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第58歩:ギフト9

 

 ―V.S.時雨―

 

 そこに立っていたのは七人だった。

 暗闇に七人が、正確には一人と一群が、動くことなく立っている。

 

「さぁて、邪魔者もいなくなったし、あのクソ面倒臭い演出も必要ないよな?お前相手にそんなことしてても時間の無駄だしなぁ」

 

 酷く気だるげに、白髪の少年の前に対峙する希崎 時雨のうちの一人が代表して喋る。

 

「いや、《失敗作》にんなことするのも無駄だろ?」

「んあ?いや、あいつにはこんな風に幻想的に格好つけたほうが、なんとなく気が晴れるしな。お前と違って」

「…………」

 

 シニカルに笑う時雨。どことなく楽しげではあったが、この状況を楽しむなど、自分は異常ですといっているようなもの。

 

「…………つーか、今度は怒って飛び掛ってこないんだな」

「ん?はぁ?まさかお前、俺が本当に怒って戦ったと思ってんのか?俺が無鉄砲に戦って死んだって?くっだらねぇ。ない頭を少しは使えや、《剣野》」

 

 相手を挑発するように、シニカルな笑みを絶やさず、相手を論う時雨。だが、白い少年はそんなことは気にせず、かといってニタニタと笑うこともせず、ひたすら無表情を保っていた。

 

「お前がどうやって生き返ったとか、何で死んでないかとか、どうでもいいけどな……邪魔すんな」

「黙れ、《剣野》。邪魔だぁ?邪魔してんのはどっちだっつーの」

 

 一転、白い少年は語気を強め、時雨は呆れたようにため息を吐く。

 

「うる、さい!」

 

 何の前触れもなく、白い少年は地面に大剣を深々と突き立て、手のひらから二叉の槍を『作り出し』、時雨の顔めがけて全力で投げつける。

 地面と平行に飛来する二叉の槍は時雨の顔を目標に軌道を描く。一撃必殺の速度と破壊力が、時雨に容赦なく襲い掛かっているというのに、当の本人はといえば、シニカルに笑ったままだった。

 それもそのはず。

 時雨の顔に、顔どころかどこにも、そのやりは刺さることはなかったのだから。

 物理法則なんて完全に無視したかのように、ぴたりと、時雨に刺さる一メートル手前で、停止した二叉の槍。

 白髪の少年は投げた姿勢のまま、わかっていたかのように、走り出す。空中に停止した二叉の槍に手を触れて『消し』、点滅しただけのようなスピードで今度は同じ長さ、同じ太さの金色の三叉の矛を『繰り出す』。

 そのまま流れるような動作で今度は投げることなく、そのまま手を伸ばし、下から心臓を狙い突き上げる。

 殺すための動作を、まるでその行為自体を意に介さないような心構えでもあるかのようにすんなりと、後ろに軽く飛んでかわす。

 白い少年のその動作のうちに、残りの時雨たちは彼に殺到する。

 まるで数で圧倒し、敵を殺す蟻のように、彼ら五人が殺到する。

 それを背後で感じ取れるはずもなく、白い少年は予想と勘のみを持って、伸びきった腕をそのままに、踏み込んで体重のかかっている足を銃身にして一回転し牽制する。

 時雨全員が等間隔等距離に立ち、正六角形をつくって白い少年を囲んだ。

 そんな均衡状態もつかの間、前後にいた時雨二人が白い少年に襲い掛かってくる。前方の時雨は無骨なナイフ、後方の時雨は

やや短めの小刀。どちらも狙っているのは心臓ただ一点のみ。

 三叉の槍を『消し』、今度は両手から二本のまったく同じ剣を『繰り出す』。体を九十度回転させて、攻撃を軽く受け止めていなす。

 二人の時雨に後ろから攻撃されないよう牽制しつつ、右足を一人の時雨に向ける。そして、

 

「一人目っと」

 

 軽い、あくまで気に負わないような言い方で死の宣告をした。

 足の裏から、靴を突き破って先ほど出した三叉の矛を『繰り出す』。人間では考えられない一撃。

 グサリと、一人の時雨の心臓をうがつ。いくら同じ人間が六人いたところで、一人一人は間違いなく人間。当然こんなことをされれば、絶命する。

 三叉の矛で穿った時雨が血を吐いたのを確認してから、二本の剣とともに武器を全て『消す』。

 殺した時雨を何のためらいもなく踏みつけ、反撃されぬよう残りの五人から距離を取る。

 距離をとったのは一瞬。数日前のように、ナイフを自由自在に空中で踊らされては、さすがに面倒だ。

 接近中に『繰り出し』たのは、紛う方なきもう一人の彼ではない白い少年が使用していた日本刀――『葬倒天馬』。

 聞こえてくるのは風を切る音のみ。刀身が見えないほどに、居合い抜きのような高速で、白い少年は刀を振るう。

 

「二、三っと」

 

 ザシュ、ヒュン、と人間がたてられるはずのない音が時雨の体、二人分から奏でられる。胸元を深く切り付けられ、そのまま時雨は仰向けに倒れる。

 テンポ良く、人を殺していく白い少年。

 何の躊躇もなく、

 何の逡巡もない。

 

「四」

 

 数を数えるのも億劫になったかのように、適当に数字を述べるだけで、時雨の心臓を穿つことで殺す。

 

「ご――五っ!」

 

 時雨の体につきたてた刀を引き抜く勢いで、五人目を殺そうとした白い少年だったが、あっさりナイフでとめられる。軽くしたうちをし、膝蹴りを鳩尾に決め、膝から先の割れていないまっすぐな槍を『繰り出す』。

 貫通した槍を消して払いのけるように足を振るう。

 白い少年はもう一人がどこにいるのか探す。最後の希崎 時雨。

 白い少年は希崎 時雨を目で補足する。だが、見つけたときにはもう遅い。その確認した目にめがけて、一本の長く、硬そうな黒い針を押し進めている。

 刺されば間違いなく、脳に達し、即死するような針を、躊躇いなく希崎 時雨は突きたてようとしている。殺しの瞬間をなんとも思っていない。

 

「残念でした、と」

 

 それを言ったのは、時雨ではない。白い少年だった。

 右手で『繰り出した』ハンドサイズの鎚で、横殴りに時雨の頭を叩く。軽々と時雨は吹き飛ばされ、地面を転がって動かなくなった。

 バチバチと放電でもしているかのような鎚を、用がなくなったので『消す』白い少年。

 そこに立っていたのは一人だった。

 暗闇に立っているのは一人、正確に言っても一人だった。

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