災害二日目 昼 ひいらぎ交差点と撫子川
~神水市・ひいらぎ交差点~
しばらく進み、終寒区に位置する交差点、ひいらぎ交差点までやってきた。
瑠奈ニュータウンや歌浜区と比べると、この辺りは比較的被害が少ない。
人も多く、カーディーラーやアパレル店で多くの人が休んでいた。
(のどが渇いた……絶対、さっきよりも気温上がってるよ)
時刻は正午を回っていた。
太陽はほぼ直上に浮かんでおり、一日の中で最も暑い時間帯である。
成美は汗で服が引っ付くことに不快感を覚えながら、自転車をこいだ。
「あ~……」
この交差点を北に行けば、神水中央駅前に出るはずだ。
最も、道が崩れたりしていたら遠回りしなくてはならないが。
「……雨だ!」
ぽつり、ぽつりと雨粒が降ってくる。
雨脚はどんどん強くなっていき、土砂降りになっていた。
「雨水は汚いっていうけど……命には代えられないわ!」
自転車を止め、街路樹の下で雨宿りをしながら水筒に雨水をためる。
これで、この猛暑をしのぐことができるだろう。
「この街路樹は……倒れないよね」
成美は、そう言いながら雨宿りしている木を触る。
周りの街路樹には、地震により倒れているものもあるのだ。
***
~神水市・撫子川周辺~
数分後。雨はまだ降っているが、水筒がいっぱいになったので出発。
しばらく走ると、雨により増水した撫子川が見えてきた。
大きなひびの入った橋の前で、女性が数人の人に抑えられていた。
「こんな状態で橋を渡るのか!? 川は増水してるし、橋はボロボロだぞ!」
「会社にある資料を取りにいかないと! 放して!」
「資料と自分の命、どっちが大事なんだ!」
「もちろん資料よ!」
その女性は抑えている人を振り払い、橋に駆け出す。
抑えていた人の一人が、川の上流を見て言った。
「ん? ……あ、あれは!!」
川の上流から、濁流が流れてきていた。
それに気が付いた多くの人が、川から離れようと走り出す。
数人は残り、橋を渡っている女性に声をかけ続けていた。
「おい、戻るんだ! 危険だぞ!」
「あの濁流にのまれたら死ぬぞ! 戻ってこい!!」
「も、もう無理だ! 逃げろっ!」
残っていた人も逃げ出した。
成美も進路方向を変え、川から離れようとする。
直後、濁流は橋ごと女性をのみこんだ。
橋はバラバラに破壊され、残骸が下流へと流れて行く。
その濁流は、川だけでなく道にまで流れ込んできた。
「やばっ!」
自転車を一生懸命こぎ、流れ込んでくる濁流から逃げる。
カゴに入ったスマホから、ラジオの音声が聞こえてきていた。
『神水ダムが欠損し、貯水の一部が撫子川に流れ込んだとのことです。
これにより撫子川は決壊し――』
「あそこだっ!」
ハンドルを切り、高台へとつながる階段を自転車で駆け上がる。
その直後、濁流は彼女のいた通りや周辺の街をのみこんだ。
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