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ネクロノミコン

 

 著:ユリウス・F・ラグヴィス


 この本が開かれているということは、俺はやっぱり死んでいるんだろう。逆に言えば死なないと開かないように仕掛けてたんだが。俺の魔術を解体できるようなやつはこの世にいるはず無いだろうし。と言うことは、やっぱり俺は死んでいるんだろう。

 そう考えると、あながち『ネクロノミコン』っつー名前も間違っちゃないか。

 まぁ、そんなことはおいといて、本書を書くに当たって何個か言っておこうと思う。こんなこと書いてると本当にものを書いてると実感してくるな。

 まず、この本の意味について。俺が死んだ後、俺が持っている魔術の能力を風化させるのは忍び無いから、本にして残そうと思った、それだけだな。誰かをはめようと思ったりとか、そんなんじゃないから安心しろ。

 次に、この本を読むにあたって。素人がよんでも分かるよう、こと細かく書くつもりだから、素人でも安心してよめ。ただし、この本は最初に開いた人、つまり“お前“にしかよめない。自分のためだけに使うもよし、他人に伝えていくのもよし、好きにしろ。

 んで、最後に。

 この本は魔術書です。用法・用量を守って正しく使ってください、なーんてな。




    ―目次―


0.前書き

1.魔術と魔法の違いについて

2.魔術について

3.魔法について

4.魔術の法則

5.魔術の種類

6.特殊な魔術について1

7.特殊な魔術について2

8.声帯魔術について

9.陣式魔術について

0.後書き

*.魔術の具体例




 ……………………

 …………

 ……




 【第6集】

 特殊な魔術について1



 ……………………

 …………

 ……



 ◆第32項◆

 この項では主だって、魔術製合成生命体――いわゆる、使い魔、場所によっては悪魔の子ともいわれるものを制作する魔術技術の一つの分野について説明しよう。

 このジャンルは大きく分けて二つある。

 まずは、単純魔術製合成生命体。これは主に、戦闘用、局地労働用など人体では危険を伴い行えないに使う。機械のように、設置に経費や時間を伴わない上に、ある一定以上の自立思考が可能なため、上述のような単純な雑務には最適、とまではいかないものの、向いてはいる。

 しかしながら、欠点も多くある。

 一つ目は食事、衛生などの生活面だ。魔術製合成生命体とはいえ、有機生命体であることには変わりない。有機生命体であるならば当然、食事もするし、寝もする。食事については現地で調達できるように調整すれば良いし、睡眠はローテーションを組めばいい。

 一番厄介なのは健康面だ。機械のように解体して点検するわけにはいかないし、そのまま捨ておけば、伝染する可能性がある。まぁ、患部を取り除いて、残った部分を、言い方が悪いがリサイクルしてしまえばそれでいい。患部を発見したり、患部をどう処理するかなどの問題はあるが、結局のところ、問題は一つに集約される。

 要は、資金面だ。食事を調達する個体にしろ、ローテーションを組む個体にしろ、患部を処理する個体にしろ、作るにはお金がかかる。一体一体の材料費、技術費はそう安くはない。逆に言えば、資金さえどうにかすれば便利なことこのうえない道具なわけだ。

 二つ目は、ある程度自立思考は可能だが、誰かしら命令する人間がいないと成り立たない、という点だ。

 人間と指揮するにも、ロボットを管理するにも上に立つ人間というものは必要なのだから、欠点とはいえないかもしれないが、命令しなければならない量が半端無い。

 人間ならばミスをすれば、思考してフォローする。ロボットならば一度プログラムすれば、終わることなく続ける。でも、単純魔術製合成生命体は違う。人間のようにミスをしても何も思わない。ロボットのように続けることはない。毎日、毎日のように新たに命令を更新しなければ動くことを忘れる。そんな奴等だ。

 だから、指揮をするやつらは単調な日々にノイローゼや精神疾患を引き起こすケースがいくらか報告されている。よって、これは間違いなく欠点としてあげておくべきことになのだろう。

 三つ目は、これがもっとも危険な問題だが、暴走の可能性。

 指揮する人間がノイローゼや精神疾患を引き起こす件数ほど多くはないが、数件ほど報告されている。かくいう俺も一度、暴走させた経験がある。

 その時のことは俺の汚点だから多くは語らないが……精度には関係無く量を多く、具体的に言えば平均して10体以上を同時に作ると暴走する可能性が非常に高くなる。

 相互的に何かしらの干渉をして、生成された後に変性を起こすと俺は仮定し、色々研究したが、結局途中で飽きてやめた。

 というわけで、テメェがいくら考えてもわかんないだろうから、とりあえず作るなら8体くらいで作るのやめとけ。まぁ、8体も作れたら上出来だ。俺みたく1000体を同時に作れるはず無いしな。

 さて、魔術製合成生命体のもう一つの分野、複雑魔術製合成生命体についてだ。複雑とついているのは単に単純と対称比較するためにつけられたもので、複雑魔術製合成生命体は複雑なんてレベルではない。

 魔術式で説明するなら、単純魔術製合成生命体ね魔術式の約2695.196倍に相当する量が必要となる。

 この俺でさえ一生に一度書けば、もうそれでうんざりできる量だったな。二、三回はやったけど。

 そして、製作に掛かる時間は平均して――もちろん俺を除いた平均所要時間は約192時間。勿論連続の作業詰めだ。おおよそ一人でやることは無理だろう。かといって複数名でやれば、シンクロナイズしなければならない。この難しさは、説明するまでもないか。複雑魔術製合成生命体をつくるより、思考の同率稼働のほうが難しい。

 あと、資金面も掛かる量は尋常ではない、国家予算レベルの資金が動く。まぁ、言ってしまえば限りなく人間の価値なんてその程度の金額でしかないってことなんだが。

 以上のことから実施は不可能と考えるべきだろうな。

 しかしながら、こいつらは人間と言っていいような、いや、分類上人間とされるべき精巧さを持ち合わせている。大量生産できないという欠点は生まれたが、制作者の成すがままに特性を持ち、望めば望むものに絶対服従、このメリットはかなり大きい。自分の身体能力より高いものを心の底から服従させている。人間のように裏切りはしない。

 これは人間では無理なこと、金では絶対買えないものを、金で作り上げるのだから、画期的と言えば画期的ではある。まぁ、信用さえも商品にするとは愚か、という意見は少なくない。

 こう説明してみたが、結局、これは世界条約で禁止されるであろう行為だ。多分、俺が死んだ後なんだから既に禁止されているだろうな。

 理由を説明すれば当然のことだろうな。言い訳ができないほどに。俺としてはケース・バイ・ケースで認めてもいいと思うんだがな。

 まぁ、それは後世の人間に任せるとして、理由の説明に入る。

 それは材料だ。

単純魔術製合成生命体の材料は主に炭素原子、水素原子、酸素原子……その他、まるで錬金術でもするかのような感じだ。それにくらべ複雑魔術製合成生命体の材料は色々細かいものはあるが主要なのはたった一つ。まぁ、これが問題なわけだが……。俺は小説家じゃないから、引っ張るのはやめよう。複雑魔術製合成生命体の材料、それは……『人間一体』だ。

 国際条約で禁止されるのも当然だな。

 それでは次に作り方について――……。




 ……………………

 …………

 ……




 

   ―●―


 僕はそこで本の内容を思い出すのをやめた。

 まったくもってキモチワルイ内容だ。キモチワルイ内容のはずなのに……なぜだろう?このしっくり来るような感覚は。

 キモチワルイ

 キモチワルイ

 キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ……

 僕はもう限界だった。

 吐き気がする。

 僕は……確かめようと、榎凪に確認しようとし、走り出そうとして辞めた。



 内容から察するに複雑魔術製合成生命体である僕は一体……誰だったのだろうか?


 ワカラナイ

 キモチワルイ

 ワカラナイ……


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