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神々のディストピア  作者: カブヤン
神の国篇 第二章 深淵に揺蕩う世界
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第15話 夢の先へ

 地面に、何かが落ちた。


 落ちたそれから溢れるモノは、赤い液体。錆びた鉄の匂い。赤い、血液。


 落ちたのは首だった。男の首だった。


 石畳の上に落ちた男の首を、大柄の老人が見下ろしている。その顔は、何とも複雑で。


「それでいい。神種を殺すには頭を潰すか、首を落とすこと。結構やるじゃない騎士団長様?」


 長い火砲を握った銀髪の女が軽い口調で老人に話しかける。老人は答えない。眉間の皺をより深くさせるだけ。


 銀髪が風に揺れる。女が後ろを向く。


 彼女の視線の先、彼女の後ろに沢山の身体があった。


 たくさんの、死体があった。


 神たちの死体だ。


「都はこの世界で最も戦場から遠い場所。そこを守る者は、神徒にすらなれない未熟者。第一階位すら解放できない者たちに、一体何が守れるって?」


 彼女は笑顔だった。硝煙立ち上る火砲を握りしめ、彼女は笑っていた。


 嬉しいから笑っていたのか。


 楽しいから笑っていたのか。


 違う。


「アルカディナ。あなたの槍が、あなたの生まれたこの地でまた輝くわ。そこから見てなさい。彼が、この世界の未来を台無しにしてくれるわ。ふふふ……ふふふふ……」


 開かれた城門。それを守っていた神たちは全て死んだ。


 もはや誰も城門を守る者はいない。道を塞ぐものはもうなにもない。


 道を行け。


 自らの道を行け。


 進め。


 進め。


 ここは夢の跡ではない。


 進め。


 進め。


 進め。



 ――その姿を、神々に知らしめろ。



 たくさんの天馬が空を舞う。天馬の上には、様々な武器を握る神々。


 彼らは追っている。地面を駆ける片翼の天馬を追っている。


 先頭を行く神が叫ぶ。


「なんて速さの天馬だ! 全速力で飛んでいるのに追いつけない!」


 それは、風だった。


 吹き荒ぶ嵐だった。


「法術だ! 光の矢を!」


 片翼の天馬を止めんと光の矢が注ぐ。それに跨る大きな男を殺さんと光の矢が注ぐ。


 雨のように、閃光が降り注ぐ。


 地面が削れた。木々が燃えた。岩が砕けた。


 止まらない。


 止められない。


 もはやそれを、止める手段などない。


「ガアアアアアアアア!」


 吠える。片翼の天馬が吠える。天馬アガトが吠える。


「オオオオオオオオオオオオオオ!」


 吠える。天馬に跨る男が吠える。大槍を掲げてアルクァードが吠える。


 疾風よりも暴風。


 触れれば忽ち、木端微塵。


「橋だ! 橋がある! 落とすんだ!」


 神々が手より黄金の光を放つ。その光は、矢だ。触れたものを壊す矢だ。


 遥か先にある木でできた大橋を何本もの矢が貫く。光の矢は、容易く橋を落とす。


 川に架かる、橋が落ちた。


「アガトォォォォォ!」


「グアアアアアアアア!」


 無意味だ。


 全くの、無意味だ。


「と、跳んだ!?」


「あの距離を跳躍だと!?」


 天馬が跳ぶ。高く、高く跳ぶ。


 川を越える。大きな土埃をあげて、巨馬は着地する。


「着地で速度が緩んだ! 追いつける!」


「応!」


 空を舞う天馬の速度が増す。天馬の速度は、高き天より降りる時に最高になる。


 最初に襲い掛かった天馬は、五頭。それぞれに神が跨り、それぞれに武器を握る。


 アルクァードは、巨大な槍を持ち上げる。


「さっきからちょろちょろと! 邪魔するんじゃねぇ!」


 そう叫んで、振り返ると同時に全力で彼は大槍を振った。


 そして――――砕けた。


 五頭の天馬が、その上にいた神々が、ただの一振りで全て粉々に砕けちった。


「あ」


 そう声を漏らしたのは、誰か。


 落ちる天馬だったモノ。転がる神だったモノ。


「まだ追いつける! アガト!」


「ガァァァァァ!」


 止められない。


 もはや止められない。


 アガトは駆ける。アルクァードは大槍を担ぐ。


 止められない。


 神徒如きでは止められない。


 もう


   止めることなど


          できない


「おおおおおおおりゃああああああ!」


「ガアアアアアアア!」


 圧巻だった。


 後続を待つためか、それともその道を守るためか。アルクァードが進む道には、点々とだが神徒の部隊がいた。


 所々いた神徒の隊は彼が通るや否や片っ端から肉塊になった。


 一振りで二つ。二振りで五つ。三振りで全滅。


 濁流に飲まれる大地が如く、風になぎ倒される草木が如く。


 通った先に、命は残らず。


「はは、はははははは!」


 血で真っ赤に染まった大槍を掲げ、アルクァードは笑う。


 楽しそうに、嬉しそうに笑う。


 楽しくて、嬉しくて、笑っている。


 声が響いている。


 アルクァードの頭の中で声が響いている。女の声が響き渡っている。


「返せ」


「返せ」


「返せ」


 狂気に顔を歪ませて、彼らは駆ける。追いつくために駆ける。


 取り戻すために駆ける。


「あの時は間に合わなかった! だが、もう逃がさない! アガト! 仇だ! 仇を討つんだ! この先にいる奴を殺して仇を討つんだ! この先にあるモノを壊して仇を討つんだ! そのために、俺は生かされている! アガト、アガトォォォォ!」


「ガァアアアアアアッ!」


 もうすでに、もう当の昔に、まともな心は無くなった。


 正常な思考などいらない。


 清浄な未来などいらない。


 進め。


 進め進め。


 進め進め進め。


 夢を取り戻せ。


「――――っ!」


 黒い球体が見えた。空舞う黒い球体が見えた。


 軍神の矢。


 夢を壊した兵器。


「オオオオオオオオオオオオ!」


 叫べ。


 心の底から叫べ。


 神々の国に響き渡るほど、大きな声で叫べ。


 その存在は、世界に見せつけろ。


「待て! それ以上行かせるか!」


「止める……!」


 二柱の神が迫りくる。彼を止めんと迫りくる。


 ――誰も彼を止められない。

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