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神々のディストピア  作者: カブヤン
神の国篇 第一章 赤錆の女神
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第19話 夢の終わり

 その命は間違いなく、紛れもなく、望まれたものだったから。


 安らかな月日が楽しかったと、心の底から思えるから。


 夢のような毎日を。夢のような日時を。夢のような瞬間を。


 道を


  歩む


   足に


    力を


「なんだ、これ……」


「何があったんだ……」


 立ち尽くす、鎧を着た二人の男。


 足が動かない。


 頭が動かない。


 彼らの眼前に広がる光景を、彼らの眼が受け入れようとしない。


 血だ。


 石だ。


 肉だ。


 瓦礫だ。


 命だ。


 生活だ。


 ――――『地獄』だ。


 血が散らばっている。石が散らばっている。肉が散らばっている。瓦礫が散らばっている。


 散らばっているモノが一つに集まった光景を、彼らは知っている。


 町だ。この場所には、確かに町があった。


 そう、町だ。男たち二人は町という単語を頭に思い浮かべ、互いの顔を見て、そして、互いに一つの言葉を口にした。


「町が」


「壊れている」


 そこは、神の一撃により消え去った町。


 少女が朝食のパンを求め、早起きをしてパン屋へ向かったことから始まった、一つの悲劇。


 何が起きたかなど誰も知らない。何故こうなったかなど誰も知らない。


 ただ壊れた人々と、人の町が彼らの目の前にあった。


 彼らは騎士だった。この町に常駐する騎士だった。彼らはたまたま他の町に用があり、数日町から離れていたから生き残ったのだ。


 幸運だ。紛れもなく幸運だ。


 だがある意味では不運だ。


 生きると言うことは時に、死ぬよりも辛いこともある。


「騎士団に……言いに行こう……」


「あ、ああ……」


 その後彼らは処刑される。この町の光景を見たことが、神々にとってはあまり好ましくないことなので、彼らは消される。


 生きるとは何だろう。死ぬとは何だろう。


 生きることが当たり前のモノにとって、死こそ意味があって。


 死ぬことが当たり前のモノにとって、生こそ意味があって。



 ――壊れた町から、血の足跡が一組、伸びていた。


 

 ――――



 ――――



 ――――



 ――――



 そこは、ゆめのせかい


 きれいで、たのしくて、だれもしななくてもいいせかい


 生に満ち満ちた世界。


 天馬が空を舞う。赤い槍が空に線を描く。


「メナス!」


 赤い鎧の女神様が大きな声で叫ぶ。


 天馬が空を駆ける。白銀の剣が空で輝く。


「アルカディナ!」


 白い鎧の女神様が大きな声で叫ぶ。


 二頭の天馬が交錯する。大きな大きな金属音が周囲に鳴り響く。


 円を描いて、二頭の天馬が空を舞う。虚空を描く、美しい白い線。


 神々しい、神々の、線。


 線が重なる。また金属音が鳴る。


 赤い液体が地面に落ちる。


「くうっ……メナス……強い……!」


 赤錆の女神が顔をしかめる。彼女の腕に、血の線が走る。


「もうやめろ! お前では勝てないアルカディナ! 黙って私に従え!」


「今更……今更従えない!」


「アルカディナ!」


 二頭の天馬が、距離を詰める。


 武器と武器が重なりあう。


「アルカディナ! 人を愛したことは忘れてやる! 何もかも忘れてやる! だから、言え! 何があったかを言え! 言えば忘れてやる! 言って私を納得させろぉぉぉ!」


「言えない! あなたたちだけには言えない! 生きるよりも決まりなあなたたちだけには!」


「アルカディナぁ!」


 ――私は知っていた。


「あの子の存在は、許されない……知られれば殺される……メナスは見逃しても、必ず、殺される……そんなの……!」


 ――あの選択は


「駄目!」


 ――間違いであったと。


「メナスに勝てる、力を……あの子を守れる力を……今を生きる力を! あと、2つ……あと、2階……神器解放……第……9!」


 ――でも、でもそれでも


「っ!? アルカディナやめろ! まだ早い!」


 ――間違いでないと思いたいから。


 1 身体能力の向上

 2 血の固形化

 3 血の操作

 4 さらなる力の向上

 5 死角の消滅

 6 法力の限界突破

 7 神器の不滅化

 8 7階位全ての能力の一段階向上

 9


「神器解放第9階位『幻想の終焉』」


 神器とは、神の身体より生まれし命である。


 神々にとっての、唯一無二の兄弟姉妹である。


 自らの身体を削り、器として生み出した奇跡の道具である。


「届いたのかっ!?」


 神器の持つ力は、世界に干渉する力である。


 神器が神に、神たる力を与えるのである。


「七神の中で10階に手が届くのはやはり……お前かアルカディナ……」


 それは、まさしく、神の槍だった。


 赤い鎧が、砕け散り、黄金に輝く血が彼女の周りを舞う。


 渦だ。黄金の血の渦だ。渦の中心は、彼女の槍だ。


 天馬に跨るアルカディナの赤い瞳が、真っ赤に真っ赤に、強く強く輝いている。


「くっ……あの威力……制御できていない! 放てば島ごと、吹き飛ぶぞ! くそっ……相殺、できるか……!? 神器解放第9階位『光の王』!」


 メナスの剣が、光に包まれた。


 天高くメナスは剣を掲げる。剣は伸びて、光の剣は伸びて、どこまでもどこまでも伸びて。


 天に、巨大な十字の光が現れた。


「何故、そこまでするんだアルカディナ……アルカディナぁ……!」


「メナス! 神は! 殺すことでしか人を抑えつけることができない愚かな存在!」


「何を!?」


「私はあの子を守る! 管理などさせてたまるか! 私たちの夢を消させてたまるか! あの子を守る!」


「やはり錯乱してるのか!?」


「メナス!」


「アルカディナ!」


 そして


 彼女たちは


 自らの神器を放った。


 光の剣、光の槍。


 その瞬間、その場所は太陽よりも眩しく。


 光と光が、ぶつかった。


 凄まじい振動と爆音。そして爆風。周囲を膨大な力の衝撃が走った。


「ウオオオオオ!?」


「ぐ、ぐうう……さすが最強の神器二つっ……」


 見上げていた二神の男たちは、その光に思わず瞼を閉じた。


 木がへし折れた。


 湖の水が押しのけられ対岸に叩き付けられた。


 一枚の白い翼が、千切れて空に飛んだ。


「グオオオッ!」


 馬の嘶きが鳴った。少しして、水面に何かが叩き付けられたかのような音が鳴った。


 光が収縮していく。


 光から眼を背けていた二神の男たちが、光の空を見上げた。


 白い天馬と、白い鎧の女神が空に浮かんでいた。


 赤い方はいない。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 肩で息をする、白い鎧の女神メナス。


「メナス様が、勝った……?」


「さすがだ……」


 感嘆の声をあげる神、ファルギスとアルトス。


「ああっ!?」


 ふと、アルトスが何かに気付いて声をあげた。


 アルトスは、メナスの手を見ていた。メナスは違和感を感じ、右手を眼の前に掲げる。


 右手に握られていたのは、自らの神器、白銀の剣。


 その剣が、剣の刀身が


「はぁ……はぁ……冗談、だ……ろ……」


 真ん中で、へし折れていた。


 剣先が無くなっている。不滅のはずの、壊れるはずのない不死の、神器の剣先が、無くなっている。


 そして無くなったもの、もう一つ。


 メナスの乗る天馬の


「あっ……あれ……?」


 頭。


「あいつの9階……不死のモノを、殺せる……? 神、ごろし……」


 空の上から、堕ちるメナスと首なしの天馬。


 力が抜ける。神器が壊れたのだ。自分の力もきっと、壊れている。


 堕ちる。湖に堕ちる。堕ちていく。


 ――堕ちている間に、彼女はとおくをみていた。


 ――白銀の髪に赤い瞳の少女が、遠くの家からこちらに向かって走ってきているのがみえる。


 メナスはその間際に、気づいた。アルカディナが隠したかった、守りたかったモノの正体を。


 湖に落ちた彼女の身体。大きな水柱が立ち上った。


 そして、それと交代するかのように、湖から現れる一つの影。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 湖から這い出てくる銀髪の女神。右手に大槍。身体に赤い鎧。


 女神アルカディナ。


「はぁはぁ……ぐ、うう……」


 這い出てきたアルカディナ。彼女の身体に、あるべきものが無い。


 左足だ。


 片足がない。


「う、ぐうう……ああ……」


 千切れた左足から溢れる血。抑えるアルカディナ。


 痛みの中に、夢幻の終わりを。


「ファルギス……」


「……ああ」


 ゆめのおわりを


 足を失ったアルカディナの下に、2柱の神が近づいていった――

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