大津波
~「しなの」艦橋~
「カッターがこっちに飛んできやがった!」
カッターは護衛艦「みかさ」のマストを切り裂き、
そのまま「しなの」後部に突き刺さった。
「なんで『しなの』ばっかり被害を受けるんですかね」
「知らないよ……ん?」
木村は沖の方を見ると、そうつぶやいた。
「どうしました?」
「何か見えたようなきがして……」
彼女は双眼鏡を覗き、沖の方を見る。
そして、一瞬固まった。
双眼鏡をおろし、彼女はつぶやく。
「なんでアレが……」
「ど、どういうことです……?」
「……総員、船倉に避難!」
「は!? 本当にどういうことですか!?」
太田が聞くと、木村は真っ青な顔で言った。
「……津波だ!」
「津波!?」
「ああ! 船倉に入れば、ここにいるよりは安全だろ!」
「た、確かに……」
「第一通信室! 津波が来る! 全艦に避難勧告を! 陸自にもだ!
まだ遠くだが、避難が少しでも遅れたら飲み込まれるぞ!」
そう言うと、彼女は通信機のマイクを投げ捨てる。
「さぁ、私たちも急ぐぞ!水密扉はしっかり閉めろ、浸水したら元も子もない!」
「了解!」
***
「津波だ! 急げ、間に合わなくなるぞ! 山に走れ!」
陸自部隊が山の上へと急ぐ。
一部の装備は放棄し、軽機動車やトラック、戦車など自走可能のものは走っていく。
「急げぇぇぇ!」
***
~「ラトエソタ」艦橋~
「な、なんだ、敵が逃げて行ってるぞ?」
「どういう事でしょう……って、あれは何だ!?」
戦闘員の一人がそういって、海の方を指さした。
見ると、「ラトエソタ」の数倍はあるだろう巨大な波が、轟音を響かせながら近づいてきている。
それは、あっという間に護衛隊群を飲み込んだ。
「な、なんだ、あれは……はっ! い、急いで逃げ—」
遅かった。
波は「ラトエソタ」を飲み込み、窓はいとも簡単に破壊される。
スラエットが最後に見たのは、
窓から流れ込んでくる大量の海水であった。
***
「いったい何メートルあるんだ、この津波……」
山の上で、腰を抜かした自衛隊員がつぶやく。
波は「ラトエソタ」を飲み込んでもその勢いを弱めず、そのまま山に衝突。
物凄い揺れと音、水しぶきが襲い掛かってきた。
幸い、自衛隊の避難していた場所は無事だったが、
そこより下は海に飲み込まれてしまっている。
「あ、あれを見ろ!」
みんなが呆然としていると、一人の隊員がそう言った。
見ると、海の中から何かが浮かんできている。
「もしかして……」
直後、水しぶきを上げ、護衛艦たちが浮かび上がってきた。
***
~「しなの」船倉~
「……収まったか?」
「みたいですね……」
「よし、外に出てみよう」
水密扉を開け、外に出る。
通路の明かりは消えているし、そこら中から水がしたたり落ちていた。
「なんで明かりが消えてるんでしょう」
「さぁ……機関室を見に行こう」
***
~「しなの」機関室~
「なんで艦内なのに浸水して……あ、あれか」
木村は天井に空いた穴を見て、納得したように言った。
この穴は、さきほどカッターが突き刺さった時にできたものである。
「発電機は……壊れてんな。だから明かりが消えてたんだ」
「まぁ、穴が開いてるせいで大分浸水したっぽいですしね」
「機関室でこれなら、艦橋はもっとひどそうだな……」
「ですね……」
***
ラトッサー争奪戦は、こうして終結したのである。
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