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神々のディストピア  作者: カブヤン
神の国篇 第二章 深淵に揺蕩う世界
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第27話 はじまり

「重なり、重なりだ」


「重なり?」


「そうだ。重なっているんだ。例えよう。僕は、今胸ポケットからペンを取り出した。君は、僕が持っているペンが見えるかい?」


「ま、まぁ……いくらメガネをしてるとは言え流石に……」


「これは、ペンだ。黒のボールペンだ。書いてみよう。黒の線が引ける。当然だ」


「……そうですね」


「何故黒の線が引ける?」


「え? いやだってインク」


「そうだ。説明するまでもないね。黒のインクが先から出て、紙に染み込んでいくからだ。当然だ。僕も君も、これは当然だと理解できている。何故だ?」


「何故って、仕組みを知ってるから」


「そうだ。僕たちは30年余りの今までの人生で、今までの経験や知識で、これがボールペンで、インクが出て、紙に字が書けると言うことを知っている。だから僕らは、ボールペンで紙に字を書ける。紙に字を書いたという過去を作れる」


「はぁ」


「では、一つ、前提を変えてみよう。もしもボールペンという道具が、線を引ける道具ではなく線を消せる道具だとしたら、紙にペンを走らせた結果はどうなる?」


「……何もならないのでは?」


「そうだ、何もならない。よし次だ。もしも、黒という色が、僕たちのいう無色透明と同じ色だったら、黒のペンで紙に線を書いたとしたらどういう結果になると思う?」


「……やはり、何もならないのでは?」


「そう。では、見てくれ。真っ白の紙だ。いいか。単純に考えるんだ。この何も書かれていない紙は、本当に何も書かれていないと断定できるのかい?」


「あ、え? それは……組成とかの話ですか……?」


「違う。そのままの話だ。単純に考えてくれ。今までの経験、知識、全てを無視して、単純に考えてくれ。子供のように、今まで言ったことだけを材料に、考えてくれ」


「……そんな、ちょっと待ってください。難しいです」


「何故難しい?」


「だって、そんな、書かれているかいないかなんて、書かれていないと私は判断しますが、白とか透明とか言われたら」


「そうだ。それでいい」


「はい?」


「つまり、真っ白の紙という事実があったとしても、そこに文字が書かれているかどうかは判断できないんだ。何故か? もしもがあるからだ」


「可能性?」


「そうだ。事実が絶対だとしても、それが異なっているという可能性が、もっと言えば、その事実が事実でない『世界』があるんだ。ここに、どこかに」


「平行世界?」


「パラレル的な意味も当然あるが、僕は嘗てのパラレル論には語られていない要素があると思っている。つまり、穴。つまり、接点。つまり、重なり。僕らはね、知覚したんだよ。この紙の上でその可能性の世界とやらを」


「……ちょっと待ってください。また、わからなく」


「難しい話じゃない。いいかい? これは真っ白の紙だが、何かが書かれているかもしれない。そう思った瞬間に、そう考えた瞬間に、この紙は何も書かれていない紙ではない可能性ができたんだよ」


「かもしれない、が知覚になる?」


「ああそうだ。事実はもちろん一つだ。白い紙。昨日僕が購買で買って来たから少なくとも製造時から今までは何も書かれていないのは確かだろう。でも、疑えた。違うんじゃないか? そう思うことができた。可能性を無限に広げて、幻の中にでもこの紙に何かが書かれている世界をみることができた」


「……確かに」


「平行世界は隣あう可能性の世界だ。違う。可能性は、全てこの世界にあると僕は考える。見えているのは全ての結果であり、結果に至った過程……それまでの『世界』は無限に存在していていたのだと、無限に存在しているのだと、無限に存在していくのだろうと僕は考える」


「……科学ですかねそれ」


「さぁ? そんなのは僕には関係ないね。でもね、面白いと思わないかい? もしも、もしもだよ。重なっている世界を知覚できて、過程に手を加えられるようになったとしたら、凄いことになると思わないかい?」


「凄い、こと?」


「超常現象、超能力、魔法、それらに準ずる世界中の奇跡。物語の中の、可能性ですらない妄想の中の、誰もが思い描きながらも想いきれなかったモノが、それこそ『神』が見れるかもしれない。なれるかもしれない」


「ちょ、ちょっと……妄想激しすぎません? 教授に怒られますよ? できるわけがないじゃないですか。ファンタジーじゃあるまいし」


「ははは、いやいやわからないぞ?」


「妄想もいいですけど生体金属の結果まとめないと研究生クビになりますよ? 無職になりたいんですか?」


「それは困る。僕もご飯は食べる」


「全く。そういえば生体金属で思い出しましたが、結局名前何にするんですか? 教授が名前つけてくれって言ってましたよね」


「あれ? 言ってなかったっけ」


「はい」


「『オリハルコン』だよ」


「は? いやちょっとそれって……」


「海の底の底で見つかった成長する金属、となるとこの名前しか無いだろ?」


「……先輩、子供の頃ファンタジー小説とか好きでした?」


「わかる? ははは、もうその名前で先行して物性検査結果を国際紙に出したから変えれないぞ?」


「はぁー……」


「ははは。よぉしそれじゃさっさと本文書いてしまおうかな。悪いんだけど、このデータ、いつも通り表にしてくれるかい?」


「はいはい」

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