表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々のディストピア  作者: カブヤン
人の国篇 序章 神殺しの槍
26/104

第26話 贖罪の道

 空に浮かぶ白い光。いつからそれがそこにあったのか、誰も知らない。


 だがそれはそこにある。ずっとそこにある。その国のどの場所からも同じところに見えるそれは、優しく、しかしながら冷たい声を世界に響かせる。


 朝は始まりを。夜は終わりを。


 古から続くその声は、毎日毎日同じ時間に、同じことを伝えてくれる。それは、紛れもなく人に安らぎを与えてくれる声である。


 その声が、今世界中に響き渡った。


「本日は晴天です。皆様今日も元気に働きましょう。本日は、神より重大なお報せがあります。お静かに、お聞きください」


 そこまではいつも通りの声だった。しかし、そこからはいつもとは違う声だった。


 男の声だった。


「諸君。ご苦労。少し手を止め、私の話を聞いてくれないかな?」


 綺麗な声だった。


「私は軍神ブラガの配下、第25の神徒ヴァハナ。今の人の世界の管理者だ」


 暖かい声だった。


「古、もはや誰も覚えていないほどの古に、君たちは我々に剣を向けた。平和な神の世界。そこに争いを持ち込んだのは、君たち人だ。君たちは、弱き力ながら団結し、我ら古代の神を数十人殺し、そして居城を一つ落とした」


 哀しそうな声だった。


「結局、君たちは負けた。だからこのように、小さな島に押し込まれる状況になったのだ。きっとこれを聞いてるほとんどの者は、だからどうしたとしか、思わないだろう」


 ――熱い声だった。


「時は流れた。数千、数万。もはや数えるのも億劫になるほどの長期だ。全てを奪われ、無価値となることで君たちは罪を償い続けた。いやはや、ご苦労だった。何とも何とも、辛すぎる時代だったね」


 ――――嬉しそうな声だった。


「君たちに許しの道を用意しよう」


 ――――――恐ろしい声だった。


「この世界の外に、人以外が住んでいる世界がある。神、妖精、獣人、亜人、竜人、竜、魔獣。君たちが会ったことも見たことも無いような生物が、この世界の外には住んでいる。我々はそれら全てを支配し、世界を統べている」


 その声を聞いている人々は、顔をあげた。皆、顔をあげた。


「我らが支配を、拒絶する者がいる」


 手を組んで、祈りを捧げる人がいた。


「魔神の軍勢。我らが白き世界を染めんとする黒き世界。長きにわたる我らが戦いも、いよいよもって限界を迎えようとしている。やつらは、死兵。全ての生命に対する敵である。我らが光の敵である」


 手を掲げて、許しを請う人がいた。


「聞いてくれ人よ。今、闇は君たち人の世界にまでやってきているのだ」


 それは、泡沫の夢。


「もはや隠すことはしない。率直に言おう。あと一月。いや一月内に、魔神の軍勢は王都に至る。分かりやすく言おうか。君たちの世界は、あと一月で終わるんだ」


 それは、微睡の夢。


「とある理由から、私たち神は人の世界を失うわけにはいかない。だが、兵力が足りない。本国よりの兵力だけでは、数十万の魔人の軍勢に対抗できない。さぁ本題だ。よく聞け人間たちよ。私たちは、神は君たちが我が軍勢に加わってくれることを望んでいる!」


 狭き箱庭の中で、生かされてきた人々にとってその言葉は――まさに――


「許そう! 人の罪を! 我らが軍勢に協力した者は、そのまま神の国へ行くことになる! 神の世界で他の生命と共に生きることを許そう!」


 まさに――夢。


「自由を与えよう! アルゴの船に乗り、神の国で自由に生きるがいい! 美しい花々の間を美しい妖精たちが飛び回り! ドワーフたちが楽器を鳴らし! エルフが歌を歌う! 竜人が舞い! 獣人が雄叫びをあげる! 素晴らしきかな神の国! そこで暮らす権利を与えよう!」


 その夢を、その話を聞いて、ピクリとも動くことが無かった、人々の心が少しずつ動き始める。


「人の世界から魔神の軍勢を追い払う! 手伝ってくれたまえ人々よ! なぁに槍は十二分にある! 存分に力を揮いたまえ!」


 人々のくすんだ瞳に、光が宿る。


「王都に集え! 人よ! 待っている! 待っているぞ仲間たちよ! ははははは!」


 全ては、神様のいう通り。


 人々の心に浮かんだのは、感謝の気持ちだった。涙を流す人もいた。雄叫びをあげる人もいた。


 そして人々は、列を作った。長い長い列。王都へ向かう、人々の列。


 列は街道を埋め尽くす。街道だけではない。道なき草原も、丘も、森も。どこにいたのか、人が、世界に溢れ出した。


 歩く。道を歩く。作られた道を。用意されている道を。自らの足で歩く。神様のいう通り、自らの足で、歩いていく。


 神の国。それを夢見て、人は歩く。


 夢をみせられて、人は歩かされる。



 ――さて



 ――それは本当に



 ――足で歩いているのだろうか?



 ――自分の足で、歩いているのだろうか?



 ――さぁ



「……神徒ごときが、管理、ね。どうするぅーアルク?」


「行くさ。あの声、最高に気に入らねぇ。顔を見てやるぜ」


 メナスと、アルクァード。黒い鎧を踏みしめて。


「ああ、ワシの家がめちゃめちゃに……魔女様直せんかぁ……?」


「いやその……私家まではちょっと……ご、ご愁傷さまです」


「ユーフォリア様はのぉー乳でかいくせにできんこと多いんじゃのぉーああここまで現れるとは、こりゃあの誘い、文字通り渡りに船、かのぉ」


「……いい加減怒りますよ?」


 老兵ダナンとユーフォリア。燃え尽きた家を背にして。


「皆大丈夫か!」


「ダナン騎士団に欠員はありえない!」


「よし! 点呼ぉー!」


 灰となった庭に並ぶ、ダナンが保護する子供たちが数人。


「元気だな小さいのに……僕そんな気分になれないよ……ねぇミラちゃん……あの黒い兵士、怖かったね……」


「え? 何リオン?」


「……いや別に。ミラちゃんってさ、大物だよね……はぁ」


 ミラとリオン。巨大な片翼の天馬に跨って。


「行くぜ王都。神様のおっしゃるままにってな。クソ喰らえ」


 

 ――道を『歩いて』行こう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ