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『訳ありシスターへロマンスを』を描き終わって


 後書きです。

 また、以下の文章は、2021年07月03日(土)の活動報告にも投稿しております。



 「ロマンスとはなんぞや」と、読者様には言われてしまいそうで部屋の片隅で(おのの)いています。


 思いの外シスターがお堅い人物像になってしまい、恋愛要素が激減しました。

 本当に申し訳なくあの、その……謝罪させてください。




 以下、この物語についての解説と、私なりの想いや伝えたいメッセージとなります。


 ただ物語にはお読みいただいた方の分だけ、様々な解釈が生まれると思っております。

 その考えを否定するつもりは1ミリもありません。


 作者の知見を超えた読み方も多数あると理解しております。

 ですので、作者の後書きを読むことで、このお話に対する解釈が固定化されてしまうことを危惧する場合は、以下の文章をお読みにならないことを推奨いたします。


 これからお話しすることは、数ある正解の中の一つの解。という、前置きでした。

 


 では、参りますね。





 この作品で描きたかったのは、シスターでも勇者でもなく、その皮の中にいる1人の人間としての中身でした。


 まず主人公のシスターですが、彼女には名前がありません。

 シスターはただ愚直に、教会に勤めるのが自分の生き方だと信じ、ある意味では思考停止して、毎日を過ごしています。

 そんなシスターは6話で、勇者という重責に苦しむロキに対して、こんなことを思います。



『ロキは“勇者”という自分の定めに囚われすぎているのではないか』



 実はこの言葉、そのままシスター自身にも当てはまります。

 しかし彼女自身この段階では、そのことに気づいていません。


 それでも『シスター』という定めに囚われている彼女は、心のどこかではその生き方への疑問を持っていました。

 作中の耳鳴りは、そんな自分に対する内からの警告を暗示しています。



 彼女に名前がないのは、個人としての彼女がないことを強調するためですが、終盤でロキによりそのアイデンティティーを奪われた彼女の自我は崩壊し、以下の疑問を抱きます。



『シスターではなくなった今の私は、いったい何者なんだろう?』



 その後自分の種族を知り、また目を背けていた内面と向き合うことで新たな自我を獲得した彼女は、前よりも少しだけ強くなることができました。



『ロキの手は取らない。

 慌てて動き出した彼の足音を聞きながら、一生私の背中についてくればいいと思った』



 この一文には誰かに決められた未来ではなく、今度は自分の足で決めた道を歩こうという彼女なりの決意が込められています。


 最終話でロキが夜空へ向けて放った斬撃は、自分の人生を歩き出した彼女へ向けて、筆者からの細やかな祝砲だったりします。

(ロキは彼女が月を綺麗だと言ったので、純粋にプレゼントしたいと思っただけ)



 このお話の舞台は、剣や魔物のいるファンタジーです。

 しかしながら、もしかすると皆様の中にも、シスターと同じように教会の中にこもっている方がいるのではないでしょうか。


 

 親に言われたからこの進路を選んだ。

 自分はバカだから、この生き方しかできない。

 自分はこう言う人間だなんだから仕方がない。

 今の立場を失うのが怖いから、自分の本音から目を背けて立ち止まっている。



 上記のように自分はこうなんだと決めつけて生きている人は、現代においてのシスターなのかもしれません。


 自分は彼女なのかもしれない。

 そう思い当たる方がいましたら、貴方の頭上にもロキの祝砲が上がことを、陰ながら願っております。



 

 また勇者ロキについて、少しだけ書きます。


 ファンタジーにおいて勇者というのは、常に明るく前向きな人々の象徴として描かれることが多いかと思います。(勿論そうではない勇者もいると思いますが)


 ですがもし、自分が勇者になったら。

 想像してください。


 最初のうちは、素晴らしい称号を手に入れた優越感や万能感に包まれると思います。

 また自信に満ち溢れ、意気揚々と人々のために勇者として正しく奮闘(ふんとう)し、国や人々からの賞賛や感謝も素直に受け取れるでしょう。


 ですがふと、救えなかった命の多さに気づいてしまう瞬間が訪れるかもしれません。

 そんな時、こぼしてしまった命の重みに、果たして常人の精神は耐えられるのか。

 そんなことを思いました。


 それらのストレスを乗り越えられるタフさを兼ね備えたものが、勇者として選ばれるのではないのか。


 そういった意見も、勿論あると思います。


 ただそれはある意味で人の気持ちに鈍感、もしくは切り替えや前向きな姿勢と称して自責の念を排除しているなど、人としての何かが欠けている状態なのかもとも思うのです。


 決してそれが悪いと言いたいわけではありません。ですがそうではない勇者もいるはず。


 真っ向から責任と向き合ってしまう勇者もいるのではないか。

 そう考えた中、生まれたのがロキというキャラクターでした。



「今日は魔獣に襲われていたこの村へ駆けつけた。沢山の村人を助けたが、間に合わず3人の犠牲者が出た」


「今日はこの村を救った。でも俺が行かなかったあの村は壊滅したらしい。俺のせいだ」


「今日も人々を救った。村人や村長に深く感謝された。でも彼らの後ろで涙を流しているのは、死んだ少女の親だ。救えなかった。俺のせいであの子は死んだ。俺がもっと早く駆けつけていれば、あの子はきっと今も生きていて、両親と共に笑っていられたのに……」



 これは小説内での描写ではありません。

 ですがロキは上記のような思考を持った、救えなかった命に寄り添ってしまう側の人間として描きました。(第6話で吐露しています)


 そしてお察しのように、自殺願望の強いロキは心の病を患っています。


 世界を救うという重責。

 日ごとに増していく、救えなかった命に対しての後悔。

 負のスパイラルに陥った彼が、心の病を発症するのは、それほどおかしなことではないと思います。


 また勇者業が辛いのに休まないことや、シスターへの強い執着からみてとれるように、ロキは真面目で何かに固執する性格です。


 このような優等生タイプは、鬱病を発症しやすいタイプといわれています。

 もしかしたらロキは勇者にならなくても、心を患っていたのかもしれません。


 話がそれましたが、ロキは一貫してシスターへ口説き文句を言い続けます。



『言わなかったかな。僕は君に嘘なんかつかないよ。今までも、これからだってずっとそうだ。必要なら神に誓ってもいい』



 作中でもこう言っていますが、シスターへの想いは全て彼の本心です。


 なぜロキがシスターへ惹かれたのかは描いていませんが、彼がシスターへ固執する理由は、自殺願望と同じく、ある種の逃避行動でした。


 人々のために世界を救いたい。しかし、救えなかった人々に対して罪の意識を感じてしまう。


 そんなロキは無意識に、ベクトルの目的地は変えず、出発点のみを変更します。


 

『倒した魔王は君へ捧げたいんだ』



 この発言は、愛するシスターのために世界を救いたいとも取れます。

 つまり出発点を人々からシスター個人へずらすことで、心の負担を減らそうとしていたんです。


 悲しいことに彼自身は彼女への愛が、逃避行動の一部であることに気が付いていません。

 ただ彼女を自分を保つための拠り所(よりどころ)にしているという何かしらの自覚はあるようで、以下のようにも言っています。



『そうだね。君には関係のないことなのかもしれない。でもどうか、君を愛してしまった僕を、許してほしい』



 羨望や期待、感謝を向けられたとしても、それは勇者としてのロキへ向けられたものであり、中身であるロキ個人を(かんが)みるものは少ないのかもしれません。


 そんな彼が、自分で自分を救うために選んだ方法が自殺とシスターでした。


 何とも言えない裏設定の暴露となってしまいましたが、今後の彼が、抱え込んでしまっている自責という重荷と上手く折り合いをつけられることを願うばかりです。


 



 最後に、最終話の以下の部分につきましてご報告致します。




『私を見下ろす彼の瞳は、まるで夜明けの空に輝く明星のように煌めいていた。


「そんなの、私には何の関係もありません」


 なんて……なんて、自分勝手な独占欲なんだ。


 澄んだ彼の瞳を見ながら、ゾクゾクと自分の魂が震える。


 まるで悪魔みたいだ。そう思った』





 ある読者様より、聖書によるとロキの瞳を表現した明星(金星)とは悪魔ルシファーのことだそうで、それがシスターの悪魔族とかかっていて面白い。とのお言葉をいただきました。


 ロキの瞳の色を明星に例えたのは、人々の明るい未来を示唆(しさ)したもの、また現時刻の夜中との対比を生みたいと考えた時に出てきた表現です。


 この紐付けは全く意図したものではありませんでしたので、教えていただいた時はとても驚き、同時に嬉しく思いました。


 素敵な偶然と、知見の深い読者様へ感謝し、この場を借りてご紹介させていただきます。



 長くなりましたが、この度は「訳ありシスターへロマンスを」をお読みいただき、誠にありがとうございました。



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