人工衛星
——種子島宇宙センター。
まだ明朝の空には、見覚えのない星々と、二つの月が浮かんでいた。
「自動シーケンス起動確認。射場系、応答を」
「射場系正常。全系統グリーン」
「SD-9S主エンジン、プレバーナー加圧開始」
「燃焼室圧力、上昇中。目標値まであと12秒」
転移前に開発され、本来であれば転移の2日後に発射する予定であった、日本独自開発の通信衛星。
それを搭載したこのロケットは、この転移によって軌道投入の再計算を余儀なくされた。
「液体水素ライン、温度安定。流量制御バルブ、応答良好」
「酸化剤ライン、加圧完了。タンク内圧力……設計値±0.3%」
「エンジン点火準備、最終確認」
転移から3週間、JAXAの職員たちは、インターネットやGPSの復旧のため、この人工衛星の再設計や、ロケットの軌道投入再計算に追われていた。
それが終了したのが、つい数日前。
この日、このロケットの発射が失敗すれば、
インターネット・GPSなどの現代的な通信技術は、
数か月間、いや、場合によっては数年間にわたって、使用不可能になることだろう。
「タンク加圧開始。外部電源切り離しまであと20秒」
「電源切替準備。内部バッテリー、電圧安定」
「姿勢制御系、ジャイロ起動。IMU応答正常」
そのようなプレッシャーによって、職員たちはひどく緊張していた。
ただでさえ、ロケット発射というのは失敗が許されないことである。
しかし、このロケット発射が、以降の日本における通信を決定づけると考えれば、
その緊張は計り知れないものであった。
「ウォーターカーテン作動。音響衝撃緩和開始」
「SD-9S点火信号送信。ノズル温度、臨界点突破」
「推力曲線問題なし。SRB点火まで3秒」
この発射の様子は、各局がこぞって全国へ放送している。
インターネットが停止してしまった今、国民のほとんどがこの番組に注視していた。
「リフトオフ!」
ロケットの拘束が解除され、固体ロケットブースターによって鈍重な機体が持ち上げられる。
そして、それはぐんぐんと高度を伸ばしていった。
「機体応答良好」
「SRB燃焼率、残り12%。分離準備開始」
「フェアリング分離まであと3分。衛星温度安定」
「燃焼終了。分離」
もはや肉眼では見えないほどの高さまで上がったところで、機体は固体ロケットブースターを分離。
以降は、搭載されたSD-9Sという新型の液体燃料エンジンにだけ頼って進んでいくこととなる。
「衛星フェアリング、分離準備完了。害気圧、臨海値以下」
「分解信号送信。……フェアリング解放確認」
「衛星温度、安定。太陽センサー応答開始」
「視界クリア。軌道投入フェーズへ移行」
この、新世界において初めての人工衛星が、軌道に投入されようとしていた。
「SD-9S主エンジン、燃焼停止。推力ゼロ確認」
「第1段燃焼時間、設計値±0.2秒。燃焼効率99.8%」
「第1段、第2弾分離準備」
エンジンを停止し、ロケットは少しの間、慣性によって進んでいる。
第1段を分離し、第2段のロケットエンジンを点火。
そのエンジンによって、軌道へ投入する。
この惑星の重力は地球と同じであったため、第一宇宙速度が変わらない、というのは幸いであった。
「衛星分離確認」
「衛星姿勢、問題なし。太陽電池展開」
「通信リンク確立。ビーコン受信」
管制室に、安堵のため息が漏れる。
「ミッション成功」
この惑星において、たった一つの人工衛星が、画面上で煌々と輝いていた。
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