~
救助されたのは、三人の騎士らしき男性と、一人の少女であった。
全員が低体温症になっている上、手足の先は深刻な凍傷になっており、
このまま放置してたら手足が壊死し、切断することになってしまっていただろう。
気を失っているので、ベッドで安静にしている。
「……それにしても、なんでこんなところに人が」
ベッドで眠る四人を見ながら、木村はそうつぶやいた。
いつの間にか、重装型パワードアーマーを着用している。
「……司令。なんでパワードスーツを着ているんですか?」
「寒いから」
「寒いからって……確かに、一般的な防寒着と比べたら暖かいですけど……」
「じゃあいいじゃん」
「でも、艦内で戦闘用重装型パワードアーマー着てるのは違和感しかないですよ」
「それはたしかに」
彼女の着ているパワードアーマーは『RAD211』というタイプの重装型パワードアーマーだ。
元は極限作業用の作業パワードアーマーを戦闘用に転用したタイプで、
極限作業用がもとであるため他のタイプに比べて耐冷、耐熱に優れている。
しかし機動性や武装の幅を犠牲にしており、戦闘力は他のタイプに比べて低い。
そのため、自衛隊でも作業用として使われることがほとんどである。
自衛隊内での愛称は「ラッド」。型番の「RAD」からきているものだ。
その最低耐冷温度は約-200℃で、最高耐熱温度は約200℃である。
閑話休題。
***
~「しなの」格納庫~
「ツバキ、今の気温は?」
『外気温は-78℃、室内温度は-58℃です』
「外に出たら一瞬で凍死しそうだな」
格納庫では、内村とツバキがそのような会話をしていた。
格納庫は艦内でも寒い場所であるため、置かれている機器が凍結しないように整備しなければならないのだ。
「ツバキ、自己診断」
『了解……「信号ブースター」凍結。「小型データ保管庫」凍結、「機体温度調整機」凍結。交換してください』
「まぁツバキの最低耐冷温度は-20℃だしな……凍った部品が三つでよかった。整備モード」
『整備モードに移行します』
内村はツバキの背中にあるハッチを開き、内部の凍結した部品を取り外す。
艦内にいてもこうなのだから、外に出したら一瞬で機能停止してしまいそうである。
「はい、交換できたよ」
『ありがとうございます。……生体反応を確認! 何か近づいてきます』
「え?」
その時、シャッターをぶち破り、化け物が現れた。
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